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色とりどりの想いをこめて

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 迷い込んだのが、一面炎の海だとか、敵だらけの部屋だとか、そういうのだったらマシだったし、クッパに対して、今までどおり嫌なやつだというだけの印象を曲げずにいられたのかもしれない。そりゃもう、足場のないマグマの海でも、ワンワンがごったがえしてる部屋でも、何でもよかった。今目の前に広がってる、妙な光景に比べたら。
 「……なにしてんの?」
 仮にも、そこは気の抜けないクッパ城の一角である。それなのに僕といったら、そんな間抜けな声を出すのが精一杯だった。いつもみたいにピーチ姫がさらわれたから、いつもみたいに助けに来た。そこまでは威勢がよかったのに。
 一気に気が抜けた。その光景に言葉を忘れて、やっと声を振り絞ったら、背中を向けてなにかしていた様子の憎いあいつはようやく顔を上げた。
 「お?……おおおお!?マ、マ、マリオ!な、なぜここに!!」
 僕の声で初めて僕の存在に気付いたようだ。憎いあいつ――クッパは、顔を上げるや否や僕以上に素っ頓狂な声を上げた。なぜここにって、お前。姫さらっておいて、そりゃちょっと油断しすぎじゃありませんか。僕の予想とは裏腹に、僕が来ることをまるで予想していなかったような、それはもう本当に油断しきったクッパの姿が、そこにあった。
 しかし、その風景のきらびやかなこと!いつもは、マグマだの岩だの、危険な場所でばかり対峙していた僕とクッパのことだから、こんなところでクッパを追い詰めるだなんてまるで前代未聞だった。まったく、だれが想像できるというのだろう。クッパ城の一角、中庭らしきその場所で、たくさんの色とりどりな花に囲まれている、キノコ王国のヒーローと、そしてその宿命のライバルの絵面なんて!
「マリオ…?あら、マリオじゃない!」
 そんな状況だけでも人生に一度あるかないかのことなのに、僕とクッパの間の短い静寂を破る愛らしい声もまた場違いなものだった。クッパの隣、春風に揺らめく花の間からひょっこりと顔を出したのは、他でもない、ピーチ姫。本来ならば僕に助けを求めるのが普通である彼女は、僕を見つけてなんとも嬉しそうな顔をした。その顔は、分類するならば「助けを求め続けて、ようやく救ってくれる人が現れた」ときの類ではなく、「楽しいひと時を過ごしている時に、さらに自分の好きな人が現れた」というにふさわしいものだった。一面に咲いた花をいくつか摘んだのであろう、彼女の腕の中に抱かれた花が、僕に駆け寄ってくる彼女に合わせて、ふわふわと光の色をまきながら揺れた。
「あの、姫、いったいここで何を……」
「何って、お花のお世話ですわ」
「そ、そうですか。その、お怪我は?」
「え?怪我?何でですの?」
 ピーチ姫がさらわれた!なんてキノコ王国がひっくり返るような大騒ぎになってたから(いつものことだけど)急いで駆けつけたのに、当の本人はクッパ城には場違いなお花畑で、楽しそうに花の世話なんてしている。どうも彼女は何か勘違いをしているらしい。――いや、勘違いをしているのは、もしかして僕のほうか。
「……クッパ」
 なんにせよ無垢な笑顔を向けられてしまえば、それ以上姫に問うことは出来ない。そうと決まれば、僕の怒りの矛先はもちろんクッパに向けられた。
「おまえ、姫をさらっておいて、なにをのんきに楽しんでるんだよ」
「ばっ、バカを言え!さらってなどおらんだろうが!」
「はぁ?キノコ城が大騒ぎしてて、おまえんところに姫がいる以上、さらった以外の何になるんだよ!」
「な、なんで大騒ぎになっているのだ!ワガハイはちゃんと」
「あら?わたくし、言っていませんでしたっけ?」
 僕とクッパの言い争いをぴたりと止める、ピーチ姫の声。次第に大きくなっていく僕らの声よりも大きいわけでもないのに、彼女の声がその場に響くと、僕もクッパも、瞬間的に口をつぐんでしまう。僕らをそうにまでさせる、魔法使いのような彼女は、心外だ、と言わんばかりの顔をし、何かを思い返すように空を見上げた。かと思えば、花にも負けないような優雅な笑顔をこちらに向ける。
「これは外交ですのよ、マリオ」
「は。が、外交、ですか」
「ええ。たとえクッパといえどもキノコ王国の市民。正式に城へお招きされれば、もちろんお伺いいたしますわ」
 まぁ、クッパは正式に王と認められてはいませんから、外交というのとはちょっと違う気がしますが。とピーチ姫はまた微笑む。僕は全身から力が抜けていくのを感じた。そうじゃない。問題はそこじゃなくて。
「あの、姫?僕、聞いてませんけど、そんな話」
「うーん、ちゃんと大臣にお伝えしたはずなのですけど」
 おかしいですわね。とピーチ姫は首を捻った。一抹の不安を感じて、僕は問いかける。
「あの、大臣には、なんて?」
「すこしクッパのところに行って来ます、とお伝えしました」
「あ、そう…」
それじゃなにも伝わってないだろう!と、僕は心の中だけで突っ込みをいれた。やっぱり思ったとおり。姫はいつもこうして、どこかしらがマイペースで、ちょっと抜けてる。
「正式なお招きってことは、クッパがさらいに、じゃなくて、誘いに来たんですか?」
「ええ。花が咲いたから見に来てくださいと、ご丁寧に誘ってくださったものですから」
「ごていねいに、ね…」
 なんとなく話が見えた。クッパが、なぜ姫をさらいにではなく誘いに来たのかはいささか疑問だが、とにかくずかずか城に上がりこんで姫を誘ったのだろう。姫も姫で天然だから、二つ返事で了承して、クッパの登場に慌てふためく大臣に、そりゃもうその通り『すこしクッパのところに行って来ます』と言ったんだろう。もちろんそんな言葉を大臣が聞いているはずもなく、まもなく僕が呼び出されて、姫がクッパにさらわれたということになってしまった。そんなところだ。
 いやいや、まてまて。それで納得しちゃいけない。姫の天然は今に始まったことではないとしても、クッパもクッパだ。誘いにきたってどういうことだ。
 疑問を、おおかたそんな感じで姫に伝えたら(もちろん天然云々のところは省略して)、またもや耳を疑う答えが返ってきた。
「それはね、マリオ。以前、わたくしがさらわれたとき、クッパに言いましたの。わたくしに、城に来て欲しいのならば、力ずくではなく、正式にお誘いくだされば、喜んで参りますわ、って」
「うむ、姫の言っていることに間違いはないぞ。だからこうして、正式に遊びに来てもらったのだからな!」
勝ち誇ったようなクッパの笑いが耳障りだ。自分を正当化させようったってそうはいかない。けれど、姫がそういう以上は、僕に反論の余地はこれっぽちもなかった。がっくりと肩を落としてため息をつく僕を見て、気分をよくしたのだろう、クッパが僕の背中をばんばん叩いて豪快に笑った。
「そういうわけだ、マリオ!だから今日のところは、お前とやりあうつもりはない!まぁ、姫もまだ返さんがな!ガハハハハ!」
「あらあら、いつ帰るかを決めるのはわたくしですわ。それはお忘れにならないでちょうだいね」
「む、むむ、そうか。そうだナ」