GUNDAM ALTERNATIVE 第1話[OUTSET]
・南米エリア‐某村部0100時
怒号がその青年の耳を打った。
「さっさと運べ!!」
小銃を持った兵士達が目前で弾薬ケースを運ぶ村民を見張っていた。村民たちは最低限の食料と睡眠だけが与えられ、後はただひたすら塹壕掘りと装備の運搬を強要されるばかりだった。その青年も朝から見飽きた弾薬ケースを両手に倉庫に運んでいた。 ふと数年前を追憶する。 あの時はまだ村に光があった、決して豊かではなかったが家族がいた。妹が居、親が居、祖母が居た。それだけではない、村の人々も豊かさとは違う幸せな生活があった。 しかし今は・・・。 青年は回想を中断する。現実を思うと絶望感と疲労感が心を巣食い、健全な思考ができない。 現実は景色だけで十分だ。 青年がケースを弾薬庫に運び終わると同時に背後で鈍い音が聞こえる。振り返ると、二、三人後ろで老人が倒れていた。見張っていた兵士は煙草を投げ捨てると、唐突に銃低で殴りつける。老人は苦悶の表情を浮かべて言った。
「すみません。すぐに運びます・・・」
兵士は口を皮肉っぽく歪めて言った。
「我らの革命は自由の一歩だ」
老人はよろよろと立ちあがると再びケースを持ち上げる。何が革命だ。青年は弾薬庫から出ると冷ややかな目線で兵士たちを見た。先ほどの兵士、かつて民家だった廃屋では酒をあおっている兵士、少し離れた所では命令に服従しない人を二人がかりで虐待している兵士もいる。 これが革命の兵士達なのか。失望の心はやがて復讐心に代わる。そうだ、終わらせる。こんな奴等。 青年はズボンのポケットに忍ばせた発信機をさすった。
*
・南米‐上空1200m-輸送機C-17格納庫内部
漆黒の闇、そこから唐突に現れる光。それが自分に迫り・・・。
「っ!」
まただ、あの感覚。隙を見せるとやってくる。動悸が激しくなり、背中に嫌な汗が滲む。深夜の作戦ということもあり多少のまどろみに身を任せようとした瞬間にあの感覚がやってくる。 まるで発作のようだ。あの時からずっと・・・。 マットは荒れる息遣いを正常に戻すように努めた。コクピット内は待機モードということもあり最小限の照明で照らされていた。仰向けになっている機体のコクピット内に唐突に入電が来る。
「また、居眠りかぁ?マット」この横柄な声の主はダニエル・ワイズマン。マットと同じ部隊の人間だ。年齢は同じだが新参者であるマットに何かと突っかかってくる厄介な同期だ。
「居眠りなんかじゃ・・・」
マットが反論しようとすると無線で割り込みが入る。
「機体のチェックは終わったのか、両名」
落ち着き払った声の主はスティーブン・ハリス。この部隊の隊長を務める人物だ。見るからに古強者のような雰囲気を醸し出す人物だ。多くは語らない、多少近寄りがたい人物だ。
「もうすぐ作戦時刻だ、気を引き締めろ」
隊長が釘を刺す。
「へいへい」
「了解・・・」
現在、スティーブ隊長以下309試験科部隊は輸送機C-17で南米の村部に向かっていた。
「今回の作戦の再確認を行います」
薄暗いコクピットにオペレーターの声が響く。
「今回の作戦は南米エリアの村部の開放が目的になります。敵対勢力の兵力はMBT及び軽戦闘車両です。本機から降下した後に作戦区域まで移動、民間人に注意しつつ敵勢力を排除してください」
「民間人の避難誘導は?」
「現地工作員が避難誘導にあたっています」
「それはそれは、ご丁寧に」
ダニーが軽口を叩く。
「なお本作戦はEMS-07の空挺作戦の試験も兼ねています、くれぐれも機体の安全を第一によろしくお願いします」
通信が終わった。「機体第一、安全第二ってか?」
ダニーうんざりしたように言った。
「安心しろ、お前たちをやらせはせん、その代わり、俺の手を煩わせるなよ」
「まぁ、装甲車両を使っているようじゃ、楽勝だな」
実戦投入から五年が経ったモビルスーツは今でも一部の先進国が運用している高級な兵器だ。ゲリラ組織に払い下げられるほどチープな兵器ではない。
「油断してMBT(主力戦車)の鼻先に立つなよ、主砲のHEAT弾(成形炸薬弾)をまともに喰らえば、このモビルスーツの複合装甲とてまともに防ぎきれるわけではあるまい」
元来、モビルスーツは敵の不意を突いた強襲用の兵器なのだ、その機動性を発揮するためには装甲を厚くするわけにはいかない。よって、モビルスーツが戦車を相手にする場合は遮蔽物に機体を潜ませつつ攻撃するのが定石なのだ。
「現地工作員というのは?」
「恐らく現地で買収した奴のことだろう。ああいった閉鎖的な組織では見慣れない奴はすぐにバレてしまう、こちらから送るよりも向こうで買収したほうがリスクも少ないし、最悪の場合、切り捨てることも簡単だ」
買収された人間は一体どう思っているのだろうか、今回の介入行動で南米の情勢不安が解消されるとは思えない。その人はどのような思いで買収の交渉の席についたのだろうか。だがそんなことは考えるべきではない。自分たちには関係ないことだ。マットはそう思い聞かせることにした。
「まもなく、作戦時刻に入ります、起動の後にチェック」
再度オペレーターからの入電が来る。マットは機体の起動操作に取り掛かる。モニターが明るくなり、輸送機の内装を表示する。各種計器類に光が灯る。機体各部のアクチュエーターの駆動音が響き、コクピットが微かに震える。マットは次にHUDを被る。このHUDは一見するとヘルメットのようだが、バイザーの部分には戦況や機体の状態が投影される。機体と直結型のヘルメットだ。HUDは機体各所に異常が無いことを告げた。
「スティーブン、一号機、問題なし」
「ダニー、二号機、問題ねーよ」
二名の複唱に続いて言う
「マット、三号機、問題ありません」
背面カーゴベイが開きモビルスーツの射出体勢が整う。
「作戦開始まで5、4、3、」
操縦桿を握る手に力が籠る。
「2、1、作戦開始!!」
MSの背面に搭載したパラシュートパックがレールの上を滑り、機体は空中に投下される。マットたちのモビルスーツは漆黒の密林にダイブしていった。
*
・C-17コクピット内部
「モビルスーツの投下を確認」
パイロットの一人が複唱する。
「今のところは順調だな」
作戦司令部のウィリアムがつぶやく。
「どうです。新作は?」
彼の隣から自信に満ちた声が聞こえる。
「資料によると優秀な機体だそうだが、モビルスーツで空挺作戦とはな。時代は進んだ」「高度からの落下でも最新式の人口繊維筋肉で十分耐えきれます。それに加えオプションパーツを装備することによって様々な作戦に対応できます」
ウィリアムは一通り説明を聞くと、横目でその人物を見やる。
「しかし、こんな機体を設計したのが君のような若いお嬢さんだとは予想外だったな」
栗色のショートヘアの女性は微笑みながら言った。
「適職に就いただけです。あとお嬢さんはちょっと・・・」
「これは失礼した」
ウィリアムはやや後退した頭を掻きながら言った。
怒号がその青年の耳を打った。
「さっさと運べ!!」
小銃を持った兵士達が目前で弾薬ケースを運ぶ村民を見張っていた。村民たちは最低限の食料と睡眠だけが与えられ、後はただひたすら塹壕掘りと装備の運搬を強要されるばかりだった。その青年も朝から見飽きた弾薬ケースを両手に倉庫に運んでいた。 ふと数年前を追憶する。 あの時はまだ村に光があった、決して豊かではなかったが家族がいた。妹が居、親が居、祖母が居た。それだけではない、村の人々も豊かさとは違う幸せな生活があった。 しかし今は・・・。 青年は回想を中断する。現実を思うと絶望感と疲労感が心を巣食い、健全な思考ができない。 現実は景色だけで十分だ。 青年がケースを弾薬庫に運び終わると同時に背後で鈍い音が聞こえる。振り返ると、二、三人後ろで老人が倒れていた。見張っていた兵士は煙草を投げ捨てると、唐突に銃低で殴りつける。老人は苦悶の表情を浮かべて言った。
「すみません。すぐに運びます・・・」
兵士は口を皮肉っぽく歪めて言った。
「我らの革命は自由の一歩だ」
老人はよろよろと立ちあがると再びケースを持ち上げる。何が革命だ。青年は弾薬庫から出ると冷ややかな目線で兵士たちを見た。先ほどの兵士、かつて民家だった廃屋では酒をあおっている兵士、少し離れた所では命令に服従しない人を二人がかりで虐待している兵士もいる。 これが革命の兵士達なのか。失望の心はやがて復讐心に代わる。そうだ、終わらせる。こんな奴等。 青年はズボンのポケットに忍ばせた発信機をさすった。
*
・南米‐上空1200m-輸送機C-17格納庫内部
漆黒の闇、そこから唐突に現れる光。それが自分に迫り・・・。
「っ!」
まただ、あの感覚。隙を見せるとやってくる。動悸が激しくなり、背中に嫌な汗が滲む。深夜の作戦ということもあり多少のまどろみに身を任せようとした瞬間にあの感覚がやってくる。 まるで発作のようだ。あの時からずっと・・・。 マットは荒れる息遣いを正常に戻すように努めた。コクピット内は待機モードということもあり最小限の照明で照らされていた。仰向けになっている機体のコクピット内に唐突に入電が来る。
「また、居眠りかぁ?マット」この横柄な声の主はダニエル・ワイズマン。マットと同じ部隊の人間だ。年齢は同じだが新参者であるマットに何かと突っかかってくる厄介な同期だ。
「居眠りなんかじゃ・・・」
マットが反論しようとすると無線で割り込みが入る。
「機体のチェックは終わったのか、両名」
落ち着き払った声の主はスティーブン・ハリス。この部隊の隊長を務める人物だ。見るからに古強者のような雰囲気を醸し出す人物だ。多くは語らない、多少近寄りがたい人物だ。
「もうすぐ作戦時刻だ、気を引き締めろ」
隊長が釘を刺す。
「へいへい」
「了解・・・」
現在、スティーブ隊長以下309試験科部隊は輸送機C-17で南米の村部に向かっていた。
「今回の作戦の再確認を行います」
薄暗いコクピットにオペレーターの声が響く。
「今回の作戦は南米エリアの村部の開放が目的になります。敵対勢力の兵力はMBT及び軽戦闘車両です。本機から降下した後に作戦区域まで移動、民間人に注意しつつ敵勢力を排除してください」
「民間人の避難誘導は?」
「現地工作員が避難誘導にあたっています」
「それはそれは、ご丁寧に」
ダニーが軽口を叩く。
「なお本作戦はEMS-07の空挺作戦の試験も兼ねています、くれぐれも機体の安全を第一によろしくお願いします」
通信が終わった。「機体第一、安全第二ってか?」
ダニーうんざりしたように言った。
「安心しろ、お前たちをやらせはせん、その代わり、俺の手を煩わせるなよ」
「まぁ、装甲車両を使っているようじゃ、楽勝だな」
実戦投入から五年が経ったモビルスーツは今でも一部の先進国が運用している高級な兵器だ。ゲリラ組織に払い下げられるほどチープな兵器ではない。
「油断してMBT(主力戦車)の鼻先に立つなよ、主砲のHEAT弾(成形炸薬弾)をまともに喰らえば、このモビルスーツの複合装甲とてまともに防ぎきれるわけではあるまい」
元来、モビルスーツは敵の不意を突いた強襲用の兵器なのだ、その機動性を発揮するためには装甲を厚くするわけにはいかない。よって、モビルスーツが戦車を相手にする場合は遮蔽物に機体を潜ませつつ攻撃するのが定石なのだ。
「現地工作員というのは?」
「恐らく現地で買収した奴のことだろう。ああいった閉鎖的な組織では見慣れない奴はすぐにバレてしまう、こちらから送るよりも向こうで買収したほうがリスクも少ないし、最悪の場合、切り捨てることも簡単だ」
買収された人間は一体どう思っているのだろうか、今回の介入行動で南米の情勢不安が解消されるとは思えない。その人はどのような思いで買収の交渉の席についたのだろうか。だがそんなことは考えるべきではない。自分たちには関係ないことだ。マットはそう思い聞かせることにした。
「まもなく、作戦時刻に入ります、起動の後にチェック」
再度オペレーターからの入電が来る。マットは機体の起動操作に取り掛かる。モニターが明るくなり、輸送機の内装を表示する。各種計器類に光が灯る。機体各部のアクチュエーターの駆動音が響き、コクピットが微かに震える。マットは次にHUDを被る。このHUDは一見するとヘルメットのようだが、バイザーの部分には戦況や機体の状態が投影される。機体と直結型のヘルメットだ。HUDは機体各所に異常が無いことを告げた。
「スティーブン、一号機、問題なし」
「ダニー、二号機、問題ねーよ」
二名の複唱に続いて言う
「マット、三号機、問題ありません」
背面カーゴベイが開きモビルスーツの射出体勢が整う。
「作戦開始まで5、4、3、」
操縦桿を握る手に力が籠る。
「2、1、作戦開始!!」
MSの背面に搭載したパラシュートパックがレールの上を滑り、機体は空中に投下される。マットたちのモビルスーツは漆黒の密林にダイブしていった。
*
・C-17コクピット内部
「モビルスーツの投下を確認」
パイロットの一人が複唱する。
「今のところは順調だな」
作戦司令部のウィリアムがつぶやく。
「どうです。新作は?」
彼の隣から自信に満ちた声が聞こえる。
「資料によると優秀な機体だそうだが、モビルスーツで空挺作戦とはな。時代は進んだ」「高度からの落下でも最新式の人口繊維筋肉で十分耐えきれます。それに加えオプションパーツを装備することによって様々な作戦に対応できます」
ウィリアムは一通り説明を聞くと、横目でその人物を見やる。
「しかし、こんな機体を設計したのが君のような若いお嬢さんだとは予想外だったな」
栗色のショートヘアの女性は微笑みながら言った。
「適職に就いただけです。あとお嬢さんはちょっと・・・」
「これは失礼した」
ウィリアムはやや後退した頭を掻きながら言った。
作品名:GUNDAM ALTERNATIVE 第1話[OUTSET] 作家名:josh