GUNDAM ALTERNATIVE 第1話[OUTSET]
「どうやら、こいつはNER(ユーラシア統合共和国)のMSで間違いないですが登録番号が抹消されています。直接の譲渡品ではなく第三者が仲介に入ってゲリラに売買された可能性があります」
マットが倒した敵モビルスーツのコクピットから分析官が結果を知らせた。説明を聞いているのはウィリアム作戦司令官だ。
この機体はMMP-06[グリンカ]と呼ばれる機体だった。NER軍の主力機であり生産性と操縦性に優れた量産型モビルスーツだ。マットが突き刺したAMKの刀身は奇跡的にコクピットを避けており、こうして分析を行っているのだ。パイロットは軽傷を負い、捕虜として連行されていった。
「まったく、誰だよ、戦車が相手だって言った野郎はよ」
ダニーはゲリラたちの倉庫から失敬した発泡酒をあおりながら言った。マットたちは村に戻りモビルスーツの回収作業の終わりを待っていた。
「いつだって物事が情報通りとは限らん。いい勉強になったじゃないか」
隊長は煙草に天使の彫刻の入ったライターで火を点けながら言った。
「情報部の連中はもっと仕事してほしいものですがね。それよりもマット、敵を殺り損なったてな。やっぱり怖いか?落ちこぼれには」
ダニーの思わぬ攻撃にマットは押し黙るしかなかった。
「マットのおかげでモビルスーツの分析ができる。これで裏で操ってた連中に少しは近づけるかもしれん、汚点と決めつけるにはまだ早い」
隊長が煙草の煙を空に向かって吹いた。
すると、
「一服中に申し訳ございませんが」
現場では残念ながら聞き慣れない女性の声がした。
「あなたは?」
隊長は煙草を律儀にケースに入れて対応した。
「私はEMS-07の開発責任者のアメリア・セロンと申します」
「開発責任者というと、エリゴール社の?」
「そうです。今回の空挺試験に同行させていただきました」
エリゴール社と言えば現在は大手の軍需製造企業でモビルスーツの開発を行っている数少ない企業でもある。
「へぇ、可愛いじゃん」
早速ダニーお得意の口説きモードに入る。
「すみません。現場の犬とのお付き合いはお断りしていますので」
アメリアは軽くあしらい咳払いして続けた。
「この機体は我が企業の最新技術を結集したモビルスーツです。そのためにその手のエキスパートを集めたそうですが・・・三号機に乗っていたのは誰ですか?」
「自分です」
マットは恐る恐る言った。するとアメリアはマットを睨み言い放った。
「どうして訓練部隊で負け犬と称されたあなたが実戦部隊に配属されたかは分かりませんが、モビルスーツだけは鹵獲されないように。万が一に備えて整備班にはあなたの機体には脱出装置から自爆装置の取り換えを提案してみましょうか」
一通りまくし立てた後、彼女は踵を返して、失礼、と言い残して回収艇の方に去って行った。
「なんだぁ、あの女ぁ、黙って聞ぃてりゃ好き勝手言いやがって。ありゃ、あれだな。アーセナルレディ(火薬庫女)だな!」
ダニーは聞えよがしに言ったが彼女は何の反応も示さずに回収艇に乗り込んだ。マットは彼女の姿をただ見送っていた。反論も言い訳のセリフも無い。事実なのだ。落ちこぼれだったことも、負け犬と呼ばれていたことも。隊長の怒鳴り声とダニーとアメリアの皮肉が頭の中で木霊す。
「そろそろ撤収だ。行くぞ」
隊長とダニーが回収艇に乗り込もうとしていた。マットも後に続こうとすると、
「あんた、機体に3って書いてあったのに乗ってた奴か?」
振り向くと、そこには村人の一人であろうか青年の姿があった。
「そうだ」
情報漏洩を気にして、答えていいのか一瞬迷ったが答えてしまった。すると青年は手を伸ばした。マットはそれを受け取る。それは冷えたダニーが飲んでいたものと同じ発泡酒だった。
「ありがとうな、あんたらのおかげでまた村を元に戻すことができるよ」
青年は屈託の無い笑みを浮かべた。
「ありがとう、これからも頑張ってくれ」
マットもややぎこちない笑みを浮かべて言った。
*
・C-70 内部
「あっ!マット!てめぇ何冷えたビール飲んでんだ!」
ダニーは発泡酒をあおるマットに詰め寄った。
「いいじゃないか。明日までは休暇だ」
「そういう問題じゃなくてなんでてめぇだけが冷えたビール持ってんのかって聞いてんだよ!!」
マットは窓の外に見える朝日を見て微笑んで言った。
「重要機密さ」
END
作品名:GUNDAM ALTERNATIVE 第1話[OUTSET] 作家名:josh