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君まであと、

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「えぇ、実はあの装置とってもお利口さんでして、悪意有りと見なされた場合は、ここまで御生還されることは、その、困難かと…」
そう言って視線を逸らした菊の濁された言葉尻や、わざわざ生還という言葉を使ってくるあたりに、あのトラップが本気を出した場合のえげつなさが感じ取れる。まあお利口ね制作者にそっくりだこと、と笑って返して、フランシスはちょっと目頭を押さえた。もうやだこわいこの図書館。
「あっ、ところでフランシスさん」
淀んだ空気を霧散させるためか、パンと手を打った菊の声のトーンが上がる。
「アーサーさんを探しておられたのでは?」
「…え、あぁうん、そうね。そうだった」
持ち場を離れた挙句に罪もないみんなの麗しのお兄さんを危険な目に遭わせておいて一体どこに何の用があるっていうのかなあの眉毛は、と恨みたっぷりに一息で言い募る、程の元気はなく、単に一言どこに行ったの?と力なく聞くと、菊は気遣わしげに眉を下げた。
「大丈夫ですよ、ただの即効性のしびれ薬です」
「ああそんなものが塗られてたのね聞きたくなかったですていうかちょっとわざとでしょ菊ちゃん!」
間違いなく誠実で控えめな好青年ではあるのだが、時たま掴みどころのない一面を覗かせることもある菊は、この時も悪びれる風なく笑って、本当はしびれるだけではないのですが、と笑顔で追い打ちをかけてくる。
「聞きますか?」
「聞きませんお腹いっぱいです!」
ぶんぶん首を振って聞きませんアピールにしっかり耳まで塞いだのだが、アーサーさんですが、とくぐもって聞こえた菊の次の言葉に反応して、すぐにぱかりと隙間を開けてしまった。当然のようにそれを見越していたのだろう菊は、そのまま間を空けることなく話を進める。
「この時間はいつもお庭にいらっしゃいます」
「…庭?」
この時、フランシスがこの一音に込めた疑問は、何故そんなところに?ではなく、そんなものありましたっけ?というものであった。庭というからには地上に存在しているのだろうという先入観から、フランシスはキョロキョロと周りを見回す。一階の見取り図や、図書館の周囲も思い浮かべてみたが、それらしきものはなかったように思う。
もしかして此処から離れたところにあるの?と聞くと、菊はいいえと首を横に振る。
「館内にありますよ、ご存知ありませんでしたか」
「知らなーい。えっ何処にあるの?」
 興味津々に目を瞬かせるフランシスを見て、菊はどこか悪戯っぽい笑みをひらめかせると、それはですねえと頬の近くで人差し指を立てた。
次には当然、東西南北そのいずれかを指し示すだろうと思われた白いたおやかな指先は、しかし予想に反し淀みなく真上、フランシスの、遥か上空へと向けられた。
「屋上、です」





作品名:君まであと、 作家名:たかこ