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エクスキューズミー

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「アキハバラまで行きたいのだが、ここからどう行ったら着ける?」
「秋葉原ですか、ここからならば電車で一本ですが……」
ウェイバーの問いに男は眉間に皺を寄せたまま答え、ウェイバーの手にしているスマートフォンに気付いた。
「ちょっと拝借。ああ、このアプリケーションを使えばきっと道案内の役に立ってくれるでしょう。GPSはONになってますね、ちょっと設定して、と」
男はウェイバーのスマートフォンをウェイバーに画面が見える角度で操作し、最後の入力を終えて画面をタップした。
「あとはこいつがあなたを案内してくれますよ。幸いこの道を真っ直ぐ行けば新宿駅に着きます」
スマートフォン端末を受け取ったウェイバーが男に感謝を述べようとした直後、低い位置から声が聞こえてきた。
「なあなあさくぅ、ワシ今日骨付き肉喰いたいわ」
『骨付き肉、ああ、手羽先ですね』
「そうそうそう、甘辛ぁく煮付けたアレをちゅぱちゅぱ、っと、違うわダァホ。骨付き肉言うたらあの肉やないかい」
『んもう、アザゼルさんはわがままですねえ。わかりましたよ、手羽元にしときますから』
「ニワトリから離れろ言うとんじゃゴルァ! 漫画みたいな骨に付いた、肉汁ジュワワワーって出る肉出さんかい!」
女性が語りかけている方向には彼女が持つリードに繋がれた犬しかいないはずだ。しかしその犬であるはずの生き物に視線をやったウェイバーは少々の違和感を覚えた。
「少なくとも動物ではない、かといってこの自立性は道具には見られないものだ。サーヴァントでは有り得ん。いずれにせよこいつらはただの市民ではないということか。……ん?」
自らの違和感を整理すべく相手に聴こえない程度に呟いたウェイバーの様子は当然ながら男には不審なものに映ったようだった。
「ミスター?」
「ああ失礼。教えてくれて非常に助かった。ありがとう。――ところで、君は『協会』か『教会』の関係者か?」
「いいえ、あいにく小さな事務所を経営しているだけで大きな団体にも宗教にも御縁はありませんが?」
男の返事を聞いて、ウェイバーは眼鏡の女性の足元をちらりと見てから口を開いた。
「そうかね、ならば尚の事気を付けた方がいい。君のか彼女のかは知らないが、使い魔が被っている犬の皮が左後脚付け根から尻尾のあたりまで綻びている」
ウェイバーの指摘を受けて男は眼鏡の女性にアザゼルと呼ばれた犬ではない何かをきつく睨みつけた。アザゼルの喉の奥からひっと悲鳴が漏れる。
「あの様子でこのまま歩かせてはいずれ厄介な連中に嗅ぎ付かれるかもしれない。どんな『事務所』かは知らないが白昼堂々使い魔を偽装させてまで連れ歩くならもう少し丁寧に術を掛けたまえ」
アザゼルを睨みつけていた眼をウェイバーの方に向け、さすがにアザゼルを睨むよりは眼の光を弱めたものの、ウェイバーに対して不審と警戒を隠さないまま男は尋ねた。
「あんた、何者だ?」
男の問いにウェイバーはふん、と鼻を鳴らし、自嘲を隠さずに答えた。
「なりたいモノに未だなれない、並以下のつまらん魔術師(おとこ)さ」
ウェイバーは男に片頬歪める程度の微笑みを見せ、先程示された駅の方角へ歩き始めた。背後に男の不機嫌な声と女性の慌てた声、そしてアザゼルの断末魔にも似た悲鳴が聞こえたが聞いていないことにした。忠告はしたし隠す気もないのであればこれ以上関わる謂れもない。

駅が見えてくる頃にはウェイバーの思考は秋葉原で買うゲームの事で支配されていた。あのアドミラブル大戦略IVにも匹敵するという前評判のタイトルをはじめ、購入リストは軽く十を超える。
「もし受肉してたら老眼鏡掛けてでもゲームやってたのかな」
二十年前にウェイバーの心に大きなものを遺していった征服王。何もかもスケールの大きかった彼が対比でひどく小さく見えるコントローラーをちまちまと操作する姿を思い出したウェイバーは笑みを浮かべた。懐かしさとほろ苦さと哀しみとが浮かんだその笑みは刹那のもので直後に表情を戻したが、そこには平生の不機嫌さはなかった。
作品名:エクスキューズミー 作家名:河口