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【臨静】別れを告げる先。

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「あ゙っ……?」
全身が硬直する。
「あっ、しずちゃんお帰りー&お邪魔してまーす★」
さっきまで探していた奴の姿が視界いっぱいに広がる。
「な…んで……?」
横を向いていたうざやの体がクルッと俺の方を向く。同時に指を口元で立てて、
「俺がしずちゃんについて知らないことなんて有るわけないでしょ?あ、強いていうなら夜の顔?((うふっ もちろん合い鍵なんて常備だよ★」
ムカつく野郎だとは分かっていてもムカつく。その言動、表情、全てが。
頭なんか回転しなくたってこういう事態の時に出すべき言葉は解っている。
「死ね。殺ス。」
そんな言葉にだって目の前の男はピクリともしない。呆れたように顎を上げて笑うだけだ。
「まーまー、落ち着いて。全くこのままじゃあホントに今日が命日なりそうだ。」
「死ね、殺ス。」
このまま永遠とリピート再生決定。
「とにかくさ、俺が用もなくしずちゃん家に入り込むわけ…、まぁそれはそれで楽しそうだけど。やっぱり君に誕生日を祝って欲しかったんだよねー。」
相手に喋らす間も与えない。こいつ特有の、俺の嫌いな話し方。
「俺は君を求めているんだよ、人間は全て平等なはずなのにさ、俺は君に、君だけに強く惹かれているんだ。どうしてかな?」
『どうしてかな?』だって?
そんなもの、俺に答える義理はない。
握られた拳に力がこもる。
「10秒だけ我慢してやる、その間にこの家から出ていけ…10……。」
歯が軋むような音をたてるのが全身に伝わる。
そんな言葉に、こいつは動じないなんてわかっているのに。
「俺は人間を愛しているから」
「…9…」
「人間の君に惹かれている」
「…8…」
「ってことは愛の上だよ」
「…7…」
「ね。何だろう?愛の上」
「…6…」
「かぁ。俺には検討もつ」
「…5…」
「かないよ。君には解る」
「…4…」
「かい?しずちゃん。あ」
「…3…」
「そういえばしずちゃん」
「…2…」
「…いt」
「君も俺を求めているでしょ?」

つい、10秒数えていた口の動きがとまる。
「俺がこのまま引くか否かで迷って、バイバイって言ったあの後、俺のことずっと追いかけてたよねー。」
その時の光景は俺だって、嫌でも覚えてる。思い出して頭が痛くなってきた。
「面白くてついつい逃げ回っちゃった★ゴメンね((あごペロ」
思考が止まる。
身体が認めない。
こんなクソみてぇな奴の手の平で躍らされていたなんて、認めたくない。
「いいねぇ、求め求められる。こんなに素晴らしいことはなかなかないよ。」
「黙レ…」
これ以上、こいつの言葉を耳に入れたくない。胸が、締め付けられるように痛くなるから。
「この池袋で手に入っていないもの、あとは君自身だけなんだ。」
グッとアップになるうざい男の顔に危険信号がでているのは分かっているのに、
「ねぇしずちゃん、プレゼントは、君が欲しいよ。」
こいつは知ってか知らずか楽しそうに、愉しそうに、俺の耳元で囁く。
「…し…ね゙……っ!」
やっとのことで振り切った拳は、誰もいない空気の中でかすれた。
それにまったく驚いていないのに、驚いたように避けるうざやが憎くてしょうがない。
「おぉっと、危ないなぁ。んじゃこの家が血みどろの殺人現場になる前に退散しようかな。」
少し残念そうに笑ってみせるうざや。これも又うざい。
「死ぬ゙ま゙で殺しかかる゙」
「んー、それって結局俺死ぬよね?まぁー俺は求められるより、求めた上でジワジワオとしてくタイプだからさっ。いいよ今のうちはツンツンしてくれちゃっても。」
そう言って何事もなかったかのように脇を過ぎ去って行く折原臨也を、俺は目で追うことしかできない。
「あともう一つ、俺は美味しいものは最後までとっておくタイプでもあるから…、覚悟しておいてね★なーんて。」
慣れた手つきで靴をはいてからドアを開ける。
すると今度はしっかり振り返って、
「またね、バイバイ」
イラつく笑顔で去って行った。


この時の俺は、
『またね』という言葉に安堵したなんて、


…きっと、気づかないフリをしていた。

END