東方~宝涙仙~ 壱参(13)
「ううん、フランとお姉さましかいないよ。フランとお姉さまとフランの三人だけ」
「え?」
両足を抑えられたレミリアの頭に何かの爪が刺さる。
「ヅッア"ッ!」
この時レミリアはフランドールの言った言葉が理解できた。
レミリアは爪の刺さる脳でこう再生した。
今足を掴んでる奴の腕の数は二本、そして今頭に爪を刺してる腕が一本。合計三本。
さっき倒したと思ったフランの数は二体。
腕の数からして今存在する相手は二体。
フラン+フラン+フラン+刺してる奴(これもフラン)。
=
もうこれしかない。これしか考えられない。
―禁忌『フォーオブアカインド』
嘗められたものね。この私がまさかこんなトリックに引っかかるなんてね。
まさか四人に分身して奇襲してたなんて、今思えば面白いじゃない。なにが面白いってそんなの、気付けなかった馬鹿な私がに決まってるじゃない。
ははは、さすがにこれは傷つくわ。紅魔館の主のこのレミリア・スカーレットが単純な罠にかけられるなんて。
カリスマ台無しだわ、今こんな冗談言ってる場合じゃないけど。はぁ、相手が二人ならこれ使うしかないわね。
「運命『ミゼラブルフェイト』」
足しか掴まれていないレミリアがスペルカードを取り出す。スペルカードの効果によって暗闇から赤い鎖が伸びてきて、そして二人のフランドールの腕と足を巻きつけた。偽物のフランドールはそのまま消滅し、本物のフランドールだけが身動きを取れない状態で残された。
「!?」
「気を抜いたわね、フラン」
「バカな!これは…」
「運命を決める鎖よ。縛られる運命が決まったようね」
「ぎぃぃ…」
ギシギシと歯ぎしりをたてて鎖に抵抗するフランドールに、レミリアは立ち上がり再び神鎗を向けて構えた。
「次の運命はフランの敗北が選ばれたわよ」
「ぬぅぅ…」
「またもし次姉妹で産まれれたら、その時は仲良くしよう、フラン…」
「お姉…さま…」
正気に返ったように姉を止めようとするフランドール。レミリアは神鎗を後ろに引いて、突き刺す前兆にはいって止まった。
「フラン……。今までごめんね……」
「お姉さま…。今までごめんなさい……」
レミリアが決心し、神鎗を握る腕に力を入れた。お互いの心臓音が高鳴る。緊迫と静寂の暗闇に鎖か神鎗の赤く薄い光を反射して光る粒が、縛られた方の人影の頬から流れ落ちる。それにつられたかのように、槍をかかげた人影の頬からも粒が落ちる。
なんで流れているのかわからない。戦いに決着をつけることなんて幾度となくしてきたのにもかかわらず、今回はお互いが無性に寂しかった。
―サヨウナラ
今この言葉を発したのはどっちかはわからない。
その答えを知るものも今は二人しかいない。
そしてどちらかが消え、一人しか答えをしらない運命になる。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
珍しくレミリアが叫び、神鎗を握る腕にさらに力が加わった。対して、フランドールはもう叫ぶことすらできないほどになっていた。
その瞬間、まさに"乱入"という言葉がふさわしいのだろうか、部屋に光が入り込み二人以外の声が響いた。
「お嬢様!?妹様!?何してるんですか!!」
その声にレミリアは力を込める手を緩め、ぎょっとした表情で光の入り込んでくる場所を見た。
部屋の扉が開いていた。そこには息を切らした一人の女が立っていた。
▼其の壱四(14)に続く
作品名:東方~宝涙仙~ 壱参(13) 作家名:きんとき