Honey Trap
そう言いながらもブラッドの声は怒ってはいない。缶を持つと蓋を開けた。一度も飲んだ覚えの無い茶葉が半分に減っているのを見て苦笑いをする。いつもの定位置に戻そうとした手が止まった。そのままキッチンに向かうと、深夜のキッチンで一人湯を沸かし、ポットを暖め、茶葉に高い位置から湯を注ぐ。砂時計が落ちたと同時に、温めたカップと別のポットに紅茶を注ぎ切った。いつも通りの厳密な淹れ方。立ち上る芳香を楽しむと、カップに口を付ける。
「苦いな・・」
カップを無造作にテーブルの上に置く。
缶に残った茶葉を全て湯気の立つポットに入れてしまうと、甘い匂いが強く漂うキッチンを後にした。
作品名:Honey Trap 作家名:沙羅紅月