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Honey Trap

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アリスは、何度か負傷したエリオットや双子を見ている。親しくなればマフィアといえども負傷して欲しくないと思う。友人が傷付くのを見るのは辛い。

「大丈夫、大丈夫。商談に行くだけだよ。領土の交渉なんだ。」

「それって何処との交渉の話?」

領土交渉と聞いて、自分が此処に戻って来て確認したかった疑惑を思い出す。だが滅多な事は言えない。

「あ? 城だよ。女王と宰相の慌てる顔が早く見たいぜ。それじゃ俺、急ぐから。んじゃな~」

エリオットは走って屋敷内に消えた。
嫌な予感が強くなる。ブラッドがアリスの姿を利用してペーターに近づいたのは間違いない。二人が街で出会ったのは偶然ではない可能性がある。宰相の行動を調べ上げ、偶然を装う事など簡単だろう。ペーターはアリスだと気を許しているが、中身は帽子屋の領主だ。もしも想像しているような事が事実なら、今回の交渉で、ハートの城に与える影響はいかほどのものなのだろうか。自分はどう責任を取ればいいのか判らない。

ブラッドの部屋の扉をノックも無しに勢い良く開け放つ。

「ブラッド、帽子屋へ殴り込みに来たわよっ!この変態スパイ男!」

ブラッドに変化球は通じない。直球勝負だ。大股でスパイ容疑の男に近づく。ずるい手段で手に入れた情報ならば交渉に使わないで欲しい。要求はそれだけだ。

「おや、お帰り。早かったじゃないか。」

本棚で本の探し物をしていたらしいブラッドが、アリスを見る。

「早かったじゃないわよ! 私の振りしてペーターに近づいてどんな・・・・」
「ああ、すまなかった。ちょっとお嬢さんの身体に協力してもらったんだ。言ってなかったかな?」

「聞いてないわ。私はどんな協力をさせられたのかしら?」

とぼけた様な言い草に、抑え切れない怒りが声に含まれる。アリスの配置換えといい、何かとんでもなく悪い事をしているに決まっている。自分達の交渉に有利になるような事を、この男が直々に城に出向いて見逃す筈が無い。

「宰相閣下と楽しませてもらったよ。」

「楽しむ? ペーターと?」

一瞬、言葉の意味の理解に苦しむ。ブラッドの口の端が吊り上がり、腕を掴まれると赤いソファに引き倒された。自身の身体の重みをかけアリスの身体を押さえ込むと耳元で囁く。教えてやろうかと。

「はぁっ・・・」

言葉の代わりに自分の口から出たとは信じたくないような甘ったるい声が漏れる。ブラッドの唇が肌を軽く吸う度に、意思とは関係なく漏れ出てしまう。慌てた。だが止められない。

「君の身体で全てを体験させてもらったよ。今、お嬢さんがどんな風に感じているか手に取るようにわかる。」

見下ろされ吐かれた言葉に、怒りと羞恥で全身が燃えるように熱くなる。他人に、それも異性に快楽の感覚という極めて個人的なものを知られるなど考えもしなかった。此れに勝る屈辱は無いと思われるくらいだ。

「酷い。そんな酷い事、どうして・・」

「あの男の下でどんな風に乱れたか教えて欲しいか?」

無言で首を振る。涙が零れてソファを濡らす。

「信じていたのに。貴方の事、信じていたのに。」

「忘れたのかな? 私は闇の世界で生きる男だ。自分達の利益の為なら利用できる物は何だって利用する。それに、君も知っているだろう? 退屈が嫌いなんだ。翻って面白い事なら多少の面倒事でも自ら動くさ。今回はそれの最たるものだろう? 楽しまない手は無い。お嬢さんも楽しめばいい・・」

バシッ!

ブラッドの頬をアリスが平手で叩く。
アリスの細い首にブラッドの指がかかった。じわじわと力をかけられ気道が締め上げられる。男の顔は無表情だ。細い十本の指が、ブラッドの手を剥がそうとするが全く歯が立たない。秘密を知る者を抹殺する。これまでも平然と行ってきた事だ。今回も例外ではない。意識が朦朧とするアリスの口の中に滑り込んできたそれは抵抗する余裕の無い弱者を蹂躙する。首を締め付ける指を解くと耳元で囁いた。

「私の物になれ。そうすれば見逃してやる。」

マフィアのボスの瞳は、何の感情も含んではいない。酷く咳き込みながら、返事も儘ならないほどに全身で呼吸するアリスをただ冷たく見下ろすだけだ。
激しい呼吸の音だけが響く部屋の中。



まだ息は荒いが随分楽になってきた。ソファの脇に立つ男が片手に持つ杖の意匠で顎を持ち上げられると、アリスは自分を見下ろす男を睨みつける。

「私は、貴方の物にはならない。」

「くく・・ そう言うと思っていたよ。くだらない事に命を懸けるんだな、お嬢さんは。」

杖はマシンガンに変わる。アリスは目を閉じた。その上に再度覆い被さると、

「誰が、直ぐに殺すと言った? 折角だ、私を楽しませてから逝けばいいだろう。」

「嫌よ! これ以上・・」

言葉は途中で遮られ、先ほどよりも激しく口付けられる。アリスの抵抗する両腕を片手で押さえ込むと、もう片方の手がスカートの中に入り込んでくる。

「っ!・・・」

勢い良く上体を起こしたブラッドの口の端から赤い筋が垂れる。自由になった両手で目の前の男の胸を押すと体勢が崩れた。自由になった脚を引き抜き、アリスは部屋の扉まで全速力で走る。扉を勢い良く開けると屋敷の玄関までわき目も振らずに走った。もう少しで屋敷の外に出るというところで後ろから肩を掴まれた。

「アリス、どうしたんだ! 顔に血が付いてるじゃねえか!!」

「お願い放して、エリオット。」

アリスの見たことも無い剣幕に、エリオットは驚いて手を離す。そのまま走り去ってゆくアリスを追わずにブラッドの部屋へ向かった。

「ブラッド、追い掛けなくて良いのかよ。あの様子じゃもう此処へは来ねぇかもしれねえじゃねえか!」

事情を知らないエリオットは、追い掛ける素振りも見せ無いブラッドを責める。

「止めろ、エリオット。お前が思う以上にお嬢さんは脆い存在だぞ。それに、我々と違って替えが利かないんだ。解っているだろう。」

ブラッドは机の上の書類に目を通しながら静かに答えた。エリオットはその言葉に反論できない。だが、それでも納得できずに追いかける。門のところから城へ向かう道を見るとまだアリスが歩いているのが見えた。少し走って、大きな声をかければ届く距離。だがエリオットは少しづつ遠ざかるアリスの背中をただ黙って見ていた。自分の上司が手放すと決めたのだ。その決定は自分にとって絶対なのだ。

「何でだよ。俺にはわかんねえよ。」



ブラッドは久々に紅茶のコレクションを眺めに来たのだが、以前見た時と缶の並びが違っている。一番のお気に入りの茶葉の缶が、無造作に全く別の棚に並んでいた。此処に出入りを許可しているメイドは、こんな命知らずな真似はしない。思い当たる顔は一つだけだ。

「全く、酷い扱いだな。」
作品名:Honey Trap 作家名:沙羅紅月