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春の嵐

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         ◇  ◇  ◇

 星奏学院高等部。昼下がりの理事長室は、静かだった。
 革張りの椅子に長身を預け、眉間に皺を刻み、膨大な量の書類をチェックしている男の姿は、年度が切り替わっても変化のない光景のひとつである。
 吉羅暁彦――昨年の冬、経営難に陥った星奏学院復興のために就任した若き理事長は、学院創立者の末裔でもあった。
『――吉羅暁彦』
 学院創立者の血族は生まれつき、特殊な力を備え持つ。
 それ故に突如、虚空に響いた声にびくりともしなかった。書類を捲る手を休めることなく、冷たい声で言い放つ。
「何の用だ、アルジェント」
 吉羅の声に呼応するかのように、宙に黄金の光が広がった。収束したそれの中から、羽根を持った妖精が飛び出す。
「吉羅暁彦! 大変なのだ!」
 創立者との契約に則り、学院を守護する音楽の妖精――アルジェント・リリは大声で叫ぶ。
「お前の『大変』は、いつだって大袈裟だ。私の気を引きたいならば、ない知恵を絞って、別の手を考えたらどうかね」
「そんなことを言っていいのか? 大学部にいる吾輩の仲間が、とんでもないインボウを聞いてしまったのだ」
「陰謀とはますます大袈裟な。お前の与太話に付き合っている暇はない。とっとと消えろ」
「ああっ、もう……どうしてお前はそうワカラズヤなのだ。日野香穂子にキキが迫っているのだ!」
 香穂子の名前を耳にして、初めて吉羅の手が止まった。
「日野君の身に何か? いや……しかし、彼女のことならば、金澤さんに任せるのが筋だろう」
 妖精は書類の上に胡座をかくと、抗議の眼差しで、契約者の末裔を見上げる。
「だからここに来たのだ! 忘れたのか? 吾輩の声を聞き取れるのは、お前と日野香穂子しかいない。手遅れになっては元も子もないのだ」
「なるほど。……アルジェント、詳しい話を聞こうか」
作品名:春の嵐 作家名:紫焔