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春の嵐

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「日野君の具合はいかがですか」
 ハンドルを握った吉羅が問い掛ける。黒塗りの愛車は、通り向こうのコインパーキングに駐めていた。
「ああ……少し顔色が良くないが呼吸に乱れはないし、落ち着いている。薬が切れれば目を覚ますだろう。ひとまず、俺のアパートに送ってくれ」
 金澤は香穂子を横抱きにしたまま後部シートに滑り込んでいた。首筋に指を当てて脈を取り、慎重に確かめる。
「そうするのが妥当な判断ですね。ですが、容体が急変したら、必ず病院に連れて言ってくださいよ」
「当たり前だろ」
 イタリア製の超高級車は、静かに発進した。

 低いエンジンの音だけが、車内にただ響く。
「……なあ、連中のこと、港南の理事長に話すのか?」
 香穂子の髪を撫でながら、ふと、思い出したように金澤が口を開いた。
「さて、そんな知り合いはいませんが」
「……お前、鬼だな」
「私のことは、どうでもいいんです」
 露骨にげんなりとして見せる金澤の様子をルームミラーで眺めて、吉羅は険しい表情を浮かべる。説教タイムの到来に、金澤が小さく息を吐いた。
「――まったく、何をやっているんですか、金澤さん。しっかりしてください。今回は羽根付きの通報が間に合ったから、大事に到らなかったものの、次は保証できませんよ」
「分かってる。お前のお陰で助かった」
 吉羅の飛び抜けた情報網と各方面へのコネがあったから、ここまで迅速に当該車を発見することができた。
 金澤ひとりでは、車の発見はおろか、事件の発生にすら気付かず、最悪の事態を迎えていた可能性も高い。そんな事態を想像するだけで、背筋が凍り付いた。
「星奏の二人については、後で確認してみます。おそらくは、連中に体よく利用されただけでしょうが」
「そうだな。すまんが、頼む」
「どう説明したって、日野君が傷つくことは避けられないでしょう。ですが、根本的な問題は、もっと深い部分にあるはず。お二人できちんと話し合ってください」
 吉羅の言葉に何一つ反論できないまま、金澤は香穂子の寝顔をじっと見つめていた。


作品名:春の嵐 作家名:紫焔