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戦争の終わり

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 いっそ燃やしてしまえと舌打ちするほど、切り裂かれた左腕は熱を持っていた。喧騒入り乱れる街の中、ライトの強さに吐き気を催す。胃液がせり上がってくる、それを唾液で押し戻し、血液が足りない、と揺れる頭をわざと揺らして、途切れがちな視界を取り戻す。追っ手は一体どこの誰だ? 考えても詮無いことは後回し、逃げ足はまろびつつ、血液流れる左腕を応急処置。薄手のハンカチをナイフで裂いて簡易の包帯。グーとパー、グーとパー、ついでにチョキも何度か繰り返して神経に問題ないことを確かめる。どうやって逃げようか、闇医者の家までは遠い。潜伏場所は十分数用意しているようで、肝心な時に役立たない。血に濡れた右手で携帯を弄くり、現在の位置詳細と周辺の確認。左手に心臓が移動したような、瞳は熱を持ってふとすると倒れてしまいそうだ。路地裏の影、おそらくは見つからないであろう場所で汚い壁に背もたれる。折角のコートが台無しである。数秒の検索の後、逃走場所として携帯が表示した候補地はたったの一件。しかも、おそらくデータベースにある限り最悪の場所である、が。コンマ五秒悩んで、折原は覚悟を決め、ため息を吐いた。
 もつれる足を叱り付けて、誰も知らないであろう細い路地を行ったり来たり、追っ手を撒く。やっと、といっても時計は三分も経っていないのだが、目的地に辿り着いた。比較的新しいマンションの一階、ワンルーム。荒々しい書いた本人の性格を表したような文字で、ネームプレートに「平和島静雄」。部屋の本来の主はこの時間仕事であるとは調査済み。血を付けない様にすっかり汚れたコートで手を拭い、ピッキングを五秒で終わらせ、しかしこの時点でもう左腕からの発熱が酷く頭は朦朧としている状態である、周囲を見渡して追っ手をきちんと撒いたと確認し、扉を開けて中に入って鍵とチェーンを掛ける、その動作を緊張をもって終わらせると、途端極度の貧血と吐き気が折原を襲った。
 平和島は知らないが度々忍び込んでいる部屋である、ユニットバスに駆け込んで、便器にすがるように膝立ち、しこたま胃の中身を吐き出す。平和島の見掛けからは予想も付かない、掃除の行き届いた便器をぐちゃぐちゃにする、背徳を覚える余裕が出来た頃にはもう胃からは胃液しか出て来ない。すえた臭いに更に吐き気が溢れてきて、尻を突いたまま手を伸ばし、吐瀉物をレバー一つで無かった事にする。そして服が濡れるのも構わず水の抜けた浴槽に転がり込み、シャワーで口の中を洗い流し、汚いコートを脱ぎ捨てた。未だ血の染み出る左腕に、出てくるのは苦笑ばかり。この部屋の主の、圧倒的な暴力でさえ流さなかった量の血を、あんなチンピラのナイフ如きで流している。
 血まみれになったVネックも脱ぎ、止血していたハンカチを取る。裸になった上半身に、折原は迷いなく冷水を浴びせた。細身だけれども筋肉質で無駄のない身体。水の掛かった傷口が、更に熱を帯びる。曖昧だった意識が強制的に覚醒する。大雑把にシャワーを浴び、掛かっていたタオルを手に取る。洗面用だろう白いタオルからは、平和島のにおいがした。言うなれば男臭い、たくましいにおい。傷口に当てると白いタオルは血まみれになり、上半身が裸のまま、意識がまた朦朧とする。これまでにどれだけの血を失ったか。浅いナイフは際どい血管を裂いたようだ。大人しくなっていた血の流れが、再びどくどくと溢れ出す。新しいタオルは棚にあっただろうと立ち上がった、しかし一メートル程の上下運動、失った血液の分、頭からさっと血が引いて、駄目だと認識するのと同時、耳を突く震動音はおそらく自分が倒れる衝撃音。それきり、折原は意識を失った。
作品名:戦争の終わり 作家名:m/枕木