いやよいやよも
「ほら、目を開けて」
「ぃやだ」
「なぜ?」
「・・・ヤだから」
「怖いのか?」
意地悪く俺の弟が喉で笑う。
ソファの上。俺は腕で顔を覆い、視界を完全に塞いでいた。夜のシンとした冷気の中で、見えない部屋はとても広く感じる。馴染んだ俺達の家なのに。いつものリビングなのに。いつもじゃない雰囲気が支配しているせいか、寛ぐ筈のリビングはとても居心地が悪かった。
「怖くねぇよ」
「本当に?」
「何だよ。お兄様を信じやがれ」
くつくつ。耳の近くで半身が笑う。
小一時間ほど寄り添った為、密着した箇所だけ温かい。そういえばこの生意気な弟は子供の頃から体温が高かった。服越しに伝わるそれに少しだけ安堵する。
「ッひ」
「どうした?」
「べ、別に何でもねぇ」
「・・・今日はもう止めるか?」
「ばばばばかいえ!」
「別に俺は夜じゃなくても構わない。なんなら明日の昼にでも/」
「こ、こういうのはなぁ!よる、の方が、雰囲気でるんだょ・・・!」
「そうか」
にやにや。瞼の裏でルートヴィヒが笑う。
聞こえてきた音にビビって声が出た。でも、そんなみっともねぇ事、認めたくない。そんな、俺が怖がったなんて。俺がビビったなんて。まして、弟に気遣われて夜じゃなくて昼にしたなんて。
でもさっきの言葉は嘘じゃない。夜の方が何倍も良いって誰もが言ってる。お前だってそう思うだろ?
「そろそろ腕を除けたらどうだ?兄さん」
「・・・ぅう・・・」
「怖いのなら無理はするな。震えている」
「そ、なわけあるか!」
「ならば・・・良いだろう?」
「っやめろ!」
くすくす。愉快そうにヴェストが笑う。
俺の手を掴み、本当に除けようとしてる。
嫌だ。
抵抗しても力じゃ敵わない。瞼に光が透けてくる。何度「やだ」と言ってもヴェストは止めない。寧ろ俺が嫌がればその分執拗に力をこめる。そういうやつだ。そういうやつだった。じゃぁ「わかった」と受け入れれば止めてくれるのだろうか?いや、そんなお優しい精神は持ち合わせていないはずだ。嬉々として進めてくるに違いない。
こんなふうにな!
べりぃ!と音が鳴るかと思うほど勢い良く腕が顔から剥がされた。力任せに引かれた為危うく脱臼するとこだった。ホントにしたらどうすんだ。ってか、あれだけイヤだって言ったのに。止めろっていったのに!
「ヴェストてめぇいいかげんに・・・!!!」
「ほら、兄さん。クライマックスだ。」
ノリと勢いと流れでヴェストを睨み、口を開いた。
促されるまま「あ゛あ゛!?」と目線をやると、そこには。
「ぎゃぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」
画面いっぱいに、怨念渦巻く女の顔があった。