春雷
気分を変えようと、前に置いてあるきれいな青色の水薬を手に取る。
調合を示したレシピと見比べて、ハリーは感嘆の声を上げた。
「このポーションの調合も難しそうだなぁ。自分なら、絶対にひとつくらいは、入れるのをミスしそうだ」
「ひとつどころじゃないだろ。一滴の十分の一杯とか、量れるのか、ポッター?」
小馬鹿にしたように、ドラコは尋ねる。
「まず、無理!いいや、絶対に無理だね!」
お手上げとばかりに、腕を開いて首を振った。
「その羊皮紙の長ったらしい呪文も、何に使うのかサッパリ分からないし、まず覚えることが出来ない!」
畳みかけるように、白旗を上げる。
「この水薬は傷の治療の即効性の強いものだ。こっちの呪文は、武器の解除を増幅させるものだ。君は闇祓いなんだろ?どちらも覚えておいても、損はない魔法だぞ」
「それは、分かっているけど、やっぱり無理だなぁ……。覚えるのは苦手だし」
「まったく!君が得意なのは、大きな物を持ち上げたり、壊したりすることだけなのか?」
「ああ、パワーマジックなら、得意だね。この部屋をふっ飛ばすことなんか、無言術で杖なしでも、すぐに出来るけどね。ただし、キングズリーからは、派手に壊しすぎだから手加減しろと、お小言は日常茶飯事だけど……」
「うーん……」とハリーが唸っていると、彼の立っている窓際のガラスが、コンコンとノックされた。
振り返ると、こげ茶色の大型の梟が外で羽ばたいている。
ハリーが桟を掴んで上へと窓ガラスを上げようとしたら、ドラコがすかさず、「開けなくてもいい」と、指示を出した。
しかし、それは少し遅かったようだ。
梟はこれ見よがしに、バサバサと大きな翼を広げて羽ばたき、ドラコの前へと舞い降りる。
厳しそうな表情は、梟にありがちな、愛嬌が全くない。
ドラコは渋々、差し出された足にくくり付けられている手紙を外すと、お礼の餌も与えずに、相手を追い返した。
梟は不機嫌そうな表情で一睨みしたあと、そのまま大空へと帰って行く。
届いた手紙を開き、面白くなさそうな表情のまま一読したあと、丸めて机の上に放り出す。
しかも杖を一振りして、火を付けて燃やしてしまった。
あまりにもぞんざいな扱いに、ハリーは目を見張る。
「誰から?」
好奇心につられて尋ねると、「デスイーターの生き残りからの手紙だ」と、フンと鼻を鳴らして答えた。
「──ええっ!君はまた、デスイーターに戻るつもりなのか?せっかく、裁判で無罪になったのに!」
「戻る訳ないだろ。面倒くさいし、なんで今更……」
苦虫をつぶしたように、顔をしかめる。
「それでも、誘いのアプローチがあるんだ?」
「嫌になるくらいにな。梟便なんかは毎日だし、人が寝ているところに蛇を忍び込ませてみたり、先日なんかパートリッジのビスケット付きの手紙が届いたぞ」
「高級スイーツ付きなんて、すごいじゃないか!」
「こっちはその気がないから、ものすごく、迷惑だ!」
吐き捨てるように、ほほに手を当てて机に肘をつきながら答える。
「本当にすごいじゃないか、マルフォイ!」
しかし逆にハリーはご機嫌な顔で、ドラコに近寄ってきた。
「──いったい、何で君がそんなに喜んでいるんだ?」
胡散臭そうに、相手を見上げる。
「だって、君の傍にいたら、デスイーターがよりどりみどりなんだろ?僕なんか、探しても探しても、隠れている敵が見つかりにくくて必死なのに、君ときたら、そんな苦労はしなくても、逆に相手からすり寄ってくるんだろ?ああなんて、うらやましい!」
ハリーは飛び上がらんばかりに、喜んだ。