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きみとおとなり(1)

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 ちなみにお母さんはお菓子を食べてくれる時もあるけど、最近はダイエットだのなんだの言い出して食べてくれなくなった。お父さんは忙しい上にバリバリの和食派で、兄ちゃんのお菓子は和っぽくしてあるものしか食べない頑固者だった。なのでどれだけ嫌がろうが試食役は達哉に任せられるのだ。
「克哉…お菓子作りも良いが、勉強には身が入っているのか?」
 お父さんが口を開く。
「うん、大丈夫だよ。…志望校には受かって見せるよ」
 さっきまでうれしそうにしていた兄ちゃんの顔もこのときばかりはすこし浮かない顔になる。
「そうよ、克哉頑張ってるんだから、たまには息抜きするくらいが丁度いいのよ」
 でも、やっぱり時々、達哉は兄ちゃんが気に食わなくなる。お父さんとお母さんの会話の中心は、ここ最近ずっと克哉、克哉、克哉だから。

「おりゃー!てやー!」
 達哉は部屋の中でフェザーマンのおもちゃを使って遊んでいた。その時、部屋の扉が開くと、お母さんがそこにいた。
「達哉、もう少し静かに出来ない?今ね、お兄ちゃんがお勉強してるの、わかるでしょ?お兄ちゃんは今、とても大事な時期なのよ」
「…あと少しで出かけるもん…」
「そう、誰と遊ぶの?」
 お母さんの顔が少し安心した表情になったのを達哉は見逃さない。
「淳とこいく…」
「あまりご迷惑をおかけしちゃだめよ?お引越ししたばかりで、忙しいだろうから」
 そういってお母さんは達哉の部屋を出て行った。達哉は大事なレッドイーグルのおもちゃをそっと置くと、小さく鼻を啜った。やっぱ兄ちゃんさえよければ、オレのことなんてどうでもいいんだなと思うと少し寂しくなるのだ。


ピンポーン

「じゅーんーあーそーぼー!」
 しばらくすると、どたどた走る音が聞こえて、2階の窓が開く。
「達哉!」
 窓から身を乗り出して淳が手を振っている。達哉は、手にラップをかけたお皿を淳に見えるように持ち上げる。中には小さな容器に入った兄ちゃんお手製の…"チョコレートのなんとか"というのが入っているのだ。
「これ、一緒に食べようー!」
「う…うん!今いくね!」
 まだ散らかりっぱなしの淳の部屋を達哉に見られるのはちょっと恥ずかしいけど、それよりも達哉と一緒にいられることがすごくうれしかった。急いで階段を下りると玄関が見える。ママが先に玄関にいて、達哉と何かを話している。
「…へぇ!これはムース?達哉くんのお兄さんってオシャレなのね…今度お礼を言いに行かないといけないわね」
「ムースって髪につけるヤツ?」
 兄ちゃんがなんかそんなこと言ってたような気もするけど…と、よくわかっていない達哉は首をかしげながら言った。
「ふふっ、達哉くんはおもしろいのね」
 淳はちょっと話しに入りづらくて、ママの後ろでもじもじしていた。そんな淳に達哉は気づくと、すぐに笑顔を向けてくる。
「淳!お邪魔しまーす!」
「う、うん…どうぞ…」


「スッゲー!淳の部屋!本だらけ!図書館みてぇ!!」
「お、大げさだよ…」
 今朝から何とかお気に入りの本は全部出したくって、本棚の整理だけはきちんとしていたのだ。だけど、それ以外のお片づけは全然終わっていない。
「オレの部屋おもちゃしかねーぞ!」
 そういいながら達哉はさっそく本を一冊取り出すと、読み出した…がそれはわずか数秒。
「だめだ。むずい。オレにはわからん」
 …すぐに神妙な顔をしながら本棚に本を戻した。淳はおかしくなって笑い出した。その笑顔を見つめながらちょっと神妙に達哉が言う。
「淳、足だいじょうぶだったか?」
 膝から下を開いてお尻の下に敷き、お姉さん座りをしている淳の足をじっと見つめる達哉。痛そうな座り方だなーと思いながら見る。でも、淳は何事もなさそうだ。
「うん、ちょっとひねってるだけだって、シップはっていいこにしてれば、すぐなおるよってお医者さんが言ってた」
 白のハイソックスから少しだけシップがはみ出して見えた。
「痛む?」
「ううん?もう大丈夫だよ!」
「じゃあなにして遊ぶ?」
 無邪気に笑う達哉に淳はやっぱり忘れてる…と笑顔で返す。
「おひっこしのお手伝いしてくれるんじゃなかったけ?」
「あっ!オレ!お手伝いに来たんだった!」
 そう叫ぶと達哉はさっそく段ボール箱をパカッと開ける。何も聞かずにさっさと行動する達哉に少し不安になった。本当にこの部屋、片付くのかな…?
「スゲー!淳!何コレ!ロボット?」
 鼻息を荒くしている達哉のそばにやってきて、ダンボールの中を覗くと、そこにあったのは大事な大事な天体望遠鏡だった。
「これはね、星を見るために使う望遠鏡だよ」
「星?」
「うん…すごいよ…コレを使うとね、クレーターまで見えちゃうんだ…」
 淳はうっとりしながら天体望遠鏡で見た星のすばらしさを語りだした。達哉はわかっているのかわかっていないのか、一生懸命うんうん頷きながら淳の話を聞いている。淳はなんだか先生になったみたいな気がして、思わずいい気持ちになって語ってしまった。
 達哉は星のことをスラスラ語る淳に感心して、頭の中の魔法使い淳のイメージがすっかり固まってしまっていた。本と花と星の好きな、不思議な魔法使い。
「なぁ、こんどオレもいっしょに星を見にいっていいか?」
 達哉が満面の笑みを浮かべて聞いてくる。淳はちょっと頬を赤らめて、突然うれしいことを言われたものだからどうしていいかわからずに、もじもじしながら言った。
「で、でも、すごく夜遅くなっちゃうよ?…達哉くん…怒られちゃうよ?」
「いいよ!なんだったらお泊りしてもいいじゃん!どうせオレ、お父さんからもお母さんからもいないほうがいいって思われてるから!」
 淳は驚いた顔をした。昨日会った達哉のお母さんからは達哉を大事にしないような雰囲気を一切受けなかったからだ。むしろ、優しかったり怒ったり、淳にとってのお母さん像にぴったり納まる人のような気がしていたから、達哉がそんな風に言うのをきいて驚いたのだった。
「どうしてそんなこというの?」
「んー…コレ食べよう!食べたら話しする!」
 そういって達哉はグイっとチョコレートムースが二つ入ったラップのかかったお皿を淳に向ける。
「えー?すごい!チョコレートムースだ!レストランでしか食べたこと無いよ!」
「…そんなすごいもんじゃねーもん…」
 なぜか達哉はむくれながらラップを外して、一緒に入れていたスプーンをグサっとチョコレートムースに突き刺して、大きな一口を作ると、味わいもせずにもぐもぐ食べた。
「もったいないよ達哉!これって高いんでしょ?」
「高くねーもん…」
 淳もスプーンを取ると、一口すくってムースを食べた。ほわっとチョコレートの味が口の中に広がって、優しく溶けていく。淳の顔が笑顔になった。
「ぼく、チョコレート好きなんだ!」
「…そ、そっか…」
 淳の笑顔が可愛くて、達哉は思わずぽーっと見とれてしまった。でも、やっぱりさっきから淳が兄ちゃんを褒めてばっかりいるような気がして、ムシャクシャした。
「これ、どこのお店なの?」
「オレんちだけど?」
「えっ!達哉くんのおうちってケーキ屋さんなの?」
「そんなわけねーだろ!オレの兄ちゃんが作ったの!」
作品名:きみとおとなり(1) 作家名:妄太郎