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きみとおとなり(1)

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 度重なる兄への賛美についに達哉は堪忍袋の尾が切れてしまう。淳は突然怒り出した達哉にびっくりしてしまった。そんな淳の顔を見て達哉もハッと我に帰る。
「ご、ごめん…」
「ううん?どうしたの?何かあったの?」
 淳は心配そうな顔をすると、ムースの入ったお皿をスッと横にそらした。そんな態度に、達哉の話を真剣に聞こうとしている様子が見えて、達哉の顔がちょっと赤らんだ。
「あのな…オレ、兄ちゃんいるだろ?」
「うん」
「中学校3年生でさ、今年受験なんだ…だけど…オレ、うるさいから…ヒッッ!」
「達哉…どうしたの?泣かないで?」
 ガマンできない涙がポロポロとほっぺたを伝い落ちていく。
「母さん…オレにうるさいから出てけっていうもん…オレより兄ちゃんのがいいんだもん…」
 いつも元気な達哉が泣き出したことに淳は驚いていたが、顔には出さないように勤めた。あんなに元気な達哉にも、コンプレックスがあることに驚いた。コンプレックスだらけの淳はなんだか達哉ともっと仲良くなれる気がして、不謹慎だけどうれしくなってしまった。
 なんとなく膝立ちになって近寄っていくと、ギュッと達哉の頭を抱きしめた。
「ぼくね、ムースつくれなくても、達哉くんの方が好きだよ?」
「…ひうっ…いつか淳だって…兄ちゃんの方が好きになるもん…」
 達哉は兄ちゃんを嫌いだという人間に会ったことが無い。達哉の友達はことごとく兄ちゃんのことを好きだというし、一緒に遊んでいても、兄ちゃんがくればとられてしまうような気がするから家では友達と遊ばない。
「何でそんなこというの?ぼくの友達は達哉じゃないか」
「…淳…」
 達哉もなんだか淳のぬくもりにほっとして、淳の腰に手を回した。
「あ、ありがと…ご、ごめんな!オレ男なのに泣いたりして…」
「おかしくないよ…ぼくもね、男だけどね、いっぱい泣くよ…」
 淳の手がそっと達哉の頭から離れていく。なんだか離したくない気がしたが、達哉もそっと淳の腰を離した。
「なぁ、淳…オレもな、淳が泣きたくなったら、ギュってしてやるよ…だから…その時はオレを呼べよ」
「そう?うれしいな…」
 必死な様子でしがみつく達哉を見て、淳は何かを決意したようにそっと口を開く。
「ぼくのママはね女優さんなの。パパは高校の先生…」
 このことはあまり友達には言わない。だってママの迷惑になることもあるから。だけど、弱いところを見せてくれた達哉には、伝えたいなと思った。淳はそっと腰を下ろす。
「えっ!淳のママどっかで見たことあると思ってたけどテレビにでてるの?」
「うん!ドラマとかにでてるよ…」
 淳は少し悲しげに微笑む。
「うん、だからママすごく忙しいの」
「…そ、そか…」
「達哉はぼくのパパには会ったかな?」
 達哉は首を横に振った。そういえば、橿原家に来てから姿はおろか、声すら聞いていない気がする。
「ぼくのパパ、あんまり書斎から外にでないからね…」
「えー?なんで?」
「ん、んっと…なんか研究してていそがしいの…」
 淳の態度が急に少しよそよそしくなって、達哉は首を傾げて淳の瞳を見つめた。でもそこからは何も読み取れぬ黒があるばかりだった。その奥に何かが潜んでいるような気がする…。でも、達哉にはそれが見えなかった。
「ぼくのパパ、高校の先生なんだよ」
 淳は誇らしげに笑う。
「すげー!淳のパパもすげー!」
「でしょ?この天体望遠鏡買ってくれたのもパパだもん」
 段ボール箱から天体望遠鏡の一部を取り出して、ギュっと胸に抱く。頬はほんのり赤く染まる。きっとパパやママのことを自慢するのがうれしいのだ。
「なんどか…二人で星をみにいったんだ…でも最近はいそがしいから、もうむりだけど」
「じゃあ、淳が星を好きになったのってパパのおかげ?」
「うん…」
 濁りの無い淳の笑顔。さっきまでの影をはらんだ黒い瞳ではなく、今は涙で揺れている。
「ふたりともいそがしいの?」
「うん、だからね、ぼく本当はいつも一人ぼっちなんだ…」
 誰もいない家の中で淳はいつも一人だった。
「友達は?」
 友達なんていないから…淳はいつも一人…本を読んでいた。
「ぼく、転校してばっかりだから…いない…かな…」
 笑顔のまま固まった淳の目からは、今にも涙が零れ落ちそうに見えた。
「そっか…淳さみしかったのか…」
 少し眉根を寄せて寂しそうな表情をした達哉が突然、淳の頭をギュッと抱きしめてくれた。
「や、やだな!ぼく泣いてないよ達哉!」
「じゃあ泣けよ!本当は泣きたいんだろ?」
「もう泣けないよ…達哉がいてくれるから、さみしくないもん…」
「ほ、ほんとうだな?…じゃあ、はなすぞ?」
 頭の少し上、達哉の息を呑む音が聞こえた。早くなる鼓動…。ゆっくりと達哉の腕に込められた力が弱くなる。ちょっと名残惜しいなと思いながら、淳は身を離した。
「オレ、ずっと淳をまもるからな…さみしくないように」
「ほんとう?」
「うん!オレはヒーローだからな!」
 達哉がトオッとレッドイーグルのポーズを決めた。それを見た淳が笑った。とても可愛らしい笑顔で。やっぱり見せてよかった、淳の弱いとこころを…。心の底から思った。
作品名:きみとおとなり(1) 作家名:妄太郎