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殺生丸さまの嫁とり物語 その2

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二.祝言(続)

見事な満月の夜だった。

約束の晩、殺生丸がりんの待つ丘の大樹のもとに舞い降りた。

「りん」

りんは殺生丸の与えた反物で縫った真っ白な花嫁衣裳を着て、待っていた。その姿はまるで夜に咲く白百合のようで、思わず殺生丸ははっと息をのんだ。黒髪を結い、口元に紅をさしたりんは、いつもよりもぐっと大人びていて、その頬は薄紅に染まっていた。

「りん・・・美しく、ととのえたな」
「殺生丸さま・・・」
殺生丸はりんの手を取った。
「りん、行くぞ」
「はい・・あ、ちょっと待って、殺生丸さま」
「?」
りんは殺生丸のもとを離れて、大樹の影で二人の姿を見守っていた楓やかごめたちに、深く頭を下げた。
「楓おばあちゃん、かごめさま、珊瑚さま、弥勒さま・・・みんな、いままでどうもありがとう」
楓「りん・・・しあわせになるんじゃぞ」
珊瑚「りん、元気でね!」
かごめ「殺生丸!りんちゃんを頼むわよ!」
弥勒「りん、体には気をつけろよ!(殺生丸はきっとツワモノだぞ!)」
そして・・・みんなの後ろに隠れるようにしていた犬夜叉が一歩前に出てきた。
「殺生丸、めでてえな!」
そう一言いって、すぐにまたそっぽを向いてしまった。
「みんな、どうもありがとう。また、会いにくるからね!」
りんはみんなに手を振って、殺生丸のもとへ戻った。
「いくぞ、りん」
「はい、殺生丸さま」
殺生丸がりんを両腕で抱き上げて、ふわっと中に浮く。樹の高さまで舞い上がった時、殺生丸が見上げているかごめたちに向って一言告げた。

「世話になった」

「え!?」

殺生丸のそんなセリフにかごめたちはびっくりである。しかし、既に殺生丸ははるか上空を跳んでいた。

「けっ!殺生丸のやつ、嬉しそうな顔しやがって!」
犬夜叉が夜空を見上げて毒ついた。しかし、そういう犬夜叉の顔もどこか嬉しそうであった。



こうこうと満月の周りに虹がかかっている。
「うわあ!殺生丸さま、お月様に虹がかかっているよ!すごくきれい!」
「・・・お前のほうが美しい」
「え・・///」
殺生丸のあまりにもストレートなほめ言葉に、りんは赤面してしまった。しかし、殺生丸は顔色も変えないまま、りんを抱いたまま跳び続けている。

このような美しい純白の着物を着て、殺生丸に抱かれたまま、満月の空を飛んでいることが、りんにはまるで夢のようだった。

「殺生丸さま」
「なんだ?」
「これ、夢じゃないよね?りんは本当に殺生丸さまのお嫁さんになれるんだよね?」
「ばかなことを・・・」
「だって、嬉しすぎて、幸せすぎて・・・。殺生丸さまと一緒にずっといられるなんて」
「夢などではない」
「うん・・・」
「ずっと、幸せでいろ、りん」
「はい、殺生丸さま・・・」
りんは殺生丸の白毛皮をしっかりと握った。


しばらくして、殺生丸は母の住む屋敷へ舞い降りた。母とその従者たちが勢ぞろいで二人を迎えた。邪見もいる。

「殺生丸、待っていたぞ。ほう、りん。見違えたぞ。大きゅうなったな」
「ご母堂さま・・・よろしくお願いいたします」
「ほほほ、りん。お姉さまでよいぞ」
「母上・・・」
殺生丸が眉をしかめる。
「なんだ、殺生丸。いいではないか。私とりんは姉妹のように見えぬか?」
「・・・・」殺生丸は心の内で完全否定していた。
「ふん、お前はいつも可愛げのない。りん、これから、わらわと遊ぼうな?」
「母上、りんは私の妻だ」殺生丸は母をけん制して、従者たちへ言った。
「邪見。皆の者、これが私の妻のりんだ。今日よりこの屋敷に住まう。よく仕えよ」
従者たちはさっと頭を下げた。

邪見がそばへ寄ってきた。
「邪見さま!」りんが明るい声をあげる。
「りん。いや、奥方さま。これからは邪見でけっこうです。なんといってもあなた様は殺生丸さまの妻であられますので」
「邪見さまったら!いままでどおり、りんでいいよ。邪見さま、これからよろしくお願いします」
そう言って笑ったりんは、まだ人間の少女特有の幼さを残していたが、それはあでやかな花嫁姿だった。

(殺生丸さまは、この日をどれほど待ち望んだか・・・。りんを人里に預けて以来、殺生丸さまはずっとりんが自分と一緒に来ることを選ぶ日を待ち望んでいた)

殺生丸とずっと一緒にいた邪見には、りんという人間の少女が殺生丸にとって失うことのできない存在であることを知り抜いていた。

「さあさあ、殺生丸。りんは疲れているだろう。風呂なぞ使わせるがよい。お前たちの部屋は、美しく整えておいたぞ」
「うむ」
殺生丸はりんの手を引いて、屋敷の中へ入っていった。



「小妖怪」その姿を見送りながら、母は邪見を手招きする。
「邪見でございます。もういつになったら私の名を覚える気になるのです?」
「いいから、この母に教えよ。殺生丸はりんとまだ契っていないようではないか?あいつは、女の扱いを知らぬのか?」
「えっ!?いや、そんなことは・・・ないと思いますが・・・。ただ、殺生丸さまはりんと会うまでは、ひたすら闘いに生きてこられた方でありますゆえ・・・」
「あまり、女とのつきあいがなかったのじゃな?」
「いえ、私の口からは、そんなことはいえませぬが。ただ、女はあまりお好きではなかったようで・・・」
「ほう。つまり、りんは殺生丸にとっては初恋みたいなものか」
「は、はつこい!?」
「初恋の相手を妻にするとは。うぶな奴じゃ」

(いや、もしかすると、殺生丸はとんでもなく幸せなやつかもしれぬな・・・・)

母は花嫁姿のりんを抱いて舞い降りてきたときの息子の嬉しそうな顔を思い出していた。


三.契り

風呂を使ったりんは、かしずく侍女たちから真っ白な着物を着せられ、寝所へ案内された。そこには既に殺生丸が待っていた。いつもの鎧も脱ぎ、殺生丸も白い着物を身にまとっていた。侍女たちが下がっていった後、りんは殺生丸の近くへ座った。

「りん」
「は・・・はい、殺生丸さま」
「今宵より、お前は私の妻だ」
「は、はい。よろしくお願いします」
殺生丸はりんの手を取って、自分のほうへ引き寄せた。小さなりんは殺生丸の腕の中にすっぽりと収まった。
「・・・おびえているのか?りん」
殺生丸の腕の中で、りんが小刻みに震えている。
「いいえ、そんなこと、ありません」
「私が怖いのか?」
「そんなこと!殺生丸さまを怖いと思ったことなんて、一度もありません!」
「そうか・・・」
「ただ・・・緊張して・・・」
「そんな必要はない」
「はい・・・」
「私にすべて任せておれ」
「はい。殺生丸さま」

殺生丸は自分の帯をすっとといて、肩から着物を落とした。真っ白な殺生丸の裸体が表れる。どきっとしたりんにかまうことなく、殺生丸はりんの帯をほどき、着物をぬがせた。

「あ・・・」

りんは自分の裸を殺生丸の目にさらすことが恥ずかしくて、両腕で体をできるだけ隠した。

「りん・・・」