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生まれ変わってもきっと・・・(前編)

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★1.  乱心

「此処を出ようと思うの。」

ユリウスの顔を正面から見て、アリスは小さく、けれどもその表情には迷いが無く、決心を言葉にした。

「そうか、その方がいい。決めたのなら早い方が良いんじゃないのか? それで、行き先は決まったのか?」

心配そうにアリスを見るユリウスは、此処に落ちて来て初めて会った頃とは別人のようだ。アリスは首を左右に振る。滞在先も決まっていないのに此処を出て行くというアリスの理由をユリウスは聞かない。

「だろうな。ゴーランド・・・否、帽子屋に頼んでみろ。私が送っていく。」

ユリウスの口から帽子屋の名が出るとは思ってもみなかった。
しかもエリオットに鉢合わせする可能性があるにも拘らず送ってくれるという。流石にアリスは、一人で大丈夫だと断った。
二人がどんなに仲が悪くても、アリスにとってはどちらも大事な知人だ。親のように親切な家主と、妹思いの兄のようなエリオット。この二人がどのような経緯で最悪の仲になったのか、詳細は知らない。以前軽く触れてみたことがあるのだが、どちらも口が重かった。理由など如何でもいいのだ。とにかくアリスの個人的な都合で、最悪の撃ち合いになることだけは避けたい。だからそんな状況になる可能性が高い場所へユリウスを近づけられない。エリオットは引き金を引く前に考えたりしないから、ユリウスの姿を認識したと同時に弾丸を打ち込むだろう。翻せば、エリオットにそんなことをさせたくないと思っているともいえる。

「年上の言う事は聞いておけ。」

お前の考えなどお見通しだ。とでも言わんばかりにユリウスは、再度送って行く意思を告げる。仕事を中断し、直ぐにでも出かける態勢の家主の対応の速さに、驚きつつも感謝する。
身の回りの荷物など持たないアリスは、滞在場所を変えるといっても身一つ。ユリウスが先に立ち、仕事部屋のドアを開け外に出ようとした二人の目の前に、丁度室内に入ろうとしているエースが立っていた。

「エース! ・・すまないが留守を頼む。私が戻るまで此処に居ろよ。」

上から押さえつけるような物言いに対してか、開けようと思っていたドアがいきなり内側から開いて驚いたためか、エースは曖昧にああと返事をして二人を見送る。階段を下りながら振り返ると、エースは此方に手を上げてみせるとそのまま室内に消えていった。


帽子屋へと続く道を時々どちらかが後方を振り返りながら、ただ黙々と歩く。沈黙を破ったのはアリスだった。

「ユリウス。その・・どうしてブラッドのところなの?」

「ああ? いや、何となくだ。お前、毎日あれを聞かされたいのか?」

「あれ・・・」

ゴーランドの得意な弦楽器のことか。初めて演奏を聴かされた時の衝撃を思い出し、くすりと笑う。どうしたらそういう演奏が出来るのか聞きたいほどの酷さだった。ユリウスは隣でその笑顔を見ながら、アリスにはこんな風に笑っていてほしいと思う。自分の下に居なくとも、この世界で幸せに暮らしてほしいと願っているのだ。どこぞの白ウサギと同じような台詞を頭の中に浮かべる自分に苦笑する。

(あんなイカレたうさぎと同レベルか私は・・)

だが、ことアリスに関してだけならば、それも悪くないと思ってしまう自分がいる。そういう感情の存在を少し前までは想像すらできなかった。今ではもうあんな一人ぽつんと佇むような空虚な世界には戻れない。誰かを想い、誰かに想われる。それは何と暖かく幸せで、そして面倒くさいものなのだろう。他人と係わるという面倒ごとは自分が一番嫌っていた筈だが、今こうしてアリスに付き添っている。そうしたいと思う自分がいるのだ。全く、一番面倒なのは自分ではないか。
そんなユリウスの胸の内も知らず、笑ったせいで先程より緊張が取れたような様子のアリスは、早速ユリウスの心配を始めた。

「ちゃんと食べて、眠ってね。コーヒーが食事とか駄目だからね。」

「ああ。」

「それから、偶には外に出てお日様を浴びて身体動かして、でも外に出る時は・・・」
「ああ、わかったわかった。お前、今くらいは自分の心配でもしたらどうだ。」

アリスはユリウスの方を見て溜息を吐く。そうよねと言いながら、言いそうになった言葉を唇を噛んで押さえ込む。

(戻れるのかな?)

できるだけ早くユリウスの元へ戻れると良いと思ったのだが、アリスは何の保証も無いことを簡単に口にする性格ではない。それは、自分にも相手にも空しいだけの言葉遊びにしか過ぎないからだ。そして同行するこの男にもいい加減な、ただ安心させてくれる為だけのリップサービスは期待できないと知っている。
また沈黙の時間に戻った。
一歩一歩時計塔から遠ざかる。望んで来た世界ではなくとも、生活していれば多少の愛着は湧くものだ。アリスにとっては多少の、では済まないくらいの愛着のある場所にいつの間にかなっていた時計塔での生活。その一つ一つを思い返してみる。


帽子屋の大層な門構えが見えてきた。珍しく真面目に門番が二人立っているのが見える。

「此処で大丈夫だから。」

アリスは、これ以上近づくと隠れる場所がなくなるところでユリウスの前に立つと歩を止めた。門まで数十メートル程の所だ。此処で見ているから早く行けといわれて、ユリウスに腕を回してありがとうと言うと顔を見ずに離れた。頬に伝う涙を見られたくなかったから振り返らない。手で涙を拭いながら帽子屋の門に足早に向かう。斧を持って手持ち無沙汰だった双子は、自分達の方へ向かってくるアリスの姿を見つけると、声を上げながら駆け寄って来る。

「お姉さん!」

子供達の声は歓迎する雰囲気のそれではなかった。だが泣き顔を見られまいと気を取られていたアリスは、その事に訝しむ前に後ろからのユリウスの声に振り向く。

「アリス! 全力で走れ!!」

振り向いた彼女の目に映ったユリウスは地面に座り込んでいた。その手前に此方に向かって駆けて来る赤い影が見える。走れと言われたが、足が竦んで動けない。

「お姉さん下がって。」

腕を強く後ろに引っ張られて、双子たちが前に出る。走って向かってくるエースの手が帯刀する剣にかかると銀の光が閃き、同時に金属同士のぶつかり擦れる音がした。
直ぐに決着はついたようで、双子はアリスの足元の地面に、折れた斧の刃と共に転がっている。

「ディー、ダム!」

「邪魔するイケナイ子には死んでもらうよ。」

エースは特別表情を変える事も無く剣を振り上げる。ディーとダムは目を瞑って特に抵抗をする気力もないようだ。抵抗する気力さえも無くなるほどの力の差を見せ付けられたばかりだからかもしれない。それとも何かの作戦なのだろうか。考えている暇は無い。アリスはディーとダムを庇って、二人に覆い被さり目を瞑った。一瞬背中を何かが強く擦っていく。