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モン・トレゾール -私の宝物-

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「はぁ〜〜。また会社訪問しないといけないのぉ〜〜?」
アムロは、今日何度目になるか分からないため息をつきながら、独りで暮らすアパートへと重い足を運んでいた。

就職氷河期と称される昨今。
親のいないアムロは、内定も取れないのが現状だ。

幼い頃に両親が離婚。父と二人で暮らしていたのだが、その父も15の春に死亡した。
研究一筋の性格だったのが幸いし貯蓄は十分にあり、生命保険も降りた為、志望していた理数系の大学への進学は出来た。
しかし、卒業を間近にして、未だにどの会社の内定もとれない。一年生からインターンシップで色々な企業に入っていたにも係わらず……。
既に何度も袖を通したリクルートスーツはすっかりくたびれてきている。
とはいえ、彼女の能力が決して低いわけではない。
むしろ、教授陣から大学へ残って研究を手伝って欲しいと再三要請されているくらいだ。
だが、アムロは少しでも早く社会人となって安心したいと切望しているのだ。
故に三年生の段階から積極的な就職活動をしているのだが、親がおらず保証人となる親族もいないアムロを採用してくれる会社は、4年生の春をもっても現れなかった。
また、アムロはスキップ制度を利用して進学進級をしているが故に、今現在18歳。
このアメリカにおいて未成年とは見なされないまでも、立派な成人として見る事も難しい年齢なのが災いしている。

「『君の能力の高さは認めるが……、ねぇ』って何さ!ねぇって!!理由を言えってーのっ!!」
怒りにショルダーバック(これも御疲れ気味)を振り回しながら小さな公園をカツカツと歩いていたアムロは、足元を見落としていた。

ガツッ!!

いきなり何かに蹴躓き、アムロは盛大にひっ転んだ。
路面がコルク材を加工したものだったお蔭で酷く打撲をしないで済んだが、それでもおでこと膝を打ちつけ、パンプスのヒールの片方がポッキリッ折れてしまう。
「うぅぅ〜痛っ―!何なのよ〜。私が何をしたってのぉ〜〜!」

アムロは持って行き場のない怒りと痛みで叫びつつ、躓いた物を睨み付けた。


そこでピキンッと固まった。
アムロが躓いたものは男の足だったのだ。
「しっ・・・・・・死…体?…死体なのぉ?」
“やだ―!最悪じゃない!こんな所に何で死体がぁ〜〜?!”

声無く悲鳴をあげていると、茂みから呻くような声が発せられた。

「何?何ぃ?私を祟っても得しないわよぅ。不幸のどん底に居るんだから−」
軽い恐慌状態に陥ったアムロが掠れた声で告げると、躓いた足が折り曲げられ、茂みから金色の塊が出てきた。
アムロはそれを見て、先刻とは違った意味で固まった。

出てきた男は、軽く先端にウェーブのかかった金髪を肩まで伸ばし、同色の長い睫の下に青空を湛えていた。
白い肌にピンク色の唇。
身に付けているものはブランド物ではないものの、高級な仕立ての1点物のようだ。

“何・・・?此の人”

アムロはポカーンと凝視していたが、その男の手が自分の肩に置かれた事で飛び上がる。
「ひぎゃぁ〜〜」
素っ頓狂な声と共に逃げ出そうとしたアムロに、男の身体がズシンッと寄りかかってくる。
「重っ!!」
小柄なアムロは男の体重を支えきれず、ヘタリと倒れこんでしまう。

「ちょっ!あなたねぇ!」
「ハラ……へった」
文句を言おうとしたアムロは、男の呟きに続く言葉を失った。

「はぁ?ハラ減ったって……。あなたホームレス?…なわけないよね。その格好で」
男の下敷きになりながらも何とかアムロは話しかけた。
すると「カネの持ち合わせは・・・・・・無い。昨日の夕方から、何も食していない。このままでは、私は、死んでしまう」と情けない声が返された。
男からはスキッとした香がしてくる。

“何・・・?此の人”

アムロは再び同じ疑問を抱いたが、此の男をそのまま放置する気になれなかった。
「ちょっと、どいて。空腹なのは理解したけど、このままじゃ私も一緒に餓死しちゃうでしょう?!たいしたものは出せないけど食べる物をあげるから、私のアパートに行くわよ。ねぇ、聞こえてる?」
アムロは男の背中と後頭部をペシペシと叩いて動くように示唆したのだった。

 この日、アムロは運命の扉を自分で開いたのだが、その時にはまだ、そんな事を知る由もなかったのだった。