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東方~宝涙仙~ 其の壱四(14)

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 レミリアがさらに追い打ちをかけようとしたとき、横腹にすさまじい衝撃を受けて吐血した。
「ガホッ…な…何…?」
「おねーちゃんに、何してるの?」
 全てが狂気の表情に包まれたアイラが右腕を出していた。
「おねーちゃんを、殴ったの?」
「ヴッ…お前が咲夜をぉぉ……」
 レミリアは泣いていた。痛みよりも憎しみが溢れ、今すぐにでも目の前の犯人を殺してやりたいという気持ちが伝わる涙だ。
しかしあまりの激痛にレミリアは床に手をついて立ち上がれなくなってしまった。床についたレミリアの手をアイラは踏みつける。踏みつけたまま回し蹴りをレミリアの後頭部に直撃させた。
回った勢いで抉れる手の甲の痛みと、それをすぐに忘れるような後頭部の痛み。レミリアはほぼ意識を失って力尽きた。
「お嬢様ぁぁぁぁぁ!!」
 美鈴がレミリアの元へ走るも、シズマに止められた。
「これ以上は手出しませんから、少し下がっていてください…」
 両手を美鈴のほうに突き出して下がるように命ずるシズマ。もちろん美鈴は下がろうとはしなかったのだが、いつの間にかアイラに後ろに回られていて服を掴まれて引っ張られていた。
服を引っ張るアイラに蹴りを出すものの、命中してもびくともせずほぼダメージは与えられなかったようだ。うしろアイラはニヤニヤと笑いながら服を掴んでいる。
「くっ、離れてください!」 
 殴ろうとも振り払おうともアイラは全く動かない。何を言われようと何をされようと服をずっと引っ張って、焦る美鈴の顔を楽しげに眺めている。
美鈴がアイラに止められ、レミリアが悶えて身動きが取れないうちに、シズマが再びフランドールに近づいた。そしてまた話しかける。
「フランちゃん、フランちゃんのお姉ちゃんね、フランちゃんのこと疑ったのは全く悪い事じゃないと思っているのよ」
「え?」
「だからフランちゃんも殺して、犯人も殺して、殺して全部片付けようとしていたらしいの」
「フランはそれでもお姉さまと仲良くするよ…?」
「あの人は最低なのよ。フランちゃんを殺してみんなに犯人を片付けたと報告して知名度を上げようとしてたの」
「お姉ちゃんが?」
「そうよ」
「フランさっき一緒に死のうって言われたのは騙されてたの?」
「当たり前じゃない。一緒に自殺するって言ってフランちゃんが自殺すれば、自分は何も悪い事してないことになるんだもん」
「知名度の為に利用しようとしてたの?」
「フランちゃんは勘がいいのね。その通りよ」
「そんな…そんなそんな……」
「その作戦を妨害する為に私達が来たのよ」
「フランの為に?」
「そう。それと、あの卑怯なお嬢様を倒す為に」
 嘘で自分を仲間に引き込もうとするシズマにフランドールは気付かず、どんどんと話を間違った方向で理解し始めてしまってきている。アイラ戦に必死な美鈴も、悶えるレミリアもシズマのその姿に気付かない。
全てシズマの計画通りといった感じだろう。面白いようにフランドールが騙されてしまった。
「それでね、フランちゃん」
「なに?」
「そんなフランちゃんのお姉ちゃんを消すのを、手伝ってくれないかな」
 フランドールが壊れたように笑いをあげだした。
ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。大好きな姉に裏切られた気分のショックで理性が飛んだのだろうか、さっきまでの弱弱しいフランドールはいなくなり、濁ったようなフランドールへと急変した。
495歳の少し後、一番壊れていた頃の彼女に近い。
 さらにフランドールに続いて他の狂った笑いがあがった。
キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。
 部屋で二つの狂気が咲く。
「シズマお姉ちゃん、フランも協力するよ!」
「フフッ、助かるわ」
「どうせならお姉さまよりも先に紅魔館から壊したい!」
「フランちゃんの好きなように進めていいよ。ほらアイラ、退却よ」
「待ってお姉ちゃん」
 掴んでいた服を簡単に話てってけと姉の元に戻るアイラ。フランドールもシズマに側についてしまった。
その光景を意識朦朧としながらも発見としたレミリアはフランドールを止めようとした。
「フラン!そいつらに着いて行っちゃ駄目!」
「もうお姉さまの作戦には乗らないよ」
「はぁ?作戦?」
「とぼけるな!!シズマお姉ちゃんに聞いたよ、お姉さまの作戦」
「さ、作戦?……そこの年上ェ!フランに何を言ったぁ!」
「もうフランはシズマお姉ちゃんの味方だ!」
「フランはそいつに騙されてるのよ!」
 シズマは冷静にフランドールを再び説得しに入った。
「フランちゃん、フランちゃんのお姉さまはまだあなたを騙そうとしてるのよ」
「サイテーだ!」
 完全にシズマの言う事しか信じなくなってしまったフランドールはもう止められなかった。
「フラン!!私を信じて!!」
 その一言を待っていたかのようにシズマはこう言った。
「紅魔のお嬢様、これが信じてもらえない辛さなんですよ」
 レミリアはハッとした表情で、撤退する三人を見届けるほかなかった。


   ▼其の壱五(15)に続く