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神無月愛衣
神無月愛衣
novelistID. 36911
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化物語 -もう一つの物語- 其ノ貳

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011



「…………う…………っ」
 目が覚めた。
 ゆっくりと目を開けると、そこには僕の部屋の天井があった。
 意識は朦朧としていたが――僕は少し無理をして身体を起こした。
 何があったのだろ――全く覚えてない。
 僕は倒れる直前まで、何をしていた――?
「あ。起きた? 阿良々木くん」
 と。
 僕が目覚めた時を見計らったかのように、声が掛かった。
 ――まるでゴールデンウィークの忍野みたいだな――と思ったが。
 僕に声を掛けたのは、
「まあ、『起きた』と言うより、『気がついた』と言う方が正しいんだけれど。何はともあれ、おはよ、阿良々木くん」
 僕のクラスメイトで、委員長の中の委員長。
 折り目正しく、規律正しい。
 完全無欠、品行方正、非の打ち所がない。
 いつものように、私立直江津高校の制服を着た。
 三つ編みと眼鏡の姿をした――羽川翼だった。
「…………あ……」
 彼女の姿を見て、僕は――思い出した。
 倒れる直前までのことを。
 彼女がここにいる理由を。
 僕の身の回り――状況が、こうなる前のことを。
 

 以下、回想シーン。


「傷が……ない……?」
 鏡に映る自分の首筋を見て、僕はショックで呆然としていた。
 首筋に春休み、忍に噛まれた傷跡がない。
 つまりそれは――僕が。
 阿良々木暦が吸血鬼ではないことを表していた。
 否――違うな。
 もっと簡単な言い方がある。
 これよりも、もっと凄い事実で――ありえないこと。
 それは、僕が春休みにキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに出会って――出遭っていないことを表していた。
 つまり今の僕は――人間。
 只の、怪異と何の関わりもない、人間。
 吸血鬼もどりの人間とか、そんな中途半端な存在ではなく――純粋な人間。
 それが今の――阿良々木暦である。
「そうか……だから僕は風邪を引いているのか……。納得だ」
 しかし。
 しかしなぜ、僕は吸血鬼ではなく、人間なのだ?
 なぜ僕は、春休みに吸血鬼に遭っていないのだ?
 なぜ僕は――吸血鬼の忍と、繋がっていないのだ?
 僕の大切な存在。
 僕の犯した罪の重さを表す存在。
 僕が一生背負うと決めた存在。
 僕の大事なパートナー。
 ツーマンセル――である。
 今の僕は――その忍とリンクが切れている。否、僕と繋がっておらず、一切関わりがない。
 そんな存在となってしまっている。
「あーあ……。これから、どーすっかな……」
 全ては謎である。
 なぜこんな状況なのか。
 なぜこんな世界なのか。
 謎――不明。
 一体ここは――どこだ?
 僕は前、夏休みが明ける前日の八月二十日、日曜日に忍ぶと共に、北白蛇神社のよくないものの力を利用して、タイムスリップしたことがある。
 そこは、僕が今――こうなる前に住んでいた町と、全然違った。
 八九寺が幽霊になっていなかったり(これは僕のお陰? でもあるが)、忍が暴走(これはその世界の僕の所為でもある)していたり。
 町のみんながゾンビ――キョンシーになっていたり。
 全てが、僕の知っている世界とは違っていて、狂っていた。
 だから――もしかしたら。
 今回もそうなのではないかと。
 何らかの理由で――僕は違う世界、平行世界――パラレルワールドに飛ばされてしまったのではないかと。
 そう思った。
 だからこそ、ここはどこなのか――と。そう思った。
 まあ、分かったところで、今の僕には忍はいないので、どうにもできないのだけれど。
 僕はそう思い、とりあえず服を着て、寝ることにした。
 服を着て寝ようとした瞬間、
「あれ? お兄ちゃん、駄目だよ、病人が起きていたら……」
 と、いいタイミング(?)で月火が来た。
 小さい鍋を持って。
 ああそう言えばお粥を作るとか言っていたな。
 だからなのか。
 その月火は持っている鍋を僕の机の上に置き、
「駄目だよ、病人が起きていたら」
 と、さっきの台詞を繰り返した。
「ああ……悪い…………」
「私に謝ってどうするの? 別に私はお兄ちゃんが起きていても何も悪いことは起きないから。後悔するのは、寧ろお兄ちゃんの方なんだから」
「ああ……そうだな……」
「ん? やけに物分かりがいいな、お兄ちゃんは……。やっぱり、風邪を引いているから、おかしくなっちゃったのかな?」
「いや、それはない」
「あっそ」
 意外に素っ気ない返事で少し落ち込んだ。
 凹む凹む。
「まあ、いっか……。て言うか、お兄ちゃんには早く元気になってもらわなくちゃ。色々と困るし」
「……そうか?」
「うん。ファイヤーシスターズとしての活動ができないから」
「お前に感心した僕が馬鹿だった」
「でも、妹が心配してくれるって、いい気持ちじゃない?」
「そうか? 僕はそうでもないけれど」
「嘘ばっかり。見栄張ちゃって。お兄ちゃんがそんなこと思うわけないじゃない」
「それこそ嘘だな」
「ふうん……。面白くないな」
「面白味を探すな」
「でもお兄ちゃん? 日常には、面白味も必要でしょ?」
「まあそうだが……」
「でもやっぱり、一番大事なのは愛だよね」
「…………」
 この妹とも意見がかぶってしまった。
 まあ、もう一ヶ月も前の話だが。
 それに。
 今僕が体験しているこの世界は日常ではないし――
 僕は――本当にに帰れるのだろうか?
「まあ、それは置いておいて。はい、お粥」
「ああ……有り難う……」
「今日は休むんでしょ? 学校を――まあ、お兄ちゃんのことだから、あんまり変わらないか」
「は? どういうことだよ」
「いつも学校をさぼってるじゃない。だから、あんまり変わらないでしょ?」
「…………」
 どういうことなのだろう。僕は最近はちゃんと学校に行っているのに(羽川や戦場ヶ原に怒られるし、出席日数がやばいのだ)――と思ったところで、僕の思考は止まった。
 そうだ、ここは違う世界なのだ。
 昨日までの世界とは違う。
 ……なかなか慣れないな、この感じ……。
 昨日のことを思い出して、悔やみ、悲しむ。
 本当に、どうしちゃったんだろう、僕は……。
 本当に、らしくないな。
 でも、どうだろう。
 逆に、僕らしさって何だろう?
 考えれば考えるだけ分からなくなってきた……。
「……お兄ちゃん?」
 ずっと僕が黙り込んでいたらからだろう。
 いや、ひょっとしたら、僕の表情を見てからかもしれない。
 月火が心配そうに顔を覗き込んできた。
 たれ目を目一杯開いて。
「…………」
 いや、何て言うんだろ……。
 恐怖を感じる。
 怖い怖い。
「……お兄ちゃん。やっぱり、熱、高いんじゃない? 相当顔が火照ってるよ」
「……そうか?」
「うん。かなりだよ。やっぱり、さっき安静にしてなかったからだよ」
「いいじゃないか、僕の勝手なんだから。僕が何かをして、残酷な結果に陥っても、それは僕の所為だし、僕の責任だ。それに、もう、どうなっても構わないんだから」
 元の世界に戻れないくらいなら――なんて。
 そんなこと、言えるはずがなかった。
 で、月火は少し俯き、黙り込んで、考え事をしていた。
 そして、しばらくして、さっきまでずっと躊躇していたことを、言い始めた。