二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
神無月愛衣
神無月愛衣
novelistID. 36911
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

化物語 -もう一つの物語- 其ノ貳

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

「まあ、そうなんだけれど……。でも、お兄ちゃん。その……前から、それもずーっと前から思っていたんだけど」
「何だよ」
「お兄ちゃん、もっと自分のこと、大事にした方がいいよ」
「…………」
「お兄ちゃんは、自分のことを、大事にしていない」
「大事に――ね……」
 その言い方は――どことなく、羽川に似ていた。
「昔からお兄ちゃんが変わらないでいてくれるのは嬉しいけど――妹としてもね。けど、変わった方がいいところもあるんだよ。例えば、自分に対する見方。お兄ちゃんはいっつもそう。自分のことを大事にしていない。自分のことを好きなんて言ってない。自分のことを嫌っている――いわゆる、自己嫌悪ってやつ?」
「自己嫌悪って――」
「でも、お兄ちゃんはそれだけじゃない」
 言いかけた僕の台詞を遮り、月火は続ける。
 悪いことは何もしていないのに、説教されているみたいだ。
「他人を助けるためなら、自分はどうなってもいい、他人の都合は考えるけれど、自分の都合は考えない。他人を助けるために――命すらも投げ出す、自己犠牲。お兄ちゃんは、自分の命を軽視しすぎている。それが一体、どれだけの人に心配を掛けているか、分かってる?」
「それは……分かっている。けれど」
「放っておくことはできない? 他人を」
 先回りして、言葉を言う月火。
「……そうだよ」
 あのな、月火ちゃん。お人好しなんだよ、僕は。みんな曰く。
 それに、見えていて、自分が助けることができる人を、見ぬ振りしておけない。
 見て見ぬ振りは――僕にはできないのだ。
 と、月火に対して、僕はそう言った。
 あの童女のように、僕はキメ顔でそう言った。
「そっか」
 明らかに納得はしていないだろうが、これ以上言うことを諦めたみたいだ。
 言うのも呆れてしまったのだろうか。
「じゃあ、お兄ちゃん。最後に一つだけ聞くね」
「ああ」
「何でお兄ちゃんはあんな風に、他人のために自分を犠牲にできるのかな? 他人のために、動くことができるの?」
「…………」
「自分を殺して、殺して、殺し続けて。……お兄ちゃんは、どうしてそんなことができるの?」
「…………」
「教えて」
「…………」
 やりたいことは――何なの?
 そう言い残して、月火は僕の部屋から出て行き、学校へと向かった。


 正義の味方、ファイヤーシスターズ。
 格闘家、阿良々木火憐。
 参謀家、阿良々木月火。
 彼女たちもまた、僕と似たり寄ったりのことをしている。
 まあ、僕程酷くはないだろう、と信じているが。
 しかし、そんな彼女たちから見ても、僕のそれらは不思議なのだろうか。
 僕があんな風なのが、不思議なのだろうか。
 僕が、人を助けるということが。
 まあ――昔と今だと、『助ける』ということへ対する、意味合いが違うのだが。
いつからだっけな――
「あ……そうだ……。羽川に電話しないと……」
 結局、あれから動揺してばかりで羽川に電話をしていない。
 電話をするなら早めにしておかなければ。
 携帯のアドレス帳を開き(相変わらず、羽川以外の人物のアドレスが表示されることはなかった)、電話を掛ける。
 すると、三回くらい音が鳴ったところで、
「お待たせしました。羽川です」
 と、羽川は電話に出た。
 ……この世界でも、羽川は変わらないんだな。
 規律正しく、律儀だ。
「どうしたの? 阿良々木くん。朝から電話なんて。しかも学校にも来ずに。またサボるのかな?」
「あ……いや、違う。そうじゃなくて。僕、今日風邪引いたから……。学校を休むんだよ」
「ふうん。確かに、言われてみれば、声がいつもと違うね。……うん。分かった。じゃあ、保科先生にも伝えておくから」
「ああ。頼んだ」
 と、ここで僕は「じゃあ、よろしく」とか言って、電話を切る。
 そのつもりだった。
 それは――突然だった。
 突然で、唐突で、予測なんてできなかった。
 いきなり激しい頭痛が――僕を襲う。
「うっ――!」
 痛い、何てそんな軽いものじゃない。
 頭が割れてしまいそうだ。
 超音波を聞かされているみたいな――激しいものだった。
 そして、頭痛はどんどん激しくなっていく。
「う……うわああああああああああああああああっ……!」
「え!? ちょっと、阿良々木くん!? どうしたの?」
 羽川の心配する掛け声が、携帯越しに聞こえる。
 ただ、聞こえるだけで、それを理解できたかと言えば――怪しい。
 考える――思考能力が、追いつかない。
 それ程まで、僕の脳を痛めつける――頭痛。
「お……お兄ちゃん!? 大丈夫!?」
 と、さっき部屋から出て行った月火ちゃんが戻ってきた。
「つ……きひ……ちゃん……?」
「大丈夫!? お兄ちゃん、しっかりして!」
「阿良々木くん! 阿良々木くん!」
 羽川と月火の声が重なる。
 その二つの声に返事をしたかったが――僕は完全に意識を失った。
 僕の記憶は、ここで遮断されたのである。