答え
奈落との闘いが終わり、殺生丸は一度西国へ戻ることにした。かって父が主として統べていた西国。殺生丸が奈落や犬夜叉との闘いを繰り広げている間に、妖怪たちがずいぶん勝手な真似をしているという。一度戻って成敗してやらねばなるまい。闘いの日々が己にはふさわしい。殺生丸はそう思っていた。
明日には西へ向けて立とうと考えた殺生丸は、りんを呼んだ。
「りん」
「はい、殺生丸さま」
花を摘んでいたりんは笑顔で殺生丸のもとへきた。
「一緒にくるのだ」
「え?」
「邪見、お前はここで待っていろ」
「え!?殺生丸さま??おいてきぼり!?」
不満げな邪見はまったく無視して、殺生丸はりんを抱いて空へ舞い上がった。
りんを両腕に抱えながら、殺生丸は目的の場所へ飛んでいった。
しばらくして人里の近くの丘に舞い降りた殺生丸はりんをおろした。
「あれ?ここ、犬夜叉さまたちが暮らしている村?殺生丸さま、犬夜叉さまに会いにきたの?」
「・・・」
殺生丸は無言でりんを見下ろしていたが、やがて口を開いた。
「りん。お前はここに残れ」
「え?!」
「私は明日西へ旅立つ。お前は連れていけぬ。この里で暮らすがよい」
「殺生丸さま・・?どうして?いやです!りんも一緒に行く!」
「お前はここに残るのだ」
「いや!りんは殺生丸と一緒にいる!」
「・・・」
「どうして?殺生丸さま、りんのこと邪魔になったの?闘いの邪魔したから?奈落のとき殺生丸さまに迷惑たくさんかけたから?」
「・・・」
「殺生丸さま、りん、がんばって強くなる!もう殺生丸さまの足手まといにならないようにするから・・」
「お前は人間だ。我々と同じように強くなるなど無理だ」
「殺生丸さま・・・」
「奈落は死んだが、私は闘いを続ける。またお前を危ない目にあわせるわけにはいかん。お前は連れていけない」
「いいもん!危ない目にあったって!りん、平気だもん!」
「お前の命が危険にさらされるのだ」
「いいもん!りん、死んだっていいもん!殺生丸さまと離れるくらいなら、死んだほうが・・・」
その言葉に殺生丸はりんを睨む。
「りん!」
殺生丸の金色の瞳が強くまたたいている。
(殺生丸さま・・・怒っている・・・)
殺生丸がりんに怒りを向けるなど、初めてだった。りんは、殺生丸から置き捨てにされるという思いと、殺生丸の怒りに、胸がふさがるような気持ちだった。どうしようもなく涙があふれてくる。でも、泣き顔なんて見られたくない。殺生丸さまはりんが要らないのだ、邪魔なのだ。りんは胸の中が悲しみで一杯になって、もう殺生丸のそばにいられない気がした。くるりと背を向けると、そのまま森の中へ走りこんでいった。
殺生丸はりんの突然の行動に驚きながらも、ふわりと舞い上がるとすぐにりんの前に舞い降りた。
「りん、どこへ行く」
「・・・」
りんは殺生丸を見上げようとしなかった。
「りん」
殺生丸はもう一度名を呼んで、りんのあごに手をそえてその顔を上向けさせた。殺生丸を見たりんの頬には涙が幾筋も流れていた。
「!」
殺生丸は目を見開いた。
「・・・りん。なぜ、泣く」
「だって・・・殺生丸さまが・・・りんのこと嫌いになったから・・りんを捨てていくっていったから・・」
りんは小さな声で言葉を返す。
「・・・」
殺生丸はりんに右腕をのばし、白毛皮の上に抱き上げた。
「ばかなことを」
殺生丸はりんの頬に口を寄せて、涙をなめとった。
「りん、泣くでない」
涙の筋を舌でぺろりとなめる。
「だって・・・・」
りんが涙にぬれた瞳で殺生丸を見た。
「りん。私は二度とお前を失えぬ。失えぬのだ」
(冥界でお前を永遠に失うところだった。あの時母の助けがなければ、お前はいまここにいなかったのだ。お前に何かあっても、もう天生牙で救うことはできないのだ)
(二度と失えぬ。りんを失うことがあれば、私は・・・。 )
「りん。お前はまだ幼い。人間はこれからが日増しに育つと聞いた。お前は人里で成長するのだ。楓に既にお前を預けること、伝えてある。楓のもとで健やかに育て」
「どうして?りんは、今でも平気だよ。殺生丸さまと一緒にいれば平気だよ」
「私はお前とは種が違う」
「だから、だめなの?殺生丸さまのそばにいちゃだめなの?」
「りん・・・」
「りんは、殺生丸さまが好き。殺生丸さまが妖怪でも人間でも、何であっても、殺生丸さまが好き。殺生丸さまのそばにいたい」
「りん。それはお前がまだ幼いからだ」
「りんは幼くないよ。もうすぐ12歳だよ」
「りん」
「殺生丸さまはりんがいなくてもいいの?りんがいなくても平気なんだね?」
「くだらん・・・」
殺生丸はりんを両腕で抱きかかえた。
「お前に早く成長してほしいのだ、りん。りんはまだ子供だ。これからお前は様々なことを学ばねばならん」
「殺生丸さまのそばではだめなの?殺生丸さまのそばで成長してはだめなの?」
「私はお前の父にはなれない」
「殺生丸さまのこと、そんな風に思ったことないよ・・・」
「では・・・何だ?」
「え?」
「お前にとって、私は何だ?」
「殺生丸さまは・・・殺生丸さまだよ。たった一人の・・・殺生丸さまだよ」
「それがお前の答えか?」
殺生丸は抱きあげたりんの顔をしばらくみつめていたが、やがてふっと目をふせた。
「りん・・・。この問いの答えをお前が返せるようになるまで待とう。お前がその答えを見つけたとき、私はお前を・・・」
「殺生丸さま・・?」
「りん。健やかに育て。それが私の願いだ。私の願いが聞けるな?」
「でも・・・離れ離れになるなんて、嫌だ・・」
「会いにくる」
「え?」
「お前に、会いに来る」
「本当?」
「私は約束をたがえぬ。お前が答えをみつけたら、私に言え」
「答え?」
「そうだ。お前にとって、私が何か。答えをみつけたらいえ」
「答えをみつけたら・・・迎えにきてくれるの?」
「その答えによる」
「そんな・・・・」
「りん。答えをみつけよ。そうすれば、わかる」
「本当?」
「この殺生丸が嘘をいうとでも?」
「ううん、ううん、そんなことない。殺生丸さまのこと、信じているもん」
「それならば、私のいうことを聞け。しばらく里で人と共に暮らすのだ」
「でも・・・」
また、りんの瞳に涙が浮かびそうになる。
「りん。私は答えがほしいのだ」
「答え・・・殺生丸さまがりんにとって何かってこと・・・」
「そうだ」
「殺生丸さまは殺生丸さま・・・って以外の答え?」
「そうだ」
りんは考え込んでしまった。
「殺生丸さまは教えてくれないの?」
「りん」
殺生丸はりんの頬に手をそえて、優しくなでた。
「りん。お前が自分でその答えをみつけなくては意味がない」
「わかった。答えをみつける。りん、必ず答えをみつける。だから、殺生丸さま、待っててね、りんのこと、忘れないでね」
「ばかなことを」
殺生丸はりんの頬に自分の頬を合わせた。
明日には西へ向けて立とうと考えた殺生丸は、りんを呼んだ。
「りん」
「はい、殺生丸さま」
花を摘んでいたりんは笑顔で殺生丸のもとへきた。
「一緒にくるのだ」
「え?」
「邪見、お前はここで待っていろ」
「え!?殺生丸さま??おいてきぼり!?」
不満げな邪見はまったく無視して、殺生丸はりんを抱いて空へ舞い上がった。
りんを両腕に抱えながら、殺生丸は目的の場所へ飛んでいった。
しばらくして人里の近くの丘に舞い降りた殺生丸はりんをおろした。
「あれ?ここ、犬夜叉さまたちが暮らしている村?殺生丸さま、犬夜叉さまに会いにきたの?」
「・・・」
殺生丸は無言でりんを見下ろしていたが、やがて口を開いた。
「りん。お前はここに残れ」
「え?!」
「私は明日西へ旅立つ。お前は連れていけぬ。この里で暮らすがよい」
「殺生丸さま・・?どうして?いやです!りんも一緒に行く!」
「お前はここに残るのだ」
「いや!りんは殺生丸と一緒にいる!」
「・・・」
「どうして?殺生丸さま、りんのこと邪魔になったの?闘いの邪魔したから?奈落のとき殺生丸さまに迷惑たくさんかけたから?」
「・・・」
「殺生丸さま、りん、がんばって強くなる!もう殺生丸さまの足手まといにならないようにするから・・」
「お前は人間だ。我々と同じように強くなるなど無理だ」
「殺生丸さま・・・」
「奈落は死んだが、私は闘いを続ける。またお前を危ない目にあわせるわけにはいかん。お前は連れていけない」
「いいもん!危ない目にあったって!りん、平気だもん!」
「お前の命が危険にさらされるのだ」
「いいもん!りん、死んだっていいもん!殺生丸さまと離れるくらいなら、死んだほうが・・・」
その言葉に殺生丸はりんを睨む。
「りん!」
殺生丸の金色の瞳が強くまたたいている。
(殺生丸さま・・・怒っている・・・)
殺生丸がりんに怒りを向けるなど、初めてだった。りんは、殺生丸から置き捨てにされるという思いと、殺生丸の怒りに、胸がふさがるような気持ちだった。どうしようもなく涙があふれてくる。でも、泣き顔なんて見られたくない。殺生丸さまはりんが要らないのだ、邪魔なのだ。りんは胸の中が悲しみで一杯になって、もう殺生丸のそばにいられない気がした。くるりと背を向けると、そのまま森の中へ走りこんでいった。
殺生丸はりんの突然の行動に驚きながらも、ふわりと舞い上がるとすぐにりんの前に舞い降りた。
「りん、どこへ行く」
「・・・」
りんは殺生丸を見上げようとしなかった。
「りん」
殺生丸はもう一度名を呼んで、りんのあごに手をそえてその顔を上向けさせた。殺生丸を見たりんの頬には涙が幾筋も流れていた。
「!」
殺生丸は目を見開いた。
「・・・りん。なぜ、泣く」
「だって・・・殺生丸さまが・・・りんのこと嫌いになったから・・りんを捨てていくっていったから・・」
りんは小さな声で言葉を返す。
「・・・」
殺生丸はりんに右腕をのばし、白毛皮の上に抱き上げた。
「ばかなことを」
殺生丸はりんの頬に口を寄せて、涙をなめとった。
「りん、泣くでない」
涙の筋を舌でぺろりとなめる。
「だって・・・・」
りんが涙にぬれた瞳で殺生丸を見た。
「りん。私は二度とお前を失えぬ。失えぬのだ」
(冥界でお前を永遠に失うところだった。あの時母の助けがなければ、お前はいまここにいなかったのだ。お前に何かあっても、もう天生牙で救うことはできないのだ)
(二度と失えぬ。りんを失うことがあれば、私は・・・。 )
「りん。お前はまだ幼い。人間はこれからが日増しに育つと聞いた。お前は人里で成長するのだ。楓に既にお前を預けること、伝えてある。楓のもとで健やかに育て」
「どうして?りんは、今でも平気だよ。殺生丸さまと一緒にいれば平気だよ」
「私はお前とは種が違う」
「だから、だめなの?殺生丸さまのそばにいちゃだめなの?」
「りん・・・」
「りんは、殺生丸さまが好き。殺生丸さまが妖怪でも人間でも、何であっても、殺生丸さまが好き。殺生丸さまのそばにいたい」
「りん。それはお前がまだ幼いからだ」
「りんは幼くないよ。もうすぐ12歳だよ」
「りん」
「殺生丸さまはりんがいなくてもいいの?りんがいなくても平気なんだね?」
「くだらん・・・」
殺生丸はりんを両腕で抱きかかえた。
「お前に早く成長してほしいのだ、りん。りんはまだ子供だ。これからお前は様々なことを学ばねばならん」
「殺生丸さまのそばではだめなの?殺生丸さまのそばで成長してはだめなの?」
「私はお前の父にはなれない」
「殺生丸さまのこと、そんな風に思ったことないよ・・・」
「では・・・何だ?」
「え?」
「お前にとって、私は何だ?」
「殺生丸さまは・・・殺生丸さまだよ。たった一人の・・・殺生丸さまだよ」
「それがお前の答えか?」
殺生丸は抱きあげたりんの顔をしばらくみつめていたが、やがてふっと目をふせた。
「りん・・・。この問いの答えをお前が返せるようになるまで待とう。お前がその答えを見つけたとき、私はお前を・・・」
「殺生丸さま・・?」
「りん。健やかに育て。それが私の願いだ。私の願いが聞けるな?」
「でも・・・離れ離れになるなんて、嫌だ・・」
「会いにくる」
「え?」
「お前に、会いに来る」
「本当?」
「私は約束をたがえぬ。お前が答えをみつけたら、私に言え」
「答え?」
「そうだ。お前にとって、私が何か。答えをみつけたらいえ」
「答えをみつけたら・・・迎えにきてくれるの?」
「その答えによる」
「そんな・・・・」
「りん。答えをみつけよ。そうすれば、わかる」
「本当?」
「この殺生丸が嘘をいうとでも?」
「ううん、ううん、そんなことない。殺生丸さまのこと、信じているもん」
「それならば、私のいうことを聞け。しばらく里で人と共に暮らすのだ」
「でも・・・」
また、りんの瞳に涙が浮かびそうになる。
「りん。私は答えがほしいのだ」
「答え・・・殺生丸さまがりんにとって何かってこと・・・」
「そうだ」
「殺生丸さまは殺生丸さま・・・って以外の答え?」
「そうだ」
りんは考え込んでしまった。
「殺生丸さまは教えてくれないの?」
「りん」
殺生丸はりんの頬に手をそえて、優しくなでた。
「りん。お前が自分でその答えをみつけなくては意味がない」
「わかった。答えをみつける。りん、必ず答えをみつける。だから、殺生丸さま、待っててね、りんのこと、忘れないでね」
「ばかなことを」
殺生丸はりんの頬に自分の頬を合わせた。