【青エク】 無題
大好きな姉が、友人に興味を持ってしまった。
一時だけの興味なら問題ない。
だが。
「…姉さん。今日は忙しいんでしょ?もう大丈夫だから…」
さり気なく、伸ばした腕の中姉の身を隠し。
そっと、廊下へと誘い出そうとした ―――― その中で姉は文句を零しかけた ―――
が、彼女の身が廊下へと出てしまう前に細く柔らかな彼女の腕を掴む、大きな手。
「お、っと?」
止められた事でガクン、と姉の身が揺れる。
合わせて雪男の瞳が細められた。だが、真横から注がれる鋭い視線に気づく事無く、止めた人物は彼女の身をそのまま引き、自身と向き合わせると又も僅かばかり身を屈め。
「ちょお、雪男の姉ちゃんさん」
「そんな名前じゃねえんだけど、なんだよ?」
「…そんなら名前、なんて言うんや」
「うん?」
違うと言うのなら、名前を云え。
目でも同じことを訴えるのに、見つめ返す彼女は何を思ったのか。
「………燐、…」
一度だけ、視線を彷徨わせると、戻すと同時にそう、名乗った。
かなり強引だった自覚はある。
だから、無視されても仕方ないとも、思っていた。
なのに、ちゃんと答えてくれた彼女に少なからず心、揺さぶられる。
「…りん…」
「そう。燐」
りん。
その名前を、胸のなかに刻み付けて。
何度も、繰り返し、呼んだ。
音にはしなかったけれど。
代わりに。
「そぉか。なら…燐」
「……初対面で呼び捨てたぁ、いい度胸だなぁ…」
改めて、要件を伝えようと口を開くが即、返された苦笑。
確かに、初対面で呼び捨ては拙かったか。
けれど、云うほどには気にしていない様子の燐に又も驚き、そして知る。
優しい女性なのだと。
だから、何だ、と促す声に甘えて続けさせてもらった。
「ちょぉ、あんたと話がしたいんや」
「……ふぅん?」
切欠は何でもよかった。
例えば、彼女が乗ってきたバイク。
竜士も以前より興味を持っていたから、良い機会でもある。
「燐が乗って来たバイク。あれ、○○メーカーのやろ?他にも知ってる事あるんやったら教えて欲しい」
「へぇ?お前もバイクに興味が?それならお安い御用だぜ!」
購入を考えているから、少しだろうと何だろうと知っている事は教えて欲しい。
そう願い出れば快く快諾してくれた彼女に喜びと感動を抱いた。
一歩、彼女に近づく事が叶ったから。
例え、彼女の隣に立つ弟が、殺意籠る冷たい目で睨んで来ていようとも・・・・。