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ボクの扉

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 仕事から帰り、棺を部屋に置いて、報告や相談や新たな指示がないかの確認のために、カルロ裁判官のもとを訪れる。『ダリぃけど』と口癖を言いながら。すべてを済ませ、新たな仕事の前に休みをもらうと、自室に戻ろうとした。
「ああ……そうだ、ウォルター」
 部屋を出るすんでのところで後ろから呼び止められ、ウォルターはゆっくりと振り返る。
 先ほどまで愛想良くニコニコと笑っていたカルロが、その笑顔を『穏やかな』と形容できるものに留め、微かに寄せた眉毛から憂いの色を漂わせ、気がかりそうに言う。
「アンディの様子を見てきてくれないか? 昨日、医務室に行ったんだ。だから……」
 だから、と後は言わずに、澄んだ瞳でじっとウォルターを見つめる。
 言わなくてもわかるだろう、と了解を求める目で。
 それが気に食わなくて、ウォルターはわざと察しの悪いフリをして言った。
「医務室って、なんか怪我でもしたのか、アイツ」
「いや……例のだよ」
 とぼけるウォルターに、気にした様子もなく、カルロはあっさりと言う。
 例の……注射のためだ。それがアンディに及ぼす影響……その前よりも、その後のほうが。
 注射を打つ前も暴れる。それも問題だが、それよりもっと深刻なのは、もしそれが過去の記憶につながり、恐怖と混乱にアンディが陥った場合……最悪の場合。
 まあ、そうだったら、今ここはこんなに平穏ではないだろう。
 一日経っているんだし。だが、だからこそ……一晩経った今だからこそ、様子を見て来いとカルロは言う。
 アンディが寝ている間に悪夢でも見て、平静な気持ちではないかもしれない。
 何かのキッカケで……それを危惧している。
 そのことを、はっきりと言わずに、ただ『見て』くれと言う。余計なことはせずに、ただ見ろ、と。
 ……つまり、監視と一緒じゃないか。
 苦い気持ちになり、ウォルターは鼻の頭に皺を寄せて、『ちっ』と舌打ちする。
 そして、さっと背を向けた。
「……わかった」
 頼んだよ、というカルロを一瞥して、部屋を出た。


作品名:ボクの扉 作家名:野村弥広