ボクの扉
アンディの部屋の扉の前に立ったウォルターは、『ああ、そうだ』と思いついて自室に行き、あるものを手に戻った。そうして再び、アンディの部屋の前に立ち、扉をコンコンコンと軽くノックする。
「アンディー? 俺だ、ウォルターだ。入ってもいいかー?」
耳を澄ますが、返事がない。
(あれ? いないわけじゃねぇよな……)
まさと思いつつ、扉を開ける。すんなりと開き、訪問者を受け入れた。遠慮せずに踏み込み、ウォルターは中を見回した。
「……いるじゃん」
部屋の主を見つけて、戸口で立ち止まり、じろじろと眺めて、ぼりぼりと後ろ頭をかく。
「……お邪魔すんぞー」
ハァとため息を吐き、ぞんざいに言って、パタンと後ろ手に扉を閉め、スタスタとアンディのところに近付く。
返事は待たない。待っても仕方がない。
ベッドの上にできた、人が膝を抱えて布を被ってできた、小さな山。
そこに縮こまっているのは、確かにアンディで。
ベッドのすぐ側まで行ってしゃがみこみ、布の割れ目を覗き込む。
アンディのうつむく動きで、サラ……と金髪が布からこぼれる。
ウォルターは苦笑した。
「何してんの、おまえ」
問いではない。思わずもれた言葉だ。
白い布を頭から被り、しっかりと全身を押さえるようにそれで包んで、顔の下半分しか出していない、その姿で……覗き込まれるのが嫌なのか、ジリジリと後ろに下がろうとする。
……悪いけど、少し滑稽だ。
「大丈夫だって」
呆れて出た言葉より、声をやさしく低く強くして、なだめるように言う。何が大丈夫なのか、どう大丈夫なのか、自分でもわからないけれど、きっぱりと言う。
……何もないのだから。『大丈夫じゃない』ことなど、ここには何もないのだから。だから、絶対に『大丈夫』。
アンディのジリジリ下がる動きが止まる。
「……」
顔を少し上げて、半眼に開かれた目で、じっとウォルターを見据える。その目は、暗く濁っていて、輝きがない。あまり寝ていないのか、それともまったくか、目の下にはくまも出来ている。口は固く閉じられ、目も何か言いたげでもなく、ただ黙ってじっと見つめてくる。
「あー……」
居心地の悪さに、ウォルターはムズムズとした。
色々と言わないといけないことはあるんだろう……何故来たのかとか、昨日のことを訊ねたりとか、慰めたりとか……けれど、ウォルターはそれを全部しまい込み、かわりになんでもないような軽さでニッと笑って言った。
「なぁ、アンディ。カードやんない? 持って来たんだ」
ポンとベッドの上のアンディの足元にカード(トランプ)を放り出して様子を見る。
「……」
アンディの目が、カードに落ちて、うつむいた顔が、下唇を噛むのが見える。
「……」
「……」
返る沈黙に、沈黙で応える。
『…………』
どんよりとした空気が室内に満ちる。
(ええぇえええぇえーっ……)
内心で叫び、ウォルターは横を向いて、ポリポリと人差し指で頬をかいた。
……まさか、ここまで反応がないとは。
(どうしたらいいんだ、コレ。布、引っぺがしちゃ駄目だよな……。足、つかむのもマズいよなぁ……)
これじゃ本当に見ていることくらいしかできない。
……でも、それは嫌だ。
とりあえず始めちまえばいいか、と、そっと手を伸ばしてベッドの上のカードを手に取り、箱のふたを開けようとした。
アンディの顔を注意深く見守りながら。