君を守る
エピローグ
「はぁぁぁぁぁぁぁ~。」
椿が重いため息をつく。
「ど~したの~?椿君。ため息なんかついちゃって~。」
軽い調子で榛葉が聞く。
「そーだぞ、椿。例の件は無事解決したんだろう?」
安形は机に頬杖を着いたまま椿を見る。
「いえ、そうなんですが・・・。」
浮かない顔だ。
もう枯れてしまった花を見つめながらもう一度、ため息をつく。
「はは~ん、さては椿。桜さんに会う口実が無くなったのがさみしいんだろう。」
かっかっかっ、と安形が盛大に笑う。
「なっ!?会長!!!!」
顔中を真っ赤にしながら椿はガタンと立ち上がる。
「あらあら、お顔が真っ赤ですわよ~椿君。図星を刺されたようですわね~。」
丹生がコロコロと笑う。
「KOS・・・。恋に、溺れて、死ね・・・。」
浅雛もからかうようにぼそりとつぶやく。
生徒会室の全員から言われ何も反論ができない椿は、
「今日は失礼します!!」
と言い放つと、生徒会室を出て行ってしまった。
「おや~、椿君は今日も仕事を残して行っちゃったね~。どうすんの?これ。」
山積みになった書類の束を眺めながらのほほんと榛葉が安形に問いかける。
「ま、椿が本気を出せばこんなもん2、3日で片づけるだろう。ほおっておけ。」
安形は興味なさげに、窓の外へ目を移した。
その目がとらえたのは、校門の傍に立つ人影だった。
「いや、やっぱりお前がやっとけ道流。」
「えぇっ!?今、ほおっておけって!」
榛葉が抗議の声を上げるが、安形はその人影を見つめたまま言った。
「椿はこれから忙しくなりそうだ。」
生徒会室を後にした椿はスケット団の部室に向かっていた。
『やはり、きちんと礼ぐらい言っておいたほうがいいだろう。
癪だが、世話になったのは事実だ。』
ぶつぶつと自分に言い聞かせるようにつぶやく椿。
そうこうしている間に、部室の前へ到着した。
呼吸を整え、椿は勢いよく扉を開いた。
「おい、いるか!!」
椿の問いに答える人間はいなかった。
部室はもぬけの空だ。
「なんだ、せっかく来てやったというのに誰もいないのか。」
拍子抜けした、とばかりに肩を落とした。
『仕方がない、明日にするか。』
くるりと踵をかえし、今度は下駄箱に向かう。
『もう、あの商店街に用はない・・・。帰ろう。』
しかし、下駄箱まで来ると見知った三人の後ろ姿が目に留まった。
『こいつら、こんなところで何をしているんだ?』
椿はボッスンに声を掛けるべく近づいていく。
「おい、藤崎。貴様に用がある。」
声を掛けられたボッスンはビクッと体を震わすと、思い切り振り返った。
「お前、こんなとこで何やってんだ!!」
そのまま、椿に詰め寄る。
「は?僕は帰ろうとして、いや、貴様に言っておくことが・・・」
「んなこと、どーでもええ!こんな所でグズグズしとらんと、はよいきーや!!」
「うまくやるんだぞ、椿。君に幸あれ。」
「いや、何を言ってるんだお前達。僕はお前たちに用があってだな!」
「い、い、か、ら!!!さっさと行け!まってっぞ!!!」
ドンッと三人に背中を押され椿は外に追い出された。
『なんなんだ、いったい。何を言って・・・、え?』
椿の視線の先には校門の横でたたずむ桜がいた。
『え?なんで?』
困惑して動けなくなっている椿に桜が気づくと、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「椿君!!」
大きく手を振りながら走ってくる。
自然と、椿も速足に桜に近づく。
「桜さん!?どうしてここに?」
「あ、あのね。椿君に聞きたいことがあって・・・」
少し息を切らしながら話す桜。
「あの時言ってくれたこと。」
椿のそばまでやってくると、息を整える。
「あの時?」
「言ってくれたよね。好きな人は守るものだって。
椿君は私を守ってくれた・・・。」
そこまで言って深呼吸をする。
「椿君はどうして私を守ってくれたの?」
頬を赤らめながら恥ずかしそうに、しかしまっすぐと椿を見据える。
「私、うぬぼれても・・・、いいのかな・・・?」
不安そうに聞く桜。
椿の鼓動はドクンと高鳴った。
『あぁ、俺はこの人が・・・、この人の事が・・・。』
「好きです、桜さん。この先もずっとあなたを守っていきたい。」