Plam5
■カルテ
雲雀恭弥の血液型は不明だ。本当の意味で、不明だ。今まで発見されたことのない血液型。彼の遺伝子上の父母がニ親等であったことが原因か?いや不明。しかし、互換性――あえてこの単語で述べよう――に、富んでいる。それこそ特殊な血液型以外のものとの輸血が可能だ。
しかし、臓器にかんしては、まるで予想がつかない。そう、世界最高の医療チーム主任、シャマルは述べる。
「ま、どうでもいいがな」
どんな症例だろうと、女の微笑の不可思議さにはかなわん。
■オペ
リボーンは意外な場所に意外な…あるいは予想がついていた人物の姿を発見。後、瞬時の判断。その人物に対して最もふさわしい挨拶をした。飛び蹴りである。
ランボは背骨が折れてもおかしくない衝撃に、ぶつかる。手術中、と赤いランプが点った扉に。
珍しいことに、悲鳴を上げない。
「よお、元気そうだったな」
確かにリボーンの挨拶がなければ元気だっただろう。彼はヒットマンゆえ正確だ。ただしい。そう彼はいつも。
リボーンの行為は、普遍的に正しい。
「これで、よかったのか?」
殺意も敵愾心もきちんと持ってる牛君も、リボーンが正しくあることは知っていて、それでも、本当に小さく声を出す。疑問の形の泣き声だったのかもしれない。
面倒だから殺してやろうかと、半瞬考えて。殺すのも面倒だったのでもう一度蹴りあげることにした。タダ働きはしないのだ。
「バカだな」
正しいけれど、殺し屋が、善い行いなんぞするものか。
■ベッド
麻酔の効果が切れて2時間後。ベッドの上で身動ぎひとつせず目を開けた雲雀の第一声。それを聞いた草壁は戦慄を通り越して畏怖したという。雲雀は、目覚めると同時に自分の身に起きた事実を理解したのだ。
つまり。
「つまり僕は、5年も前に死んだあの男に助けられたわけだ」
感情が欠落した声だからこそ渦巻く激情があるのでは、と草壁は勘繰る。不正解だ。雲雀は、ただ、眠いのだ。
■リハビリ
カンキョウハカイが進んだと言われるコンニチ。とはいえ世界は今日も進む。
「そんな簡単に、死にやしねえさ」
帽子の似合う殺し屋は、車椅子でも奔放な男と、シチリアの風を浴びる。草原が海のように波立つ。
「生かしていたの」
雲雀という男は車椅子に座ってもおよそ病弱とはかけ離れている。生命力がぎゅっと高濃度で詰まっているからだろう。
「言っておくがあのアホ、脳死はしてねえからな。」
「とはいえ5年だ」
「そう、5年だ」
「なぜ、生かしておいた」
「まさに、この日のために」
5年前に受け取ったドン・ボンゴレ10世、急逝の報。その裏側を知り雲雀は呆れ返る。
「大空は調和。それでもっておそらく歴代ボンゴレのなかでも調和の具合は桁外れ。ヒバリお前に移植したあいつの臓器だけどな。多分拒絶反応でねーぞ」
殺し屋はにやり、笑う。
「医師どもみんなマンマミーア!変化したんだとよ」
カメレオンのように、臓器が。
「もし、お前に臓器移植の可能性有らば、自分のを使え。それが昏睡状態に入る前の、あいつの伝言だ」
■X
―…よぉ、元気か。念のため断っとく。これは一度きりの再生だ。最も世の中大抵そうだな。いいよな限りがあるって。
まあ、限りがあるからこそ厄介なこともあるけどな。それこそ臓器とかな。ミツバイが絶えねえ最大の理由だ。倫理的事情含めて数がないから、無理にでも集めようとする。集めたところで合わなければ使えないシロモノなら、なおのこと。
ただあのアホが、人工臓器開発に着手した理由はかなり私的だ。予想着くだろ。そう、クロームだ。完全身内。それでもちゃんと自分で開発チームとやり取りしてたから、めずらしくやる気あったな。
ちなみにあのアホが考えた、人工臓器のカラクリだけどな。そいつはもうわらっちまうほど身近にある。匣だよ。人間多かれ少なかれ炎を持ってる。これを利用できないかと考えたわけだ。アホだろ。夢物語も大概にしろとおもうぜ。でも、人間かっさばくよりは、ましだと思ったんだろうよ。詳細知りたきゃ変態医師を訪ねてみるんだな。
さて。
雑談もこれくらいにして本題に入るか。
ヒバリ。沢田綱吉の脳波に変化が生じてる。起きるかもな。あと、さっき言った人工臓器な。実は実験段階までは進んでんだよ。で、最初のモルモット、アホになったぜ。まあ、多分大丈夫じゃねえの。
ああ、そうだ。あとひとつ。
その人工臓器のせいかよくわかんねーけどな。染色体も変化した。XXになったぜ。医師ども狂喜乱舞の失神者続出だ。もうレントゲン写真見るのが今から恐ろしいぜ。
じゃあな。
プライベートPCに不正アクセスをしてきたファイルを開いたら、一気に流れてきた音。ファイル名「パンドラボックスより厄介な大空の匣について」
開いてよかったのか悪かったのか雲雀にはわからなかった。ただ、雲雀がこれから遭遇する事象を回避したいのであれば、それは故郷の中学校時代からやり直さなければならず、要するに。
「遅刻ばかりだ本当に」
5年のブランクを埋めて、遅刻魔でアホな人間との関係を進めたほうが、堅実だった。