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殺生丸さまの看病物語

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翌朝、太陽が顔を出した頃、殺生丸は戻ってきた。りんの横でうとうとしていたかごめは、ものすごい量の果物を抱えている殺生丸を見てびっくりである。多種多様、色とりどりの果物が床に積み上げられた。りんに食べさせようというのだろう。もしかすると、一晩中あちこちで果物採集に勤しんでいたのかもしれない。
「殺生丸・・・そんなに??」
「りんはどうだ?」
「うん、大丈夫。熱が大分下がったわ。寝汗かいたから、さっき着物変えておいた」
「そうか・・・」
寝入っているりんの横に殺生丸がそっと座り、りんの額に手をあてる。
「・・・熱が下がっている」
「ね?薬、利いたみたいね。よかった」
「りん・・・」
殺生丸は愛しくてたまらぬという風に、りんの頬をなでた。
(殺生丸ったら・・・。幼妻りんちゃんにめろめろって感じ・・・)
「う・・ん・・・」
りんが目を開けた。
「りん」
殺生丸がりんの顔を覗き込む。
「あ・・・殺生丸さま・・・」
「りん。もう大丈夫だ。熱が下がった」
「はい・・・あ・・かごめさま、どうもありがとうございます、世話してくれて・・・」
「ううん、何でもないよ。りんちゃんの熱が下がってよかった」
「はい。今朝はだいぶ、体が軽いです」
「りんちゃん、何か食べられる?殺生丸が果物採ってきてくれたよ?薬飲む前に何か食べたほうがいいから」
「はい・・・殺生丸さま、かごめさま、ありがとうございます」
りんは起き上がろうとする。殺生丸がすぐに後ろに回ってその背を支える。
「無理するな、りん」
「大丈夫、殺生丸さま。殺生丸さまがせっかく採ってきてくれたんだもの、果物食べるね」
「そうか。私が食べさせてやろう。どれがいいか?」
「えっとね。その瓜みたいなのがいいな」
「これか?」
殺生丸はその果物を自分の牙でかみとり、りんの口に入れた。
「ん・・・おいしい」
「そうか」
殺生丸は嬉しそうに微笑んだ。ほっとしたのだろう。
(なんだか、私、お邪魔虫みたい・・・)
かごめはそっと家から出ていった。


しばらくして殺生丸がりんを抱えて家から出てきた。
「りんちゃん!もう動いて大丈夫なの?」
「大丈夫です、かごめさま。どうもありがとうございました」
「もう一日二日泊まっていったほうがいいのじゃない?」
「お気遣いありがとうございます、かごめさま。でも、大分よくなりましたし・・・それに、早く家へ帰りたくて・・・」
りんはぽっと頬を染めた。殺生丸はりんをじっとみつめている。
(家・・・そうか・・・りんちゃんにとって、殺生丸と暮らしている屋敷が、もう「家」なんだ・・・。)
かごめはふっと笑った。
「わかったわ。りんちゃん、薬をあと一日は飲んだほうがいいよ。あまり無理しないでね」
「無理などさせぬ」
殺生丸が答える。
「はいはい。お大事に」
「世話になった」
殺生丸は一言いってりんを抱いて空へ舞い上がっていった。
(りんちゃんと殺生丸・・・あの二人、もう本当に夫婦なんだな・・・)
かごめは空中で小さくなっていく二人を見送った。


「殺生丸さま、どうもありがとうございます。殺生丸さま、人里嫌いなのに・・・。りんのために無理させてしまって・・・」
「無理などしとらん。お前の病が治るなら、それでいい」
「殺生丸さま、やさしい・・・」
「りん。お前は私の妻だ。気遣うのはあたり前だ」
「うん。ありがとう、殺生丸さま・・・」
殺生丸の力強い腕に抱かれて空を飛びながら、りんはあたたかい幸せを感じていた。
「りん。しばらくの我慢だ」
家路の空を飛びながら、殺生丸はりんがなるべく風に当たらないように両腕の奥に抱きしめた。
「はい。殺生丸さま、りんは大丈夫。熱が下がって大分楽になりました」
「そうか」
「かごめさまにもお世話になっちゃって・・・」
「あいつはお前の義理の妹だ。お前の世話をするのは当然だ」
「え・・・」
(殺生丸さまにそういう自覚あったんだ・・・犬夜叉さまのことだって弟として認めてないってふりしているのに。かごめさまに義兄さんって呼ばれてむっとしてるのに・・・)
りんはおかしくなって、くすくす笑ってしまった。
「りん?どうした?」
「いいえ、いいえ、殺生丸さま、何でもありません。ね、りんはね、やっぱり、家が一番いいです。早く家に帰りたい」
「もうすぐだ」
「殺生丸さま・・・」
りんはやさしい夫の胸に頭を寄せた。
「りん・・・」
「はい?」
「あまり心配させるな。お前にもしものことがあれば私は・・・」
殺生丸はぐっとその先の言葉をのみこんだ。言葉にすることさえ、忌むべき想像だった。殺生丸はりんをいっそう強く抱きしめて家路の空を急いだ。


帰宅した犬夜叉が、殺生丸の匂いに気づいて思いっきり不機嫌になった。
「かごめ~殺生丸が来てたのかよ~」
「うん、りんちゃんが風邪引いちゃってね。殺生丸ったら真っ青になってここへ連れてきたの。私の風邪薬あげてよくなったけど」
「けっ!!殺生丸らしくもねえ」
「そうかなあ。すごく殺生丸らしいと思うけど?昔から殺生丸ってりんちゃんのことになると人格変わったもん」
「けっ!!りんの奴も殺生丸なんかのところに嫁いで苦労してるぜ」
「そうでもないと思うよ。殺生丸って、もう、りんちゃんにめろめろって感じだもん。りんちゃんが大事で大事でしかたないって様子だったよ」
「あの殺生丸がか~?」
「そうなの。私もちょっとびっくりしたけど。もうりんちゃんに薬のませたり、果物食べさせたり、そりゃもう甲斐甲斐しく面倒みてたよ」
「信じられねえなあ」
「それに、りんちゃんも殺生丸に大切にされてすごく幸せそうだったよ。りんちゃんと殺生丸の間には誰も入り込めないっていうか、もう二人の世界!って感じ。りんちゃん、きっとすごく幸せだよ」
「けっ!」
「殺生丸ってどんな時でもりんちゃん第一だったもんね。ずっとりんちゃん一筋で」
「・・・・」
「とにかく、りんちゃん以外の女なんて目にも入らないって感じだったものね、昔から」
「・・・・」
「二股なんて言葉さえ殺生丸は知らないよね~」
「・・・かごめ・・・お前、何かいいたいことあるのか?」
「あら、別に~」
「かごめ~」
何だかんだいっても、かごめの尻にしかれている犬夜叉であった。


作品名:殺生丸さまの看病物語 作家名:なつの