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東方 宝涙仙 <壱(1)~玖(9)>総集編

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 目先に映るのはさっき踏んだばかりの床に開いた大きな穴と、舞い吹く濃い煙だった。穴の周りに炎が散る。
「爆発犯登場ですかー?」
 目を鋭くするメイド長が床の穴に向かって語りかける。
 
「やっと、地上かしら?」
 煙の向こうから声が近づく。
「随分と深いとこに監禁したのね、お姉さまは」
 黄色い髪にフリルのついた帽子。まるで枝に多色の宝石がついたような奇妙な羽。そして炎を纏う時計の針のような棒を持った少女が姿を見せた。
「ねぇ、新メイド長?」
 今まさに牢獄から抜け出した少女"フランドール・スカーレット"がそこにいた。

「この爆発の犯人は…アナタですか?妹様…」
「違うわ」
「嘘をおっしゃらないで下さい。この館でこのような事をするのは基本アナタしかいないでしょう」
 従者とは思えない態度と口ぶりでフランドールに疑惑をかける。その姿もある意味瀟洒なメイドといえるかもしれない。
その二人にあかりは真実を伝えようと口を挟もうとする。 爆発の原因は自分が壊れたコンロを起動した自分のせいだと心の中で責めている。しかし、ここで口を挟めばメイド長は妹様に対して非常に無礼な事をしたこになる。
だから言おうにも言いにくいのだった。

「あかり!とりあえずここは逃げよう!妹様なんて敵うはずがない!」
「え…その、私は…」
「いいから早く!!」
 あかりの手を強引に引いてメイド長はフランドールから逃げた。
「待ってふたりとも、フランはもう誰も壊さないから!お話聞いて」
 フランドールが二人を止めようと呼びかける。フランドールは今は本当に狂気が抜けているようだが、二人はそんなことを信じるはずがない。
「信じちゃダメ!あかり、頑張ってもっと早く走って!」
 フランドールの言葉に聞く耳も持たずにメイド長は逃げようとする。しかしあかりはフランドールを信じて話を聞きたいらしく、メイド長の指示にあまり従ってない。おもちゃコーナーから出たくないが親に連れていかれる子供のように無理やり連れられている。
 フランドールは諦めた。フランドールは今まで、元メイド長咲夜を殺害したと疑惑をかけられそれを否定した結果監禁されていた。そんな自分を周りが信じるはずがないと自覚したのだ。
自分が本当に咲夜を殺していないのか、自分でもそれがわからなくなっている。もしかしたら自分が殺したかもしれないと牢獄で何度も悩んだ。
 フランドールは狂気を持つ自分に気付いてから自分が嫌いでしかたなくなってしまった。壊すつもりがない物も壊してしまう自分が嫌いで仕方ないのだ。自分が嫌いで仕方ない、それを考えるとまた狂いだしてしまう。そんな繰り返しだ。繰り返し繰り返し、何度も何度も繰り返し繰り返し、そして自分を壊したくなる。
 
 大きな穴の前で従者に信じてもらえず残された金髪の少女はぽつんと立ち尽くしていた。まるで少女の形をした石像のように。
自分の今までの行いでこんな扱いされるようになったのだと考え、涙がこぼれた。しかし彼女は涙を拭いて、とりあえず姉のレミリア・スカーレットを探すことにした。
「お姉ちゃんに謝ろう。フランが殺したんじゃないと思うけど…でももしかしたらフランが殺したかもしれないし。お姉ちゃん、許してくれるかな…」
 石像は一人でつぶやく。煙が舞い、炎が伝う廊下でただ一人。その宝石のような羽を動かし石像は動こうとした。

「ふーらんちゃん」
 石像の声以外の声が聞こえた。
幼い声?幼さと大人びた声の中間くらいの。
どっちにしろ廊下にはただ一人じゃなかった。
「ふーらんちゃん」
「チルノ?」
 石像の首が後ろを振り向ける。

「お…お前は……」
 どうやらチルノではなかった様だ。
 目の前に映る姿を見て
石像は時が止まったようにまた固まった。


          ▼拾(10)へ続く


~あとがき~

どうも作者です。今回の宝涙仙は特別版の総集編となっています。宝涙仙を毎回のように読んでくださってる方も、そうでない人もこれを読んで東方宝涙仙を好きになってもらえると嬉しいです。
感想・質問・苦情等のコメントも受け付けています。むしろコメント求めてます。
これからも宝涙仙、応援よろしくお願いします。
ちなみに表紙はオリジナルキャラ"かぼちゃん"です。描いてくれた駁さん、ありがとうございます!