魔法少女リリカルほむら、1枚目
夢という言葉がキライだった。
――私が望む明日(ミライ)には、必ず夜という終わりが来るから。
希望という言葉が嫌いだった。
――私が求める彼女の笑顔は、いつも悲しみに濡れるから。
受け入れたくない。
抗うしかない。
絶望したくない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
恋い焦がれたのは幸せな日常(セカイ)、手にしたのは魔法の言葉(チカラ)。
円環する時の中で、私はまた繰り返す。
彼女と生きる、優しい世界を勝ち取るために。
『魔法少女リリカル☆ほむら』
目覚めた私の目に映ったものは、パステル調の壁紙と、柔らかい純白のシーツだった。そのまま体を起こしあたりを見渡すと、よく見知った私の部屋と、愛用の家具、私が今寝ている、大きなベッドが置いてある。
「……また失敗したのね」
無意識的に私は、左手でシーツの裾を掴み、それを胸の方に抱き寄せる。そして、右手で本棚に置かれたものを手に取り、壁に背を預けた。
「ごめんね、まどか……」
手に取ったのは、木製の写真立て。私とまどかが写った写真。私の、大切な宝物。
眺めていると、ふと私の目を伝った滴が、写真立てを濡らしてしまう。
――どうか、今日だけは許してほしい。今はまだ夜だから。明日になれば、また闘い続けるから。だから。
ふと、窓の外に視線を移す。今はまだ夜であり、星明かりが微かに部屋を照らすように差し込んでいる。少しだけ淡い夜空。夢見るのは、この星明かりの下、まどかと語らう淡い恋物語。私は彼女のことをもっと知りたい。あなたの友達として。
「~~?ほむら、ちゃん?」
「!?」
突然の声に驚き、私の反射的な動きに、ベッドのスプリングが浅く沈む。
その最中、声がした私のシーツの中で、うつろげな眼を可愛らしく服の袖でこすりながら、体を丸めて猫のように眠っていた少女、まどかが私の方にゆっくりと顔をのぞかせた。
「ぇ、ちょっとまって、……まどか?」
目が合った私は、自分が直前まで泣いていたことを思い出し、思わず顔を背ける。
訳が分からない。どうしてまどかがベッドに? …考えが纏まらない、心臓の音、やけにクリアで五月蠅すぎっ。
「~~ぁぅ」
「……もう、仕方がないんだから」
大丈夫だよ。そう言ってまどかは、私の体をやわらかく包むように抱いて、あやすように髪をなでた。
ずっと、私の求めていた温かさ。私の愛する、彼女のひだまりのようなにおい。ふくよかな胸。私の大切な存在が、私を抱きとめてくれている。
彼女の温もりが、思考回路の断線(ショート)した私の意識を、ゆっくりと溶かしていく。
――いえ、少しだけ待ってほしいのだけれど。今何かおかしな表現をしてしまったような気がするわ。
無意識的に、私は顔をまどかの胸に埋める。そこには私をやさしく包む、彼女のふくよかな胸が……。
ふくよかな胸!?
瞬間、私が驚きのあまり顔を埋めた状態で叫んでしまい、まどかが可愛らしい悲鳴を上げる。
えぇ、本当に可愛らしい声だったけれど、今の問題はそこではないわ。
「ちょっと待ちなさいまどか!あなた、何故こんなにけしからん胸をしているの!?」
「ほむ!?」
「こんなの絶対おかしいわよ!何があったの、どうしてこうなった!?」
「えっと、QBにいたずらされ、て…?」
「」チャキッ
「ごめんごめんごめん嘘、嘘だから拳銃取り出すのやめてほむらちゃん!?」
本気で怯えるまどかの様子は、この時の私の目には映らなかった。
私が落ち着きを取り戻すには、それから割と時間が経っていた。
「分かったわ。私のまどかの胸の話は千歩、いえ万歩位譲って受け入れるとして――」
何かをあきらめた表情のまどかに疑問を感じつつ、私は続ける。
「――あなた、QBって何か分かるの、もしくは覚えているの?」
彼女の言ったQBという単語。
考えてみれば、今回のような状況でのスタートは、私にとってはイレギュラーだ。まどかと出会った後の時間から始めることは、一度もなかったからだ。なら、どうして前回の私はこの時間へとループしたのだろうか?そして、どうしてループ前後の記憶が抜け落ちているのか?
「(……つまり。私の過去へと戻る魔法にも、何らかの問題が発生したという事かしら。加えて、まどかの記憶に、引き継ぎが行われているとしたら、それはもう異常事態としか言いようがないわね。)」
私が張り詰めた表情をしていたせいか、まどかは私の緊張をほぐすように、穏やかな声で話した。
「……あのね、ほんの少しだけど、覚えていることがあるの。悲しい表情のさやかちゃんや、会ったことないはずの女の子の優しい笑顔。林檎みたいに朱い、女の子の最後の言葉。」
大切な思い出を語るように、一つ一つに表情を変えながら話すまどか。彼女は、それとね、と続けた。
「私の大好きな人が、私のために辛い思いをしたこと。具体的なことは思い出せないけど、この心が覚えてる。だから、始めてほむらちゃんと出会ったときに、思ったの。
あぁ、この人は私にとって、大切な人なんだって。」
まるで、一目ぼれだよね。そう言って苦笑するまどか。私のことを、大切な人だと言ってくれた彼女に、内外間私の中で行き場を失っていた心の声が、滴となって、涙となって一気に溢れてしまった。
――もう、今回の私はダメダメだ。形無しなんて言葉では済まない。泣いてばっかり、バカみたい……。
あなたを守りたい。あなたの助けになりたい。貴方を抱きしめたい。
それだけをずっと、私は夢見てきたんだよ?
子どもの様に泣き続ける私を、まどかに慰めてもらいながら、長い夜は更けていった。
青空を眺めるのが好きでした。
落ち込む私を、励ましてくれる景色だから。
兎にした林檎が好きでした。
淋しがりやな私を、慰めてくれる気がするから。
紅茶の甘い香りが好きでした。
ちょっぴり疲れた私を、優しく包んでくれる存在だから。
私の好きなもの、私の好きな人たちをつなぐ、大切な記憶の断片(カケラ)。
けど、ときどきこの宝物(カケラ)を見ていると、
たまらなく泣きたくなってしまうのは、どうしてなのかな、ほむらちゃん……。
校舎内に鳴り響く、一日の始まりを告げる鐘の音が、午前7時を知らせます。
普段より早く登校した私は、一緒に登校してきたほむらちゃんと、お話をしていました。
「お話っていっても、ほむらちゃんずっと寝ぼけてるんだけどね……。」
「~~ぁぅ。」
登校中、ふらふらとおぼつかない足取りで、私が声をかけると幸せそうに反応するこの女の子に苦笑しつつ、授業開始までの時間を、保健委員の権限を使って(←越権だけどねっ)、人のいない保健室のベッドを借りたのが10分ほど前。
今、私はほむらちゃんのひざ枕なう。
お母さん的気分、絶賛感じ中。
ベッドの端に腰掛ける私は、頭を私のひざに乗せ、ベッドに身体を横たえたほむらちゃんに対して、悪戯っぽく声をかけました。
「……ほむらちゃん。お母さんって、呼んでみて?」
「~~?まどか、おかぁさん。」
――私が望む明日(ミライ)には、必ず夜という終わりが来るから。
希望という言葉が嫌いだった。
――私が求める彼女の笑顔は、いつも悲しみに濡れるから。
受け入れたくない。
抗うしかない。
絶望したくない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
恋い焦がれたのは幸せな日常(セカイ)、手にしたのは魔法の言葉(チカラ)。
円環する時の中で、私はまた繰り返す。
彼女と生きる、優しい世界を勝ち取るために。
『魔法少女リリカル☆ほむら』
目覚めた私の目に映ったものは、パステル調の壁紙と、柔らかい純白のシーツだった。そのまま体を起こしあたりを見渡すと、よく見知った私の部屋と、愛用の家具、私が今寝ている、大きなベッドが置いてある。
「……また失敗したのね」
無意識的に私は、左手でシーツの裾を掴み、それを胸の方に抱き寄せる。そして、右手で本棚に置かれたものを手に取り、壁に背を預けた。
「ごめんね、まどか……」
手に取ったのは、木製の写真立て。私とまどかが写った写真。私の、大切な宝物。
眺めていると、ふと私の目を伝った滴が、写真立てを濡らしてしまう。
――どうか、今日だけは許してほしい。今はまだ夜だから。明日になれば、また闘い続けるから。だから。
ふと、窓の外に視線を移す。今はまだ夜であり、星明かりが微かに部屋を照らすように差し込んでいる。少しだけ淡い夜空。夢見るのは、この星明かりの下、まどかと語らう淡い恋物語。私は彼女のことをもっと知りたい。あなたの友達として。
「~~?ほむら、ちゃん?」
「!?」
突然の声に驚き、私の反射的な動きに、ベッドのスプリングが浅く沈む。
その最中、声がした私のシーツの中で、うつろげな眼を可愛らしく服の袖でこすりながら、体を丸めて猫のように眠っていた少女、まどかが私の方にゆっくりと顔をのぞかせた。
「ぇ、ちょっとまって、……まどか?」
目が合った私は、自分が直前まで泣いていたことを思い出し、思わず顔を背ける。
訳が分からない。どうしてまどかがベッドに? …考えが纏まらない、心臓の音、やけにクリアで五月蠅すぎっ。
「~~ぁぅ」
「……もう、仕方がないんだから」
大丈夫だよ。そう言ってまどかは、私の体をやわらかく包むように抱いて、あやすように髪をなでた。
ずっと、私の求めていた温かさ。私の愛する、彼女のひだまりのようなにおい。ふくよかな胸。私の大切な存在が、私を抱きとめてくれている。
彼女の温もりが、思考回路の断線(ショート)した私の意識を、ゆっくりと溶かしていく。
――いえ、少しだけ待ってほしいのだけれど。今何かおかしな表現をしてしまったような気がするわ。
無意識的に、私は顔をまどかの胸に埋める。そこには私をやさしく包む、彼女のふくよかな胸が……。
ふくよかな胸!?
瞬間、私が驚きのあまり顔を埋めた状態で叫んでしまい、まどかが可愛らしい悲鳴を上げる。
えぇ、本当に可愛らしい声だったけれど、今の問題はそこではないわ。
「ちょっと待ちなさいまどか!あなた、何故こんなにけしからん胸をしているの!?」
「ほむ!?」
「こんなの絶対おかしいわよ!何があったの、どうしてこうなった!?」
「えっと、QBにいたずらされ、て…?」
「」チャキッ
「ごめんごめんごめん嘘、嘘だから拳銃取り出すのやめてほむらちゃん!?」
本気で怯えるまどかの様子は、この時の私の目には映らなかった。
私が落ち着きを取り戻すには、それから割と時間が経っていた。
「分かったわ。私のまどかの胸の話は千歩、いえ万歩位譲って受け入れるとして――」
何かをあきらめた表情のまどかに疑問を感じつつ、私は続ける。
「――あなた、QBって何か分かるの、もしくは覚えているの?」
彼女の言ったQBという単語。
考えてみれば、今回のような状況でのスタートは、私にとってはイレギュラーだ。まどかと出会った後の時間から始めることは、一度もなかったからだ。なら、どうして前回の私はこの時間へとループしたのだろうか?そして、どうしてループ前後の記憶が抜け落ちているのか?
「(……つまり。私の過去へと戻る魔法にも、何らかの問題が発生したという事かしら。加えて、まどかの記憶に、引き継ぎが行われているとしたら、それはもう異常事態としか言いようがないわね。)」
私が張り詰めた表情をしていたせいか、まどかは私の緊張をほぐすように、穏やかな声で話した。
「……あのね、ほんの少しだけど、覚えていることがあるの。悲しい表情のさやかちゃんや、会ったことないはずの女の子の優しい笑顔。林檎みたいに朱い、女の子の最後の言葉。」
大切な思い出を語るように、一つ一つに表情を変えながら話すまどか。彼女は、それとね、と続けた。
「私の大好きな人が、私のために辛い思いをしたこと。具体的なことは思い出せないけど、この心が覚えてる。だから、始めてほむらちゃんと出会ったときに、思ったの。
あぁ、この人は私にとって、大切な人なんだって。」
まるで、一目ぼれだよね。そう言って苦笑するまどか。私のことを、大切な人だと言ってくれた彼女に、内外間私の中で行き場を失っていた心の声が、滴となって、涙となって一気に溢れてしまった。
――もう、今回の私はダメダメだ。形無しなんて言葉では済まない。泣いてばっかり、バカみたい……。
あなたを守りたい。あなたの助けになりたい。貴方を抱きしめたい。
それだけをずっと、私は夢見てきたんだよ?
子どもの様に泣き続ける私を、まどかに慰めてもらいながら、長い夜は更けていった。
青空を眺めるのが好きでした。
落ち込む私を、励ましてくれる景色だから。
兎にした林檎が好きでした。
淋しがりやな私を、慰めてくれる気がするから。
紅茶の甘い香りが好きでした。
ちょっぴり疲れた私を、優しく包んでくれる存在だから。
私の好きなもの、私の好きな人たちをつなぐ、大切な記憶の断片(カケラ)。
けど、ときどきこの宝物(カケラ)を見ていると、
たまらなく泣きたくなってしまうのは、どうしてなのかな、ほむらちゃん……。
校舎内に鳴り響く、一日の始まりを告げる鐘の音が、午前7時を知らせます。
普段より早く登校した私は、一緒に登校してきたほむらちゃんと、お話をしていました。
「お話っていっても、ほむらちゃんずっと寝ぼけてるんだけどね……。」
「~~ぁぅ。」
登校中、ふらふらとおぼつかない足取りで、私が声をかけると幸せそうに反応するこの女の子に苦笑しつつ、授業開始までの時間を、保健委員の権限を使って(←越権だけどねっ)、人のいない保健室のベッドを借りたのが10分ほど前。
今、私はほむらちゃんのひざ枕なう。
お母さん的気分、絶賛感じ中。
ベッドの端に腰掛ける私は、頭を私のひざに乗せ、ベッドに身体を横たえたほむらちゃんに対して、悪戯っぽく声をかけました。
「……ほむらちゃん。お母さんって、呼んでみて?」
「~~?まどか、おかぁさん。」
作品名:魔法少女リリカルほむら、1枚目 作家名:メア@這いよる篝ちゃん