こらぼでほすと ニート3
はい、と、素体の口に、付け合せのグレープフルーツを含ませる。すると、素体のティエリアは、うっと顔を顰めて酸っぱい顔をした。
「これが経験するということだ。グレープフルーツは映像で確認する限りは、どれだけ酸っぱいかなんてわかんないだろ? 外の景色も同じことだ。身体で感じるものがなければ、それは経験にはならないし、一緒に体験したとも言わない。」
その場所に行かなければ、風の流れや湿度、温度なんてものは実感できない。何より、それを一緒に体験するには、どちらも同じように辿り着かなければ意味が無い。苦労して辿り着いた共通の思い出があればこそ、一緒に体験したと言えるのだ、と、ニールは微笑んで、素体のティエリアの口に餡子を含ませた。そう説明されると、ティエリアも納得する。経験するというのは、ヴェーダから覗くだけでは無理だということだ。
「ヴェーダと切り離されないために、あまり辺境地には行けないかも知れないけどさ、それを考慮すればいいだけだと思うんだがな? ティエリア。」
携帯端末のパネルに投影されていたティエリアは消えて、素体の口がもぎゅもぎゅと動く。ありがとさん、と、黙って経過を見ていたアレルヤに携帯端末を返すと、ニールが、そう言って笑う。アレルヤが口直しに、水を渡す。
「きみは、それほど、俺と旅をしたいのか?」
「うん、同じものを見て、同じものを体験してみたいよ? ティエリア。」
「刹那のように何ヶ月にも渡って、というのは無理だ。」
「うん、少しでいいから。」
「行って来いよ? ティエリア。それで、俺にも話してくれ。どんな風が吹いていたか、暑かったか寒かったか、どんな生き物がいたのか、そういうのを話してくれると嬉しいぜ。」
「リジェネは、ティエリアを切り離したりしないと思うよ? なんなら、一緒に行けばいいんだ。それなら、ふたりとも、外に居るから片方だけ勝手なことはできないでしょ? 」
アレルヤが一緒に過ごした限り、リジェネは、そういうことをするつもりはないように思えた。今まで、二人だとティエリアは知らなかったから、それを今から補いたいと考えている様子だったからだ。
「俺も逢ってみたいな。」
「今度、降りてくる時に誘ってみるよ。リジェネもニールに逢いたいって言ってたから。」
「ダメだ。あいつは、ニールと関係ないんだから連れてくるなんて反対だ。」
「でも、おまえさんの双子さんなんだろ? ちょっと興味があるぜ。」
「これ以上、愛情の分散がなされるのは御免だ。あなたは俺たちのおかんなんだ。リジェネまで参加されたら、俺に注がれる愛情が半分になる。」
「いや、そういうもんでもないと思う。それに、そのリジェネが、おまえさんみたいに、俺のことをおかんだと言うとは限らないしな。」
「・・・あ、そうだ。あいつは、俺たちにはおかんなんて存在しないと言ったんだ。」
「あいつにはいないけど、おまえさんには居るんだよ。」
ティエリアにとって、ニールはおかんだというのは事実だ。リジェネは、そんなものはないと否定したが。
「僕らのお母さんでもあるよ? ねぇ、ハレルヤ。」
「当たり前だ。」
「できれば、お兄さんがいいんだけどなあ。」
「何言ってやがる。おまえは、おかん以外在り得ねぇーだろ。てか、決着ついたんだから、メシを食え。それから漢方薬を飲ませてやんよ。」
常識派のハレルヤは、ニールが忘れたフリをしていることも見逃さない。さっき、食間の分をスルーしていたので、食後に飲ませるつもりだった。けけけけけ、と、笑ってからアレルヤとチェンジする。
「そんなきっちりしなくてもいいんだけど? 」
「おまえのマズイって顔が楽しいからやるんだ。俺には楽しいアトラクションだぜ? ニール。」
そんなことを言うハレルヤだが、実際は違う。的確にクスリを飲ませて安定させておきたいのが狙いだが、まんま言うのはハレルヤには恥ずかしいから、こういうことになる。
作品名:こらぼでほすと ニート3 作家名:篠義