こらぼでほすと ニート3
「そうだな。そういう共通の思い出って大事だ。・・・・行って来いよ? アレルヤ。」
「うん、ありがとう。戻ったら、刹那にも相談してみる。とりあえず、ダブルオーの再生を終わらせて、ある程度、組織の復興ができてからになると思う。」
「そうだな。いきなりは無理だろうな・・・・・ごめんな、手伝えなくて。」
「ニールは組織から外れてるでしょ? 戻れると思わないほうが良いよ? 絶対に刹那が反対するから。」
というか、マイスター組全員が、ニールの復帰は阻止することで意見は纏まっている。死んでもいいから、なんていう戦い方をするニールは、マイスターにも組織にも危険すぎて戻って欲しくない。それなら、マイスターたちの戻れる場所で待っていてくれるほうが嬉しい。アレルヤの言葉に、ニールも苦笑して降参とばかりにホールドアップする。復帰するにしても時間がかかるのは、自分がよくわかっている。
キラとティエリアの複雑怪奇な打ち合わせは終了して、システム設計も形になった。後はお互いに、システムを構築してマッチングするという段階になる。それは、システムを構築してからのことだから、現時点でできることは終了だ。ラボに数日泊まりこみで、打ち合わせをしたので、予定よりは早く終わった。すでに、ニールは本宅からトダカ家に移動している。アレルヤも、そちらについている。
「ティエリア、少しは休めるの? 」
「二日が限度だ。」
さすがに、復興にかけて混乱状態にある組織を放置して、のんびり休暇を取るわけにはいかない。マイスター組は、三ヶ月も身体を休めているのだから、これ以上には無理だ。
「二日? もっとゆっくりすればいいのに。」
「そうも言ってられないだろう。次は、アホライルが十月後半ぐらいに降下する予定だ。」
とりあえず、ニールの傍に誰かを配置することにした。それで体調を維持してもらえば、ダブルオーの再生まで持ち堪えてくれるだろうと考えている。ドクターからの説明はティエリアだけが受けた。あまり時間がないのだ。今すぐではないものの、悪化した細胞が暴れれば、危うい。
「ママのことは、僕らも気をつけてるからね。」
「ああ、頼んだぞ、キラ。」
ふたりして、ラボからヘリで移動する。今夜はトダカ家にお泊まりの予定だ。明日は、寺へ戻るらしい。そちらで三蔵に挨拶して夕方には飛行機で軌道エレベーターへ移動する。二日の時間だと、そんなものだ。本宅からはクルマで店に移動する。今夜はウィークデーだから、店がある。
店の前でクルマを降りたら、アレルヤが待っていた。キラとアスランは、そのまま店に入る。挨拶だけしておこう、と、アレルヤがティエリアを店に案内する。いつものメンバーに挨拶だけすると、そのままトダカ家へと案内される。ティエリアも、トダカ家には滞在したことが、あまりない。
「ただいま。」 と、玄関を入ると、「おかえり。」 という声と共に親猫が現れる。すっかり体調は戻った様子で、ニコニコと出迎えてくれる。
三人で食事をする。ニールがティエリアのリクエストに応えて用意したものだ。それほど豪華ではないが、品数は多い。トダカ家で静養している時も、トダカの晩酌のアテは作る。それと普通のおかずだから種類が増えた、と、ニールは言いつつ、ティエリアにごはんを渡す。
「明日は夕方に出発なんだよな? 夜食でも用意しておこうか? 」
「いいえ、それは結構です。それより、ちゃんと食事をしてください。」
用意はするが、それほど食べる気のない親猫に、紫猫のツッコミだ。無理を言うつもりはないが、ある程度は胃を動かさないと体調が回復しないからの小言だ。はいはい、と、親猫も食事に手をつける。
「次は春ぐらいになる予定だ。」
「ああ、キラが冬ぐらいに上がるんだってな。」
「刹那も冬には降りてくるだろう。まだ、予定は未定だが・・・」
「いろいろと忙しいだろうからな。こっちのことは気にしなくていいって言っておいてくれ。」
マイスター組リーダーともなると、雑用も多いし、実働部隊の、これからの予定についても考えなければならない。新しいMSは、これからだが、小さな介入はやることもある。ニールがマイスターだった頃も、MSが完成するまではエージェントと同じように仕事をしていたこともあるから内情は理解している。
「刹那が留守をする場合は、俺が代行するから問題はない。あいつだって休暇は必要だ。そう邪険にしないでやってください。」
「おまえさんだって必要だろ? 」
「俺は、必要ではない。」
きっぱりとティエリアが宣言する。ほらね、と、アレルヤはニールに視線で合図して頬を歪めた。ここいらで話を振るか、と、ニールも口を開く。
「アレルヤが世界放浪の旅をするって聞いたけど、おまえさんも一緒に行けばどうだ? 」
親猫の問いかけに、ギロリと紫猫はアレルヤを睨む。余計なことを言ったな、という怒りの視線だ。
「ヴェーダと繋がらない状態は好ましい状態ではありません。旅をすれば通信状態の悪い場所もある。」
だから行かない、と、ばっさりと親猫の提案を切り捨てた。親猫のほうも、なるほど頑なになってるな、と、気付く。
「経験というものは得られるぞ? 」
「その代わり、ヴェーダとのリンクを断ち切られる可能性も浮上する。今、俺とリジェネがヴェーダを掌握している。万が一、リジェネが俺を排斥しようとすれば、そのリンクが切れた時が狙い目だ。それに経験というなら、アレルヤが俺と通信を繋げてくれれば、同じものを見ることができる。経験は、それで積めるはずだ。」
「そういう場所に行かなければいいだろう。それにな、ティエリア・・・・」
ニールは、事前に借りたアレルヤの携帯端末を取り出して組織との回線を開く。そして、ティエリアに、こちらから飛んで来い、と、命じた。
「なぜ。」
「とりあえず、出て来い。通信が繋がれば、おまえさんは、どこへでも出て行けるんだろ? 」
素体に、ある程度の意識は残したまま、ティエリアはヴェーダ本体へと意識を戻す。もちろん、アレルヤの携帯端末に自身の姿を映すくらいは朝飯前だ。
「これでいいですか? ニール。」
「ああ、それでな、ここに、おまえさんの好きなアンミツを用意する。」
冷蔵庫から市販のアンミツを取り出して、それを携帯端末の前に置く。ティエリアがお気に入りのスイーツだ。それを食べられるようにセッティングすると、ニールは意地悪な笑顔を作る。
「どうだ? 食べられないよな? 」
「当たり前です。ただし、成分は分析できるし、視覚的には完璧に俺の目に入ります。」
「うん、でも食べられないよな? 」
ほれ、と、スプーンで寒天を持ち上げて、パネルに映るティエリアの前に、わざと見せ付ける。それは当たり前のことだ。いくら成分や映像が把握できても、素体がなければ口にすることはできない。そのことは、素体が出来上がるまで、アレルヤと暮らしてイヤというほど体験したことだ。
「だから、何なんですか? 」
「つまり、実際に触ることも食べることもできないのは、経験したとは言わないってことだ。携帯端末を繋いで、その場所に行けると言うのは、経験することじゃない。ライブラリーの映像を眺めているのと同じことなんだ。」
作品名:こらぼでほすと ニート3 作家名:篠義