愛し子1
淹れたての紅茶をこぼして、火傷をしてしまった時だ。イギリスが半泣きになって「ばかぁ!なにやってんだよぉ」とオロオロしている横で、イギリスの家の執事が的確に手当てをしてくれた。彼は俺を親しげに呼ぶことも笑いかける事も無く、いつも静かに「アルフレッド様」と頭を垂れ、子供にも敬意と礼節をもって接してくれていたが、子供だった俺は心の見えない彼が苦手だった。だから、自分の執事にはフレンドリーさを求めたのだけれど。
思えば、今まで何もかも「イギリスとは違うように」やってきたような気がする。イギリス、イギリスはこの痛みをどうやって抱えているんだろう。今になってわかる。どれだけイギリスが自分を可愛がり、大切にしていたのか。失ってから気づいて、大きな痛みの一つとなった感情のために、イギリスには相談できない。やはり相談には日本が適任だ。
「アル、怪我が無くて良かったよ。朝食の準備はできているけど、これからどうするんだい?」
陽気な笑顔を取り戻した執事が、やさしく尋ねる。頼めばどんな希望もまとめ上げて正確に手配してくれるだろう。そんな彼を頼もしく、祖国として愛しく思いながら、今週の予定の変更を告げた。
「今週は、日本の家に行くって決めたんだぞ!日本に連絡と、飛行機の手配を頼むよ!」