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マヨネーズ生卵β
マヨネーズ生卵β
novelistID. 38947
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愛し子1

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「あー、今日もいい天気ですねぇ。お茶が美味しいです。ねえ?ポチ君」
「キュワン!」

パチ、パチン、パチ、パチン、

小気味よく響く剪定バサミの音を聞きながら、日本は縁側で春の麗らかな午後を満喫していた。先代の庭師が跡継ぎにと推薦した若い庭師の仕事ぶりは、祖国の庭を任されるだけあって腕がいい。色々な贅沢を取り払い、質素に暮らす毎日の中で、唯一残した贅沢が日本庭園と庭師だった。広い日本家屋に一人。以前は女房や女中に身の回りの世話をやらせていたのだが、今は一人が気楽で良いと思う。

それに、家に使用人を雇っていては、同人活動もオチオチできませんしね。
ペラペラと吹聴して回られることもないでしょうが、やはり見られるのは気まずいですし。

色々とおおっぴろげに言えない理由もあったが、もともと人手がなくとも、この広い屋敷はなぜかそう手入れしなくとも埃が積もることも古びることもない。電球さえ、何十年にいっぺんも切れない。更に不思議なことに、日本に危害を与えようとして侵入する輩はことごとくボロボロの姿で庭や玄関先で発見されるのだ。「障子ばかりの部屋を永遠とさ迷った」だの「化け物に追われた」だの正気を失って喚きながら連れ去られる姿を何度か目にしている。

こんな具合だったので、何度目かの輩を護衛に引き渡した後は、屋敷に詰める警備も下がらせた。

ここ、何か居るんでしょうかねぇ?アーサーさんは来るたびに誰かとお話していらっしゃるようなのですが・・・まあ、いつものことですしね。『お前、すげー守られてるし、愛されてるよな』空中の何かと会話した後、アーサーさんが言った言葉の意味は分かりかねるのだけれど、屋敷の怪異が私に危害を加えることはないらしい。縁側から首だけ振り返って、誰もいない室内に礼をのべると、少しだけ空気が震えた気がした。

「さて、のんびりしてもいられませんね。なんせ今晩はアメリカさんがおみえになるのですから」

アメリカは頻繁に日本に来る。しかもほぼ唐突に。突然の訪問にもすっかり慣れてしまったので、今回も連絡がなくとも来れば何時も通りにもてなしていただろう。しかし、今回は些か勝手が違った。アメリカの秘書直々に連絡が入り、滞在の日程と到着の予定にくわえて「最近何か悩んでいることがあるようだから、話を聞いてやって欲しい」と、真剣に頼まれたのだ。仕事というよりも、親戚の子供を慈しむような声色。

「アメリカさん、本当に国民の皆さんに愛されているんですね。良いことです」

子供のように見えてプライドの高いアメリカのことだ。自分の部下がそんな頼み事をしたと知ったならば、酷く怒るだろうことは秘書も日本も分かっている。それでも頼みたいということは、何かあるのだろう。通常、国の化身が他国の秘書と直接言葉を交わすことなど無いし、秘書も他国に自国の弱みを握らせるようなことは言わない。言わないし、聞かないのだが、、、

「私とアメリカさん、もうずいぶんと長い付き合いになったものです」

何度も行方をくらます国を探し回る秘書と、行方くらまし先の日本は面識ある親しい仲となっていた。

特別、ですよ。

最後の言葉は口に出さずに立ち上がる。仕上げの終わった庭は午後の光に照らされ幻想的なまでの美しさだ。

「久しぶりにマグロの刺身でも買いましょうかね。すき焼きも悪くないですね」
マグロと聞いてニャッ!と声を上げたタマを抱き上げて家に入れてやる。
「今日はどうやら、これから天気が荒れそうなんですよ。タマも家で大人しくしていましょうね」
腕の中で大人しくしている半野良の愛猫はマグロの刺身を出すと「ウマイナー」と喋り出す程のマグロ好き。
「アメリカさんの分と、多めにマグロを買ってきてあげますからね」
「ウニャッ」既にヨダレが垂れている。何この猫可愛い。

ハッ。萌えてる場合じゃありません。早めに買い物を済ませないと。庭師は、なにやら今は晴れているが夕方から天気が崩れるらしいので、また後日様子を見に来ると言って帰っていった。

なんだろう、何か、不安のようなものが・・・。

「いや、気にする程ではないのかも知れません。私の心配性も大概にしなければ。本当に危険ならば、そもそも飛行機なんか飛ばないわけですしね」

さて、幸か不幸か強大な力を持って生まれ、その力通りに世界の中心となった彼。彼の悩みを聞いてやらなければならない。お互い戦い、血を流したこともあったが、今ではすっかり腐れ縁の仲だ。もう孫のような気さえしている。そうして、たまに訪れる屈託の無い青年の笑顔が、時折無性に恋しくなる時があるのだ。

「本当は、私の方がアメリカさん、いや、アルフレッドさんの明るさを求めているのかも知れません」

今耳が熱いのは、20年程続いている微熱のせいか、それとも別の熱なのか、日本は気付かなかったことにした。太陽のような青年が、何かを悩んでいるらしい。おそらく「痛み」のことだろうと思うけれど、聞かなければわからない。

「ですが本当に痛みについて尋ねられたならば、私はどう答えてやればいいのでしょうか」

当たり前のことだから受け入れろと、簡単に切り捨てて良いのでしょうか。
この役目は私ではなく、本来ならイギリスさんの方が良かったのかも知れません。
しかしアメリカは、育ての兄ではなくではなく東洋の同盟国を相談役に選んだのだ。

「とりあえず、落ち込みには食べ物が一番です。マグロですか、マグロですかね。それに和牛の霜降りに赤身はキロ単位です。ああ、アイスクリームを忘れるところでした。出費はどちらの国家に付けるのでしたっけ?とりあえず領収書さえもらっていれば後はどうとでもなりますか」

無理やりに明るく取り繕って、割烹着を着込む。出迎えるまでにあと数時間もない。やることは山のようにあった。
大丈夫ですよね。話してしまえば、アメリカさんのことですからすぐに自分で解決されるでしょう。

ね?

作品名:愛し子1 作家名:マヨネーズ生卵β