二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
マヨネーズ生卵β
マヨネーズ生卵β
novelistID. 38947
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

愛し子1

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 


『おい!何があったんだよ、アメリカ!戻れ!!戻れって!!!!』

とたんにイギリス自身の過去がフィルムを滅茶苦茶に引っ張り出したように溢れる。
何もない痩せた土地に生まれ、どんよりとした気候の中で育った。食べ物も満足になく、兄弟達からは見つかる度に石を投げられ矢を放たれた。生きるために、それだけを考えていた幼い頃、みすぼらしい汚れきった服に、ゴワゴワとした髪の毛。傷だらけの手足。緑色の目だけが爛々と輝いていた。たった一つの救いは、生まれつき与えられた見えないものを見る力。妖精達だけが優しく俺を育ててくれた。

『アーサー、大丈夫?』
『アーサー、私の葉は傷に効くから使って』
『アーサー、あっちに湧き水がある。飲める水だよ』

気に食わない髭と競い合って得た、幼く愛らしい弟をこんな目に合わせたくは無かった。俺が立派に一人前にして、一緒に世界に立ちたかった。すでに地方担当となって口もきかない赤毛の兄や、俺を見ようとせず、顔を合わせようとしない他の兄弟達とは違う、本当の兄弟が欲しかった。年の離れた弟は、息子のようでもあった。

なのに、なのに、弟は行ってしまった。

ああそうか、これは俺の痛みだ。しばらく忘れていた、忘れようと努力して忘れた、俺の痛みだったんだ。

「・・・とんだ夢だな。糞ったれ。」

唐突に夢が途切れて目が覚めた。なにか、夢を見たというよりも見せられたような感じもするが、こみ上げる不快感と苛立ちと吐き気で違和感を探る余裕もなかった。喉が枯れているのは、現実にもアメリカを呼び続けていたのだろう。
仕事が長引いて昔から使っているアパートに泊まっていたから、異変に気づいて駆けつける使用人もいない。アンティークに囲まれたセピア色の寝室。古びた時計は午前6時をさしているが、ロンドンは今日も雨、だ。
霧のように細い雨の間から、かすかに朝の気配がする。起きてしまうには早いが、シーツはぐっしょりと濡れ、二度寝する気にもなれなかった。リネンは別宅の管理を任せた通いのハウスキーパーが変えるだろう。

なぜだか、背骨からソワソワと落ち着かない。嫌な夢を見た。いつもなら一言で済ませられるはずなのに、嫌な予感が拭えない。

「考えても仕方ない。紅茶でも淹れるか」

ベッドから出ようとした瞬間、

ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、

古い電話機が鳴った。

ああ、どうしてこんなに絶望しているのだろう。まるで、その知らせの内容なんて、とっくに知っているように。受話器を取るのが怖かった。この部屋にあるアンティークの電話と電話番号は、限られた国と人しか知らない。ずいぶん前に作ってから、そのままにしておいた代物だ。現在、この電話機の存在と番号を知る人は皆無で、知っている国も日本ただ一人。実質、日本とイギリスだけの忘れ去られた直通電話。

ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、

ベルの音は止まない。何を言われるのか、心の奥底ではすでに理解しているのかも知れない。不思議と頭の芯は妙に冷えていた。

「どうした?日本」受話器を持つ手と声が震える。
『え?あ、どうして私だと?あ、いやそれどころではないんです。イギリスさん。大変なんです。でもこのことはまだ、』
「内密に進めなければいけないんだろう?俺への直通電話でありながら、とっくに忘れ去られちまって盗聴の心配さえない骨董品にかける位だからな」
『ええ、後でイギリスさんにも私から連絡があったと報告が来るでしょう。いらっしゃる所を聞きましたので、失礼ながらこちらへ』
「で、どうしたんだ?」
『あ、あの、アメリカさんが、その』
「要領よくはっきり話せよ。俺も暇じゃねぇんだ」
『はい。すみません。あの、アメリカさんが私の家に来る途中、飛行機の事故に遭い』
「・・・死んだのか?」
『いえ、まだわかっていません。はっきりしていないんです。奇跡的に死者も無かったくらいです。ただ、あの、アメリカさんが居なくなってしまったんです』
日本の切羽詰った声が遠くに聞こえる。目眩と頭痛が止まらない。

『アメリカさんが消えたんです』
作品名:愛し子1 作家名:マヨネーズ生卵β