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マヨネーズ生卵β
マヨネーズ生卵β
novelistID. 38947
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愛し子2

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「んで、秘書の話をまとめると、アメリカは一人でファーストクラスにいて、SPと秘書はほど近いビジネスクラスにいた。もう少しで到着のアナウンスが入った後、急に飛行機が揺れだして急降下。あわや海へ!というところで、気がついたら空港の滑走路の上にいた。で間違いはないのか?」
『そのようです。彼の話では、酷い衝撃がした後はもう、空港の滑走路の上だったということでした』
受話器越しの菊の声が震えているのは、なにも電話機が骨董品だからってだけではない。まだ事故から1日も経っていないし、自分の家で起こった事故の上にアメリカまで消えたんじゃ動揺は仕方ないだろう。しかし、事故の内容がおかしい。辻褄の合わない状況がいくつかある。
「管制はどう報告しているんだ?」
『ひどい風で着陸の機会を待っている途中、飛行機からの通信が数秒途絶えた。直後に滑走路から衝撃音がしたので見ると、既にもう飛行機が滑走路に胴体着陸した後だったと』
「おかしいな。着陸の指示も、事前に異常の連絡も入れていない飛行機が、いきなり空港に胴体着陸すると思うか?」
おまけに機長の証言も、管制の証言もどちらも、気がついたら滑走路の上だったという。胴体着陸するまでの経緯が記憶・記録されておらず、まるで飛行機が降って湧いたかのような話で、かなり特殊なことが起こったとしか思えない。しかもおそらくソッチ系。俺の得意分野であるところのソッチだろう。

「なあ、菊。お前ん家、空港をバミューダ海域にでも作っちまったのか?」
考えられるのは自然発生した異空間辺りだが。
『すみません。その冗談はちょっと、いくらなんでも』
まあ、そりゃねえよな。出来て何十年の空港に今更異変などあるはずもない。
「ああ、わりぃ。つまりそれくらい有り得ないって言いたかったんだ。しかし、どうしてアメリカが消えたと断言できる?ヒーロー大活躍で浮かれちまって、救出した乗客とどっかの病院にいるんじゃないのかよ」
『アメリカさんは今回、GPS付きのタグネックレスを付けられていたんです。災害時速やかに位置確認を行って対処できるよう用意されたものだったのですが、こちらの記録も飛行機の中で止まっていてGPSごと忽然と消えたとしか把握しようがないと』

妙だ。何か、得体の知れない影が足元からゾクゾクとはい上がって来るような寒気を感じる。
国家が衰える前に“国”が消えたことも、飛行機が謎の墜落をしたことも、何もかもがおかしいことだらけだ。日本は確かに妖怪がいたりする側面もあるが、首都空港のど真ん中に異空間が出現するほど不思議国家ではない。もっととじっくり時間をかけて調べたほうが良いのだろうが、アメリカの不在が長引けば長引く程、世界の危機も近づく。なんせ今、俺の周りでは国の風邪が大蔓延中で、世界のちょっとした動きで病を再発させて寝込む程だ。アメリカの不在がこちらの国を倒せば、更にその影響は世界に及ぶだろう。

「一つだけ断言出来るとすれば、アメリカが消えたのは国の寿命ではないってことだな。俺らは消える時、人に与えられた物は全て残していくだろ?GPSと一緒に消えるなんて芸当出来るはずがない」
『私も、奇妙だと思ったんです。生まれながら与えられた服でなければ、服だって着たままの格好で残っているはずです。服も靴も着ていた物は何一つ残っていないらしいんですよ』

人が去る時、何一つこの世の物は持ってゆけないように、国もまたしかり。その法則が狂っている。肉体を持ったまま、あの世に行ったようなものだ。

「とにかく、電話じゃ埒があかないな。アメリカの休暇期間は1週間切ってるだろ?少なくともその間には何らかの目星を付けないといけないし、出来ればカタもつけたい」
『私に、出来るでしょうか』
「菊はなんの為に俺に電話をした?協力すると言っただろ。別に菊の為だけってことはねぇよ。俺のためだ。俺は今年、家でオリンピックも控えているし、最近の経済危機には辟易してる。余計な問題はとっとと片付けたいんだよ。俺もそっちに行く手配を今から取る。早けりゃ明日には着くだろう。とにかく現場に行ってみないことにはどうしようもない」
どういう事象が起こったにせよ“見”ないことには始まらない。
「あとは、これから俺も菊も国じゃなく、個人として活動するし個人の名前でやり取りしよう。アメリカもアルフレッドだ。アメリカ(米国)が消えたなんて人に聞かれちゃ大事だろ。菊はアルフレッドの友人。俺はアルフレッドの親族だ。それから、100年近く放ったらかしにしてたもんだが一応コイツはまだ俺の番号なんだ。使用した形跡を嗅ぎつけてどこぞの国が盗聴仕掛けるとも限らない。あとの話は日本に着いてからだな。それまで、寝て待ってろよ。どうせ寝てないんだろ?」

別れを告げることなく受話器を置くと、数十年振りに役割を果たした電話機が軽くチンと音を立てた。
今からしなければならないことは山のようにあるが・・・

とりあえずはコイツだ。

『「それまで、寝て待ってろよ。どうせ寝てないんだろ?」だってぇ?ずいぶんと紳士だなぁ。イギリス』
「うるせぇ。黙らねえと口にスコーンぶち込むぞ」
『お〜。怖い怖い』
背後に突如生じた気配の影から、明らかに小馬鹿にしたような言葉が漏れるように聞こえてくる。
「こっちはあれやこれや忙しいんだよ。下で待ってろ」
キッチリ始末してやるからな。
作品名:愛し子2 作家名:マヨネーズ生卵β