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東方~宝涙仙~ 其の壱六(16)

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東方宝涙仙


「ごめんね、チルちゃん」



ー紅魔館・廊下ー
 動くと弾が確実に当たるように細工を仕組まれたチルノとルーミアは動けなかった。
「そこのハロウィン、この明かりを全て消せ」
「ハロウィンて…私の事ですか?」
「そうだ、お前だ」
 指名されたのはかぼちゃんだった。
暗い空間での戦闘を主体とするネペルにとって今の明かりは鬱陶しいらしい。別に明かりが苦手というわけではないのだが。
「消せません!」
「消せない?」
「これは私の心身ダメージと連動してますので好きに消せたりはしないんです」
 かぼちゃんの説明に対して最初に反応したのはルーミアだった。
「ちょっ、かぼちゃんそれ言っていいのか!?」
「え?」
「そんな事言ったら…!」
「そうかそうか、この光はお前の心身ダメージと連動してるのか。なら…」
 ルーミアの前にいたネペルは一瞬にしてかぼちゃんの背後を取った。かぼちゃんはそれに反応できるわけがない。しかし大ちゃんがかろうじて反応できた。
「かぼちゃん、後ろ!」
「痛恨の一撃で倒すまでだな」
 ネペルは刀の柄の部分でかぼちゃんの背中を突いた。
「ぐうっ」
 突然の痛みに驚きをみせるかぼちゃん。背中を突かれ何もできずに体を反らせるかぼちゃんの後頭部の髪を毟るように間髪入れずに掴むネペル。
そのまま掴んだ後頭部の顔面を床に叩き付ける。
「あうっ!」
 超スピードの中で何が起こっているか把握できていないかぼちゃんは何も反撃に出れない。やられるがままにされるしかない状態だ。
廊下の壁で光る弾は徐々にその光を薄めてゆく。
「本当に連動してるようだな」
「や、やめろぉぉ…」
「ふふん、ここでやめると思うな。まだまだ続くぞ」
 顔面を床に押し付けたままネペルは走りだした。かぼちゃんが受け身の態勢に入ろうとしている為に顔面全体のダメージは防がれてはいるものの、横顔が完全に床に擦れている。
ただし不幸中の幸い、さすがは紅魔館。床は紅い絨毯でできているためダメージはそう高くはない。それでも摩擦によるダメージは蓄積されつつある。
 引きずるのをやめ、次は壁に張り付いた光の弾にかぼちゃんを押し開けた。
「うあぁぁぁ!!」
 光の弾と言っても一応弾幕の弾であることに変わりはない。当たった部分が火傷する程度の攻撃力はほこる。
「己が弾に苦しめ!」
 ガンガンとかぼちゃんを壁にぶつけたり放したりを繰り返すネペル。弾の光はさらに弱くなり、廊下が薄暗くなり始める。
「かぼちゃんを放してぇぇ!!」
 大ちゃんがネペルに向かって弾幕を放つ。大ちゃんの弾幕はとても弾幕とは言えないが、弾が廊下全体に広がる為ネペルはかぼちゃんを開放し攻撃を止め避けに徹した。
「緑の妖精、次はお前か…。お前は確か大妖精だな。森でよく見かけるぞ」
「こ、怖くなんかないですからね!相手します!」
「度胸だけはビッグサイズか、大妖精だけに」
 少し洒落を言うとネペルは刀の剣先を水平より少し下げた構え方で構えた。
「下段の構えと言ってな。防御にも攻撃にも向かないように見えるだろう」
「そんな構え方、腰から上ががら空きじゃないですか!」
 大ちゃんは相手の上半身を狙い銀色のナイフのような弾を大量に飛ばした。自機狙いの弾。相手が動けば動いた先に弾が飛ぶ仕組みになっている。
「下段の使い方を見せてやろう、大妖精」
 右手を柄から離し、下に向けていた剣先を一気に上に向けて大ちゃんの喉元を目がけて飛び込む。剣先に触れた弾もを真っ二つに両断し突きを出す。
 『諸手突き』
  わが身を捨て、相手の攻撃を確実に裁ける事にかけて放つ突き。 
 刀同士でこの技を繰り出すと確実に相手の喉を正確に目がけれていたほうが勝つのだが、今回の相手は下級ランクの弾の集まり。
裁かずに弾ごと両断してしまえば絶対に相手の喉へ届く。そして今回も、見事に大ちゃんの喉へと刀は伸びた。
「そ…そん…な……」
 刀の剣先が自分の喉に向かってくるのをスローモーションで感じた。諦めと絶望に満ちる。

 ………ごめんね、みんな。
  ………ごめんね、チルちゃん……。勝てなくて…。

「大ちゃんに……」
 刀が大ちゃんの喉へ飛ぶ中、離れたところで氷のように冷たく透き通る声が鳴った。
「大ちゃんに…刀を向けるなぁぁぁぁぁ!!!!」
 目に涙をにじませたチルノが冷気をビーム状に放っている。
「キサマッ!!」
 氷のビームは刀を直撃し、チルノの手から、刀を覆うまで、さらにその先の壁までを氷でを一直線状に凍りつかせた。完全に凍りついた刀は大ちゃんに届く寸前で止まった。
「大ちゃんを傷つけるな…。大ちゃんに手をだすな……。大ちゃんに怪我させたら、アタイがお前を殺してやる…」
 にじんでいた涙が零れ落ちる。そして氷は一瞬にして儚く割れる。さすがに刀ごと割ることには失敗したものの、なんとか大ちゃんへの一撃を避けた。
「よく邪魔できたものだ。そこは褒めてやろう。ただ、動くと弾を飛ばす約束だったな。氷妖精、闇妖怪」
 チルノとルーミアの側にあった白い線がバラバラに散らばり弾となった。チルノはすでに白い線の横にはいなかったが、ルーミアは白い線に囲まれていた為逃げれていなかった。
「闇妖怪にしか当たらんか、まあいい」
「南壁『ネパーレル・ローツェ』…」
 ルーミアの周りに薄い結界が張られた。
「ありがとうかぼちゃん!」
 覚えているだろうか、かぼちゃんがレミリアと戦った時に発動したあの結界を_
白い弾は薄い結界にあっさりと阻まれた。
「ハロウィンキサマまたしても…」
「ルーミアちゃん…この傷に2つのスペル使用は体に負担が…かかる…から……」
 廊下の光は着実に消えかけていく。壁に光の弾が着いている間はスペルカードを使用しているという判定になるらしく、かぼちゃんにも限界が近づいてきていた。


 やがて光は消え、元の廊下に戻る。

「かぼちゃん!大丈夫なのかー!?」
「う、うん…。命に別状は…。でも結界はもう……」
「もう結界なんか張らなくていいから、大丈夫だから!かぼちゃん無理しないで!」

「大ちゃん大丈夫か!?」
「大丈夫だよ。それより…ありがとうチルちゃん」
「大ちゃんに手を出す奴はアタイ例え友達でも許さない!」

 2つのグループでそれぞれのやり取りが行われていた。4人とも命に別状はないものの、敵ネペルは暗闇に溶け込み再び絶影となった。
「お前ら4人を甘く見ていたな。殺す気はなかったがここまで絡んでしまうと後々厄介だ。殺させてもらう」
暗闇で姿を消した絶影がチルノ達に話しかけた。
「卑怯者!姿を現せろ!」
 チルノが見えない敵に向かって怒鳴る。それに応じるように暗闇に赤い残光が現れた。
「いざ」
 その合図とともに赤い残光は今までよりもはるかに速いスピードで左右に飛び跳ねる。赤い残光に加わり、先ほど同様の白い残光も残り、廊下には白の残光がスパイのアジトの赤外線レーザーのように張り巡らされた。
白い残光は躊躇うことなく弾幕へと変わり、チルノ達の方向へ飛び交った。
「ダメだ!この量はアタイのパーフェクトフリーズじゃ凍らせきれない!」
「私なんて敵の弾止めれないし…」
「ルーミアもだー…」
「私も…もう結界は……」