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 バイバ〜イ、と手を振ると、さようならと言われて少しヘコむ。
 同じ言葉を口にしているはずなのに、どうして「さようなら」のほうが寂しく感じるんだろう。
 アメリカは日本と別れるときが一番嫌いだ。楽しい時間を過ごした相手とは誰とでも別れがたいものだが、「じゃあな〜」と言って「またな」と返されれば、「あー、面白かった」と前を向いていられる。
 だけど、日本に「さようなら」とおっとり言われるとたまらない気持ちになるのだ。飛行機なんか乗らないで、もう一度日本の家に戻ろうかと思うくらい。
 空港のロビーにポツンと立っている姿がなんだか迷子みたいに見えて、和服に包んだ小さくて、きゃしゃな身体をぎゅっとしてあげたくなる。大丈夫だよ、って言ってあげたくなる。何が大丈夫なのかわからないけど。
 前に日本に聞いてみたことがある。
「なんで、さようならって言うの」
 とても不思議そうな顔をして何も言わずに首を傾げる姿が子供みたいだった。
「バイバイって言ってくれたらいいのに」
「人と別れるときは、さようならって言うものですよ」
「知ってるよ。でもバイバイのほうがいい」
 そのほうがまたすぐに会えそうな気がするから。
「そうですか? でも私は日本ですから。言葉を大切にしたいんですよ」
 そう言われてしまえばアメリカは何も言えない。自国を愛するのは当然のことだし、そうでなければいけない。日本は自分よりずっと長い間、人々を見守っている。
 いろんなことを知っていて、本当は見習わなきゃいけないこともたくさんあるのに滅多に存在感を表さないから欧州の奴らにも忘れられていたりする。それに腹を立てることもなく、淡々と付き合いをして、時々無茶なことを押し切られて貧乏クジを引く。
 いつでも日本は白いシーツみたいにさらりとしている。頑固だけど何かに執着するということがない。感情表現も苦手で喜怒哀楽の幅がびっくりするくらい狭い。
 あーあぁ、好きな人いるのかなぁ。
 アメリカの心はとっくの昔に日本に向いている。けん制も含めて特に隠していないから、欧州組はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてなりゆきを見守っている。引きこもりを得意技にしている日本には好きだと言っていないけれど、気付いていないのは日本だけだ。ここまであからさまにしても気づかないのはにぶいを通り越して不感症なのかとちょっと不安になる。気ぃ遣いのくせしてさぁ。
 日本はドイツと気が合うようで会議でも時々話をしているのを見かける。ああいう堅物が好きなのかな。でもイギリスとも笑っているところを見るとそうとばかりは言えないのかも。
 目を逸らしている事実がひとつだけある。あいつらの共通点は歴史があるってことだ。・・・・・・そんなの、俺にはどうしようもないじゃん。
 二人で並んで歩くとき、肩先で日本の黒髪が揺れているのを見るのが好きだ。
 携帯電話の着信音をアメリカが設定したままにしてくれているのも好きだ。
 ねだるとしてくれる耳かきも好きだ。
 いつも日本を見てる。
 アメリカがどんなときでもポジティブで、強引で、底抜けに明るくて、騒がしいのは事実だが、時には胸がきゅーっと苦しくなることもある。口を尖らせて、目をぎゅっとつぶって、胸を押さえながら「んーーー」と我慢するとき、いつも脳裏でキラキラはじけるのは日本の笑顔だ。
 そうすると会いたくて会いたくてたまらなくなる。ゆっくりと静かに話す日本の声を聞きたくてたまらなくなる。あのピンクの唇から出くる綺麗な言葉。でも「さようなら」って言われたくない。
 日本のことばかり考えて、日本と過ごしたことばかり思い返した日の夜は必ず日本の夢を見る。小さな指に小さな爪、黒い髪はつるつるで、ちょっとからかうだけですぐに赤くなる耳。かわいいなぁ、俺よりずーっと年上なのに。
 携帯電話を右手に持ったり、左手に持ったりする。ロックを解いて日本の番号を呼び出しては元に戻す。
 こっちが夜ならあっちは朝だ。早朝でもないから起きているはずだ。今日の味噌スープの具は何にしたのかな。大根葉のピクルスもあるのかな。
 ボタン1個で声が聞ける。そう思ってもアメリカの指はなかなか動かなかった。声を聞いたら会いたくなる。会いたくなったら止まれない。きっと一番早い飛行機に乗ってしまう。「いらっしゃるときは何日か前に教えてくださいね」と言われているのに。前もそれで怒られた、全然迫力なかったけど。
 困ったな。
「いますぐ会いたいときはどうすればいいんだろう」
 やりたいようにやってきて、人の評価なんかこれっぽっちも気にしたことのないアメリカも日本に嫌われるのは耐え難い。今までではありえないくらいくだらないことで悩む。
「会いたい会いたい会いたいよー、っと」
 ごまかすようにわざと軽く言ってみたけど、口にしたらますます会いたくなってしまった。
「あぁもうっ」
 携帯を手に持っているからダメなんだ。いっそ放り投げてしまおうか、とアメリカは本気で考えた。もし壊れたとしても別にいい。今、電話できなくなればそれでいい。
 腕を振り上げたまさにその時、りんりんりん、と電話の音がする。
「えっ」
 この音! わざと流行の歌にしなかった、電子音でもない昔々の電話の着信音。アメリカは画面も見ずに電話を受ける。
「日本っ」
「わっ・・・・・・驚きました、アメリカさん。どうかなさったんですか」
 いつより少し大きな声を出した後はもう穏やかな声に戻った日本がおっとりと尋ねてきた。
「ど、どうもしないよ! 日本は? どうしたの? 何かあったの? 誰かに何か言われた?」
 両手で電話をしっかりと耳に押し付けていることにアメリカは気付かない。身体中が携帯の向こう側に集中している。
 少しの沈黙の後に、くすっ、と小さな笑い声が聞こえた。
「え?」
「アメリカさん、お元気ですか」
「え? あの、日本?」
「はい」
「何かあったんじゃないの? また誰かに無理なこと言われたとか」
 じゃなきゃ、電話なんてしてこない、日本は。いつもくだらないことで電話するのは自分。何してるのかなって思うのも、毎日寝る前におやすみって言うのも自分だけ。
「そちらは今、夜ですね」
「ん? そう9時だよ。ねぇ、やっぱり何かあったんじゃないの?」
「今日、ご近所の方にカステラをいただいたんです」
 アメリカの言葉が聞こえてないかのように日本が話を続けるのは珍しい。ますますアメリカは心配になった。言ってくれればいいのに、俺って案外頼りになるんだよ。
 でもアメリカは黙っていた。携帯を痛いほど耳にくっつけて一言も、呼吸さえも逃さないようにする。
「カステラはポルトガルさんからやってきたんですよ、ここには」
「うん、それで」
「けっこう好きなんです、カステラ」
「うん」
「今じゃ色々な種類のものがありますけど昔ながらの卵の黄身がそのままカステラになったような黄色くて素朴な味のものが好きです」
「うん。俺も好き」
 日本が何を言いたいのかわからないなりにも一生懸命相づちを打つ。
「2本もカステラをいただきまして」
「うん」
「生クリームはないんですけど」
「うん?」
「ちょこれいともないんですけど」
「うん」