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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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GO! GO! YOUNGSTER

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 そういやルフィの誕生日そろそろだなァ。
 窓枠に顎を載せエースはぐるんと目玉だけを空へ向けた。故郷では黒かった夜空はここでは凄まじいばかりの星明かりでいっそ仄白い。一際輝くいくつかの星をつないで「カラアゲ座だ!」とはしゃいでいた馬鹿な弟を思いだして、エースはうーんと唸った。
 ボディバッグから古びた手帳を取り出してばらばらとめくる。目当てのページはすぐに見つかった。しばらく眺めて、二三度めくって首を傾げてからまあいいかと放り出す。
 エースは立ち上がってクローゼットを漁りながらノキアを耳に当てた。
「───あ、マルコ? おれ明日っから一週間ほど実家帰るわ。…んん? んだよ、そんな怒るなよ。家族の一大事なんだ!」
 そう言うとエースは見えもしない相手ににかっと笑った。電話の向こうで不惑を迎えようという男がうんざりと罵声を吐いている。九割方聞き流してエースは好き勝手に喋った。
「いいだろ、今どうせ仕事ねェし。オヤジにはおれから言っとくからさ。なんかあったらサッチに振っといてよ、おれサッチに二万ほど貸しがあるんだ」
 男はどうして一月前、せめて一週間前にそれを言えないんだよいこのクソガキ、とやかましい。その癖キーボードの音がするのは予定を調整してくれているのだろう。マルコは本当におれに甘いなあとエースはくすぐったいような気持ちでむずむずと口を動かした。
「どんな家族の一大事かって? ───弟がな、」
 声を潜めてやると男の沈黙も急に重みを増す。男はエースがことのほか弟を大事にしているのをよく知っている。
 エースはショルダーのスポーツバッグに着替えとマグと十徳ナイフを放り込み、財布をベルトの間に挟むと、こなれたワークブーツに脚を突っ込んで扉に手をかけた。
「───十七歳になるんだ!」
 最後にパスポートを掴んでエースは罵詈雑言が飛び出す前に電話を切った。
 だって、こりゃあ一大事だろ!


 エースが国を飛び出してからもう三年になる。つまり弟のルフィは今、エースが旅に出た年になろうとしているのだ。エースはその頃の自分を思いだし、そこにルフィを重ねようとして失敗した。どうもあの弟が十七になるというのが想像できない。少しは大きくなったのだろうか。
 ビジネスクラスに不釣り合いなロールアップしたブラックジーンズに元はマルコのものだった洗いざらしの白シャツ、「赤貧」と書かれた正体不明のタンクトップという出で立ちで、機内食を二度もお代わりしながらエースは首を傾げた。トレードマークのテンガロンはバッグの上だ。小金は持っているから飛行機に乗るときは機内食が旨くて余りがちな航空会社のビジネスを使うことにしている。直行便でも十五時間以上かかる故郷への旅路にはそれくらいの楽しみがないとやっていられない。もっともいつでもどこでもいくらでも寝られるエースには大して関係がないのだが。
 ぼろぼろのパスポートにはあらゆる国の出入国印が押されているが、故郷のものは数えるほどしかない。一年目に何度か、二年目に一度、三年目の今年はまだゼロだ。二年目も早い時期に帰ったきりなのでもう大分長いことルフィの顔を見ていない。
 元気でやっているだろうか。エースが旅立った時、ルフィは十四だった。そりゃあもう、問題ばかり抱えた十四歳だった。問題の山に埋もれて癇癪を起こした甘ったれだった。そんなだったから、とうとうエースが故郷に我慢しきれなくなって飛び出そうとした時も、一緒に来るかと誘ったのだ。エースの出奔はどうしようもない衝動に突き動かされてのことだったが、そうなるまでに弟を思って散々我慢を重ねていた。そして十七まで粘ったがある秋の日とうとう限界が見えたので、エースはいっそこの甘ったれも一緒に連れて行こうと思い手を差し出した。ところがエースが国を出ると聞いて散々駄々をこねた弟は、口をへの字にして首を振った。そして言ったものだ。エースが十七まで頑張ったから、おれも十七まで頑張ると。エースは誇らしい気持ちと心配な気持ちを半々持ってLCLに飛び乗った。
 以来三年、聞いたこともなかった国の片隅で、エースはエースの生活をなんとか築き上げている。
 ルフィもそうできているといい、とエースは四分目も埋まらない腹を撫でて目を閉じた。


 
「エースだ…」
 大きな口がぱかんと開いた。よくぞそこまで開くもんだとエースは己も仕事仲間に同じ感想を抱かれていることも知らずに感心する。よう、と片手を上げて笑ってやるとルフィはようやく我に帰って満面に笑みを浮かべた。
「エーーーーーースーーーーーぅぅぅぅ!!!」
 弾丸のように飛んできた弟をがっちりキャッチしてエースはげらげら笑った。予想通り過ぎる。突き倒す勢いでエースの肩に懐くルフィはぐりぐりと額を擦り付けながらエースの名前以外忘れてしまったようにひたすら兄の名を呼び、こちらもげらげら笑っている。
 久々に帰ってきた故郷の空気は薄かった。あの国が濃すぎるのかもしれない。無駄に立派な長屋門の前で隙間無くハグしながら兄弟は肩を叩き合って再会を喜んだ。
「どうしたんだエース! ここんとこちっとも帰ってこないからおれつまらなかったぞ!」
 ようやく顔を離したルフィが両手両足でエースにしがみついたまま膨れっ面をした。エースは十七になろうとするのに子供のようにべったり張りつく弟を邪険にするでもなく、よいしょと尻の下に手を入れて抱えながら苦笑した。
「おれァこれでも忙しいんだ。元気にしてたか?」
「おう!」
 ししし、とルフィが笑う。それがなによりだとエースは安堵した。ルフィは嘘をつけない。笑って元気だったというなら本当に元気だったのだろう。
 ルフィを抱えたまま純和風の門をくぐる。庭に入ると緑の匂いが濃くなった。あちらにはない、五月のこの国の匂いだ。ルフィはぴょんと飛び降りるとズボンのポケットに手を突っ込んでまた笑った。
「ルフィ、ジジイはどうした?」
「じーちゃんはまだ海だ! あと三ヶ月は帰ってこねェ。飯はダダンで、時々マキノだ。良かったなエース、今日はマキノの日だぞ!」
 アタリだと満足そうに言う。エースとルフィの保護者であるガープは海兵で、どんな手を使ったのだかいい加減洒落にならない歳になってもいまだ軍艦に乗っている。年の四分の三は海の上で過ごしており、兄弟は賄いババアのダダンと姉代わりと母親代わりの間ぐらいに位置するマキノ、それから時折顔を出すガープの知人シャンクスに育てられたようなものだ。
 制服のスラックスを適当に折り上げ、ワイシャツの代わりに鮮やかなオレンジのTシャツを着たルフィは、ブレザーを肩に引っ掛けてひょいひょいと石畳を跳ねていく。エースはその後をのんびり追いながらジジイはまたいねえのかとホッとしたような苦々しいような気持ちでひとりごちた。
「そんでエース、どうしたんだ? ようやく帰って来る気になったか?!」
「冗談じゃねえ。ちょっとしたイベントがあるんでまァ里帰りだ」
 ちぇーと口を尖らせたルフィがすぐに首を傾げる。
「イベント?」
「おう。五月五日な」
「…んん? 柏餅食いに帰ってきたのか?」
 そりゃエースの国には柏餅はねェよなァ。
 本気で不思議がるルフィにエースはにやりと笑った。
作品名:GO! GO! YOUNGSTER 作家名:たかむらかずとし