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たかむらかずとし
たかむらかずとし
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GO! GO! YOUNGSTER

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「まあ柏餅も食いてえが、十七歳おめでとう、不肖の弟」
「…おお!」
 ルフィがぱっと顔を輝かせた。ありがとう! と満面の笑みで答え、駆け戻ってきてまたエースに抱きつく。
「そーか! エース、おれの誕生日祝いに帰ってきてくれたのか!」
「そうだそうだ、喜べルフィ!」
「おう! 喜ぶ! おーれーはーうーれーしーいーぞー!!」
「アホ、声がでけェ!」
 げらげら笑いながら兄弟はまた犬っころのように転げ回った。


 マキノの作った飯は旨かった。エースもルフィも味のはっきりした、要するに味の濃いものが好物だしそれ以上に腹持ちのいいものを好むのだが、さすがに十年近く兄弟の腹の面倒を見つづけたうちの一人はその辺りをきっちり把握している。最後に残った豚カツ一切れを賭けて真剣にじゃんけんを繰り広げた後、二人は居間代わりに使っている十畳ほどの部屋の畳の上にテレビを付けたまま寝転がった。
 一切れ余計に豚カツを食べたルフィが腹を撫でながら言う。
「エース、いつまでいられんだ?」
「一週間くらいかな。まあ後のことは優秀なおっさんに任せてきたから心配はねェし、もっといてもいいけど。多分一週間であのおっさんキレるんじゃねえかと思うんだよなあ」
「おっさん? どんなおっさんだ?」
「バナナとパイナップルの間の子で、多分前世は鳥だ」
 するとルフィはあっひゃっひゃっひゃっひゃと畳をばふばふ叩いて笑った。
「なんだそれ!」
「まァ見りゃ分かる。そのうちおれの国にも来いよ、ルフィ。お前もきっと気に入る。いっそうちに就職すりゃいいんだお前も」
 エースは半ば以上本気でそう言った。ルフィはしかしむーっと口を尖らせごろりと寝返りを打ってエースを見つめた。
「おれなァ、エース…。十七になるまで頑張るって言ったろ?」
「ああ、言った」
 だからエースは弟が十七になる今年、帰ってきたのだ。ルフィが律儀に十七まで頑張って、それでやっぱり限界だというなら、無理にでもあちらへ連れて帰ろうと思って。だがルフィは首を振った。
「おれな、十七になったからもういいかって思う気もするんだ」
「じゃあ来るか?」
「でも、こっちでやりたいことがあるような気もする。…と思う気分だ」
「曖昧だなァ」
「だってわっかんね!」
 ルフィはぶすくれてまた口を尖らせた。エースはその黒い頭を撫でてやりながら、ルフィの葛藤を思った。ルフィにはこの国はどうしたって合わないだろう、エースと同じで。そんなことはもう十年も前から薄々分かっていた。それでもエースが十七まで頑張ったから自分も頑張ると言った弟の決意をエースは無駄にしたくなかった。だからきっとルフィが辛いだろうと分かっていてこの国に残して旅立った。だが今、ルフィはもうここに居たくないとは言わなかった。エースも居ないこの国に。ルフィは何かを見つけたのだろうか。そうなのかもしれない。本人にも分かっていないようだが。
 そういうものが見つかったならいい。エースがそれを地球の反対側で見つけたように、ルフィもしっかりと手に入れたらいい。そうすれば場所がどこであっても、ルフィはきっと幸せに生きられる。
 エースは最後にぽんぽんとルフィの頭を軽く叩いてにかっと笑った。
「よし、じゃあまァ明日はやりたいこと探しに兄ちゃんのおごりで遊びにいくか」
「ほんとか?! やった!」
 ルフィは寝転がったまま万歳をして喜んだ。
 兄弟はそのままテレビも電灯も消さずに居間で眠った。子供の頃のようだとエースは夜中にこっそり笑い、腹を出して眠るルフィにケットを持ってきてやった。
「おやすみ、ルフィ」
 弟はむにゃむにゃと何事か呟き、「エースにく…」とどうとっていいのかわからない言葉を吐いてそれきりまた動かなくなった。エースは今度こそ声を立てて笑い、その横に自分も寝転がると、昼過ぎまでぐっすり眠った。


 翌日はよく晴れていた。エースは眠っているルフィを蹴飛ばしながら雨戸を開け家中の布団を干した。ルフィは当然サボっていただろうし、さすがにマキノはそんなところまで面倒は見てくれない。ダダンはがさつなババアなので当然自分から干してくれたりはしない。布団は汗をたっぷり吸って重かった。
 ついでに洗濯をすませルフィと自分のために大量の朝食兼昼食を用意してからルフィを起こした。蹴飛ばされても起きなかったルフィは飯だぞと声をかけると面白いほどぱちっと目を開けた。
 皿一杯のスクランブルエッグとトマトを三つずつ、白飯と丼の味噌汁という豪快な食事をがつがつ平らげながら二人は今日の算段をした。
「お前学校は?」
「ねえ! つーか今日土曜日だぞエース。一日と二日は行かなきゃなんねえけどみんなサボるだろーなー」
 ししし、と笑う。そういやそうかとエースは「君も海軍に入らないか!」とオッサンの笑うカレンダーを見ながら考えた。どうもあの国にいると曜日の感覚が鈍くなって困る。
「ルフィ、どっか行きたい所あるか」
「お! エースが連れてってくれるんだよな! 楽しみだなー、どこがいいかなー」
 ルフィは飯を食う手は全く止めなかったが眉間に皺を寄せて真剣に考え始めた。
「ゲーセンとかカラオケじゃいつも通りだしなあ。映画も面白いの今やってねェし」
「海軍ものやってなかったか?」
「おれあれもうウソップと見ちまった」
 おんもしろかったぞー、よく分かんねェ話だったけど寝る暇なかった!とルフィはまた笑う。エースは飯をかき込みながら動物園、水族館(ルフィは水族館がことのほか好きだ)、遊園地、繁華街で買い物、複合運動施設と次々あげていったがルフィはいまいち納得がいかない様子だった。とうとうお互い数度ずつお代わりをした白飯が底をついたので、エースはひとまず提案した。
「とりあえず散歩行くか」
「…そーだな!」
 単純な弟で良かった。歩いてるうちになんか思いつくだろ、と楽しげなルフィを見てエースは苦笑した。苦笑という不思議な笑い方もあの国で習ったものだ。ルフィも大人になったらいつか覚えるのだろうか。こいつはいつまでたってもこんな姑息な笑い方は覚えない気がするなと早速着替えに走っていくルフィを眺めながらエースは思った。
作品名:GO! GO! YOUNGSTER 作家名:たかむらかずとし