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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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GO! GO! YOUNGSTER

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 その日は結局どんちゃん騒ぎになった。なんだかよく分からないが感極まって泣き出したヨサクとジョニーを始めとするギャラリーが発端だ。ゾロの父親はやれやれと言った顔をしてほどほどにしろと言い置き屋敷の奥へ引っ込んで行った。未だルフィに抱きつかれたままのゾロはなんともいえない顔をしてその後ろ姿を見送った。
 宴会は深夜まで続き、ルフィとエースはすっかり元鷹の目組の面々と打ち解けた。最初は渋い顔をしていたゾロもそのうち腹の底から笑っていた。エースはじゃれる二人を見て満足げに笑った。
 そのうちにルフィが撃沈し、ゾロも前後不覚に陥り始めた様子だった。エースが用を足しに宴会場となっていた道場を出ると、そこにゾロの父親──ミホークが立っていた。
「あ、どうもこんばんわ」
 礼儀正しく一礼するとミホークは黙礼を返し、しばし逡巡して口を開いた。
「どこかで見たことがあると思ったが───貴様は白ひげのところの者か」
 エースは苦笑して頷いた。
 『白ひげ』はあの国を有する大陸で最も大きな勢力を誇る、世界でも五本の指に入ろうというマフィアの一団だった。オヤジと慕われるエドワード・ニューゲート、通称『白ひげ』をトップに、直参十六隊と傘下の大小無数の組織があの大陸をほぼ縄張りとしている。
 エースはその一員だった。
「バレるとは思ってたよ。確か正月にちらっと会ってるよな。オヤジの宴会にあんたも来てたろう。…そうだよ。おれは白ひげのオヤジのところで二番隊隊長をやってる、ポートガス・D・エースってもんだ」
「なるほどな」
 ミホークは納得したように頷いた。
「ロジャーの息子が白ひげの隊長か。それもまた一興」
「あー、それより悪かったな。おたくの息子を厄介事に引き込んじまって。あんた、ゾロをこっちの世界に足を突っ込ませる気はなかったんだろ? そうなると決まったわけじゃないとはいえ、うちの弟が悪いことした」
「いや」
 ミホークは首を振った。
「あれが選ぶならばそれでいい。あれはこの世界の方が向いているのは分かっていた。───それに、お前の弟はいい男だ」
 エースはぱっと笑った。
「そうだろう?! ───ルフィは、あいつはおれにないものを持ってる。いずれあいつはもっともっと大物になる。それが裏の世界でか、表の世界でかは分からねェが。勝手だが、兄としておれはあいつの傍にゾロにいてほしいんだ。二人とも、その方がいいんじゃねェかと思ってよ…」
 エースは道場の中でもたれ合ってがあがあいびきをかく二人を見やった。ミホークもちらとそちらに目をやり、やおら踵を返した。
「───…礼を言う、白ひげの息子とドラゴンの息子。うちの馬鹿息子を、精々鍛えてやってくれ」
「そりゃお互い様だ」
 微かに笑う気配がして、ミホークは廊下の闇の中に消えて行った。
 エースは板張りの廊下の窓から夜空を見上げた。
 ───もうそろそろ、帰ってもいい頃合いだ。



「えー?! エース、もう帰っちまうのか?!」
 いやだいやだもっといろよと言うルフィの額を抑えてエースは笑った。宴会の翌朝、兄弟はちゃっかり朝飯まで御馳走になっている。さっさと食べ終わったゾロはルフィの隣でうとうとと舟を漕いでいた。
「いたいのは山々だがなァ、ルフィ。おれもそろそろ帰らねえと仕事が山になっちまう。おっさんもキレてそうだしな」
「…ちぇー」
 また来いよ、絶対だからなとルフィが頬を膨らませる。エースはその頭をくしゃくしゃと撫でた。
 ゾロがうっすら目を開けてあんた帰るのかと言った。
「おう。おれァ普段はよその国にいるんだ。今回はこいつの誕生日を祝いに帰ってきてただけ」
「…じゃあ何か、おれはこの突拍子もねえのを一人で相手しなきゃならねえのか」
 ゾロがうんざりした顔をして言うのにエースはからから笑った。
「ま、そういうことだ! しっかりな、ゾロ!」
 ゾロは溜め息を吐くとまだ帰るなよ、もうちょっといろよとぐちぐち言うルフィの頭を乱暴に撫で回した。
「まあ、しょうがねえか…」
「よろしく!」
 エースはにぱっと笑った。
 今までいつも、ルフィを置いて帰る時には不安が後を引いていた。だが今回は大丈夫だ。二人揃って無茶苦茶をしやしないかという不安は残るが、ルフィはもう大丈夫だろう。
 ルフィはルフィの人生を、この国でしっかりと築き始めていた。



「そういやあんたの仕事聞いてなかったな」
「エースはモデルだぞ。あとマフィア」
「…はァ?!」
「だっはっはっはっは!!」



 帰りの飛行機に乗る前の電話でエースはマルコにしこたま怒鳴られた。エースが抜けた分の若者向け雑誌の穴埋めにサッチというのはやはり大分無理があったらしい。辛うじてイゾウを放り込んでなんとかしたというから戻ったらマルコの血反吐を吐くような説教とイゾウの三倍返しを覚悟しなければならない。
『で、弟の誕生日はちゃんと祝ってやれたのかよい、末っ子』
「おう、ばっちりだ!」
 エースはノキアを耳に付けたままニカッと笑った。電話の向こうでマルコが密やかに笑う。
『そりゃよかった。───さっさと帰ってこい。こっちにも、お前を待ってる家族がいるんだよい』
「…うん……」
 エースもまた、くすぐったいような気分でそっと笑った。 
 それから飛行機に乗り込んだエースは、眠りから覚める度に携帯の画像フォルダを呼び出してにやにや笑った。あの日とっさに撮った写真は思いのほかよく撮れていた。何度も消した後のあるくしゃくしゃの紙に、筆圧の濃すぎる大きな文字が踊っている。ルフィの手紙はいつだって傑作だ。それがゾロの心を動かしたのだから、これ以上のことはない。
 ルフィが書く、最初で最後のラブレターだろう。

作品名:GO! GO! YOUNGSTER 作家名:たかむらかずとし