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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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GO! GO! YOUNGSTER

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「おれは!!」
 ゾロが怒鳴りかけるのをルフィの大声が遮った。びりびりと辺りが震えるような気迫に思わずゾロが口を閉じる。
 ルフィはゾロをまっすぐに見つめたまま続ける。
「おれのじいちゃんはモンキー・D・ガープ! 海軍中将!!」
「…は?」
 ゾロが呆気にとられた顔をした。その後ろでゾロの父親が目を細める。
「そうか、あの男の…」
「親父、知って」
「そんで!!」
 ルフィは二人のやりとりなど全く頓着しなかった。
「おれの父ちゃんはモンキー・D・ドラゴン! 『革命軍』!!」
 今度はゾロにも分かったようだった。愕然と見開いた翠の目は微動だにしない。ゾロの父も僅かに動揺していた。当たり前だ。通称『革命軍』は今世界でもっとも厄介な傭兵集団として世界政府から名指して批難される、ほとんどテロリスト扱いの私軍である。卑賊盗賊の類でないとはいえ限りなくそれに近い扱いを受ける一群の、その首魁が『悪魔』ドラゴンだった。
「ドラゴンの息子か…!」
「……!!」 
 ゾロはもう言葉もない。
 ルフィは屋根の上に仁王立ちしたまま、ひたすらにゾロを見つめて言い切った。
「お前んちがヤクザだろうと! どんなにすげえ組だろうと! うちんちよりぜってェマシだ!! だからゾロ、お前はおれと友達になったっていいんだ!!」
 おれは死なねェし、メーワクだってかからねェ! そう言うルフィは晴れ晴れとした顔をしていた。まだ固まっているゾロにエースはにやにや笑って言った。
「ま、そういう訳だ、ロロノアくん。お前がヤクザんちの子供だってんならルフィはテロリストの子供だ。おまけにジジイは何十回懲戒食らったか分かんねえし、恨んでる奴なんか山ほどいる。ついでに言うとおれの生物学上の父親は第一級国家反逆罪で吊るされたゴール・D・ロジャーだ。どっちかっつーとウチの事情にそっちを巻き込む方が心配だなァおれは」
 親子はまた息を呑んだ。エースは鼻息荒くふんぞり返るルフィの隣でゾロを柔らかな視線で見つめた。
「───なァ、ロロノアくんよ。もういい加減諦めとけ。こいつはしつこいし、お前の事情ってやつも飲み込んでる。その上で、ルフィはお前を選んだんだ。あの馬鹿があんな手紙書いてまで友達になりてェって言ってるんだ。これ以上逃げてどうすんだ?」
 ゾロは一瞬、強く瞑目した。それから再び現れた翠の目は強い色をしていた。
「───…タチ悪ィなてめェらは」
「そりゃおれは『悪魔』の息子だからな!」
 ルフィはからから笑った。
「ルフィ」
「おう」
「面倒事がずっと増えるぞ」
「おう!」
「刃傷沙汰だって日常茶飯事だ」
「望むところだ!」
「───死んだら殺してやるからな」
「どーんと来い!」
 あっはっはっはっはとルフィは大いに笑う。ゾロははああと一際大きな溜め息を吐くと、いつか見せた腹の底から悪そうな顔でにやりと笑った。


「───なってやろうじゃねェか、お前の友達とやらによ」


「…やっっっっっったァァァァァァ!!!!」
 ルフィは文字通り飛び上がって叫んだ。吹っ切れた顔をして腕を組んだゾロの後ろでゾロの父親がやれやれといった顔をしている。
「ゾロぉぉぉぉぉぉっ!!」
「はァ?!」
 ルフィが興奮のあまり四脚門の屋根から庭のゾロ目がけて飛び降りた。ゾロは呆気にとられて立ち尽くす。ルフィは遠慮も躊躇もなしに目一杯付けた勢いを殺さぬままゾロに体当たりするように抱きついた。
「ってェな何すんだてめェ!!」
「ゾロゾロゾロゾロゾロゾロゾロ!!! うわははははゾロ!」
「…嬉しさの限界を超えちまったみたいだなァ」
 エースは全身でゾロに懐いてげらげら笑う弟を見下ろしてしみじみ呟いた。そんなところでしみじみしてねェでさっさと降りてこれをどうにかしろとゾロがエースに叫ぶ。エースは人の悪い笑みを浮かべて首を振った。
「いやァ、もうしばらくそのままでいたらどうだ? なかなか面白い絵面だぜ、ロロノアくん」
「ふざけんなてめェ! おいルフィ、てめえもいい加減にしろ! 離れろコラ気色悪ィ!」
 ルフィは全く聞いていない。エースは屋根の上に胡座をかいてげらげら笑った。
 空は青く、風は心地よい。
 祖国は平和で、弟は笑っている。
 十四の時の鬱屈を欠片も見せず、この上なく幸せそうに。
 エースは思わずぶるりと身震いをした。


「───ルフィ!!」


「なんだエース?!」
 ルフィが輝くような笑顔でエースを振り仰いだ。
 エースは両手を広げ、満面の笑みで言った。



「誕生日、おめでとう!!!」



 一瞬の後、ルフィの大音声の「ありがとう」が元鷹の目組を揺らした。

作品名:GO! GO! YOUNGSTER 作家名:たかむらかずとし