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Sun of a Preacher Man

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「好き嫌いはあるか?」
 前に顔を合わせたことのあるぐるぐる眉のコック――確か、名前はサンジ――が、キッチンから甲板に飛び出してきて言った。
「ねェ! エースは好き嫌いねえよ! おれとおんなじだ!」
「いや、お前が答えんな」
「でも、甘いものはけっこう好きなほうだ!」
 咥え煙草の口をひん曲げて怒鳴りながらも、サンジは満足げにこちらに向かってお玉を突き出してきた。
「待ってろよ。この前んときはメシ作ってやる暇もなかったからな……。今日は、その分までキッチリもてなしてやる」
 もてなしてやると言いながら、まるで喧嘩でも売っているかのような物腰だ。まあ、悪い奴ではないのだろう、それはわかる。
「いや、悪ィな。気を遣わせちまって」
「気にすんな、そいつの趣味みてえなもんだ」
 酒瓶を煽りながら、欠伸混じりに緑髪が言った。こいつの名前は知っている。ロロノア・ゾロ。ルフィの次に手配書の出たクルーだ。
「なあ、エースはあのちっこい船でいろんなとこ旅してんのか!? すげーなあ、おれもそんなふうになれるかなあ!」
 横から、なにやらキラキラした視線を向けてくる――ええと、トナカイ。7色変身面白トナカイの、チョッパーだ。俺が言うのもなんだが、海は不思議に満ちている。どうやったら毛皮に覆われた顔を紅潮させられるんだ?
「すげえ敵とか倒したのか? 怪獣とか!」
 チョッパーは、椅子の下で寸足らずの足を落ち着きなくパタパタと揺らしている。
 リクエストに応えて“新世界の少し手前の島で倒した巨大ワオキツネザルの話”をしてやると、チョッパーは感極まったと言わんばかりに歓声を上げてみせた。ここまで喜ばれると、こっちの口も滑り始める。
「で、そのサルはすげえ跳ねるんだ」
「すげえ跳ねるのか! サルすげえ! エースもすげえ!」
 トナカイの質問に答える形でいろいろと話していると、次第に他のクルーたちも甲板に集まり、会話に乗ってきた。長っ鼻のウソップ。航海士のナミ。剣士のゾロ。時々キッチンから顔を出すサンジ。もうひとりの黒髪の女は新入りで、ニコ・ロビン。
 冒険譚を話す俺とわいわいと盛り上がってきたクルーたちを見つめ、ルフィはチョッパー以上に落ち着きなく身体を揺らしながら、ニコニコと笑っている。
「エース、すっげえ!」
「だろ? エースはすっげえんだ!」
 ナルシストと、言わないでほしい。いろんな自負心だとか思い出だとかを抜きにしても、そう言ったときのルフィの顔は随分と誇らしげで、昔と何一つ変わっちゃいなかった。

「メシができたぞォ、野郎ども!」
 恐ろしいくらいの手際の良さで、サンジが全員分の食事を一気に並べた。
 いったい、この船の小さな設備でたった一人、ここまでの食事をどうやったら用意できるのか、まずそこからわからない。しかし俺以外のクルーは当たり前のように「うまほー」「キノコか……」「おれのぶん、ちょっと少ないぞ!」だとか言い合っていて、もしかして余計な賛辞は必要ないということだろうか。
「さあ、あんたも遠慮しねえで食ってくれ」
 サンジがにんまり笑いながら言ったが、実際、腹の虫は今すぐにでも全部胃の中に放り込んじまいたいと、そう訴えている。
「いただきまーす!」
 ルフィが叫んだのが、多分この船の合図なのだろう。一斉にフォークが動き始めた。もちろん、俺も力の限り口に詰め込み飲み込み皿から取る。海賊の食卓は、甲板に次ぐ戦場だ。
 麺が踊り肉が飛び、スープが弾けて酒に酔う。テーブルの上は躍動している。これぞ海賊の食卓、たった7人のくせに、賑やかさにかけては白ひげ海賊団にだって引けを取らない、かもしれない。
「んめェ〜〜〜!!!」

 サンジが何度かキッチンを往復したものの、歌えや騒げやのうちに料理はあっという間に無くなり、残っているのはまさに戦いの後の荒野、といった有様だ。もちろん、食えるものはひとつも残されていない。付けあわせの小さな野菜から魚の骨に至るまで、すっからかんになくなっている。
「じゃあ、そろそろ食後のデザートと行くか……ナミすゎんロビンちゅわん、飲み物はいつものでいいかなぁ〜!? エース、あんたはどうする」
「ん? あー、じゃあ、コーヒー貰えるか」
「了解。てめえら大人しく待ってろよ!」
「サンジ、おれ皿片付けるの手伝うぞ!」
「お、おでもー!」
「ルフィ、てめえはつまみ食い目当てだろうが! だいたいその腹じゃキッチンのドアも潜れねえだろ!」
 ぎゃんぎゃん怒鳴りながら、サンジはサーカスのピエロでもそこまでできるかという量の皿を持って、仰向けになって伸びているウソップを踏みつけながらキッチンに戻っていった。チョッパーがチョコチョコとそのあとを着いていく。
「いつもこんな調子か?」
 おおかたの予想はつきながらも、俺は隣で静かに微笑している女、ニコ・ロビンに尋ねた。案の定、ええそうよ、と返ってくる。まあ、ルフィの船っていう時点で充分な理由があるわけで、今更驚くことでもない。
「ルフィ、お前皆に迷惑掛けるんじゃねえぞ」
 最後の肉を頬張りながらルフィのほうを見れば、膨らみきったゴムの腹が月光につるりと光っている。また随分と間抜けた光景だ。風船の影から、唇を尖らせた顔がヒョイと覗く。
「なぁに言ってんだエース。おれは船長だぞ!」
「船長が一番のトラブルメイカーっていうのは、どういうことかしらね」
「まったくだ」
 ナミの言葉に全員が頷いた。だいたい、全身毬のようになった奴がゲップをしながら威張ったって、面白いだけだ。
 それにしても、笑い合うクルーたちを見ているとどうしたってしばらく会っていない仲間たちを思い出す。後悔はないが、恋しさはある、当たり前だ。

「野郎ども! デザートだぜ」
「野郎どもー!」
 空を見上げて、月と星がゆらゆらしはじめてきた、ちょうどそのときだった。威勢よく響いた扉を蹴り開ける音に目が覚め、月明かりを眩しく感じる。
「すっげえ、サンジそれ、なんだ!?」
 全員が全員苦しいくらい腹いっぱい食って、ウソップなんて食いすぎで倒れていたくらいなのに、それを見て目を輝かせない者はなかった。月光の光を閉じ込め不敵に艶めく、色とりどりの小さな球体。
「すげえんだこれ、甘くてうめえんだ!」
 手伝いのご褒美に一足早く口に放り込んでもらったのだろう。小さな頬をぷっくりと膨らませながら、チョッパーが嬉しそうに「エッエッ」と笑った。
「これ確か、アラバスタの」
「さすがナミさん! うん、テラコッタさんにレシピ貰ったやつ。飴玉をちょっと複雑にしたような、そんな菓子さ」
「すげえ! 早く食いてぇ〜」
「てめえは宴で散々食ってたろうが!」
 サンジが皿を置いたと同時、四方から伸びた手が各々小さな玉を摘み上げて、自分の口に放り込んだ。今日はじめて訪れた完全な沈黙は、口の中で飴玉を味わっていたせいだ。
「おいしい! ……ねえ、ロビンはこれ、食べたことある?」
「そうね、アラバスタだと結構有名なお菓子だったから。でも、こんなにカラフルだったかしら?」
「恐れながら、ロビンちゃん。色を付けたのはおれのオリジナルです。色ごとに味も違うんですよ」
「そうなの? 私のはリンゴの味がするわ」
作品名:Sun of a Preacher Man 作家名:ちよ子