だいすき!
「……いいもクソも、おれだってあいつらには誠実でありてえよ。当たり前だ。当たり前だろ」
サンジは顔を上げなかった。けれど、うう、と押し殺したような泣き声が聞こえたから、ゾロはその大きな手を、ポン、と夜風に揺れる金髪に被せた。
*
サンジがえらく畏まった調子でデッキに出てきたとき、ルフィ以外の全員が、これから何が起ころうともそれを覚悟しておかねばなるまい、と心の中で緊張した。しかも、妙にギクシャクしているサンジの後ろから出てきたのがあの寝ぐされ剣士となれば、いよいよ緊張は高まる。ウソップは動揺を見せまいと、とりあえず固まることにした。むしろ不自然だった。
スゥ、とサンジが息を吸い込む。その顔は、血の気を失って常より白いのが更に白くなっていた。
「みんな、その、おれたち……」
「おれたち、付き合ってんだ」
突如後ろから進み出てきて、腕組に仁王立ちというふてぶてしい態度で力強く宣言したゾロに、サンジまで含んだ全員が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。誰も何も言えなかったから少々頭のおかしい剣士は「セックスまでしてる」と言おうとしたが、途中で思い切りサンジに蹴り飛ばされて最後までは言えなかった。もっとも、セックス、まではばっちり言っていたので、誰もが彼の言わんとしたことがわかっていたのだが。
暫し顔を真っ赤にしてゾロを蹴り飛ばしたポーズのまま固まっていたサンジだったが、は、とすると、慌ててクルーたちへと向き直り、うまく回らない舌であわあわと言った。
「ご、ごめんな、気持ち悪かったら、そう思ってくれて構わねえんだ、……全然。でも、おれ、いや、おれたち、仲間に嘘はつけねえ。ごめん」
ごめん、ともう1度言って、サンジは膝を折り限界まで頭を下げた。ぎゅ、と唇を噛む。
顔の見えない仲間たちは、誰も何も言わず、ただ沈黙とゾロのうめき声だけがサニー号の甲板上に流れた。
沈黙を破ったのは――
「うおおおおおお……サンジぃ、ゾロぉ、ごめんなァ……!!! でも、ありがとォォォ!!! おれは、おれは、2人のこと、大好きだぁぁぁ!!!」
わあああああん、と、鼻水と涙で一瞬にして顔をぐちゃぐちゃに塗らした、トナカイだった。
突如自分のほうに飛び込んできたチョッパーに、サンジは驚きのあまり何も口に出すことができず、ただ腕に小さな身体を抱いてぽかんと目と口を開けっ放しにするほかない。
「あー、びっくりした……びっくりしすぎておれの中に飼ってるびっくり虫が1匹心臓発作を起こした」
フゥ、と汗を拭いながらウソップが言った。
「お前ら……いや、何も言葉にすることはねェ……! 何も言ってくれるな……!」
くう、と、フランキーは太い腕で顔を覆った。
「ヨホホホホ! お若いっていいですねえ。身も燃えるような恋! 私もそんな恋がしたい……ま、私燃える身なんて無いんですけどー!」
ヨホホホホホ! スカルジョーク!
「意外とお似合いの2人だと思うわ」
にこにこと笑いながら、ロビンが言うと、サンジはぼっと顔を赤らめた。
「お前らー! 2人だけで宴会はだめだー! おれも誘えー!」
ルフィが叫ぶと、ナミが「ばかっ」と拳一発おみまいした。
パンパン、と手をはたきながら、ナミはくるり、とサンジに振り向いて、
「……ま、いーんじゃない?」
にか、と笑った。
それが切欠だったのだろう。それまで顔を赤くしたり更に赤くしたりしていただけだったサンジが、口をぱくぱくと動かして、
「おれ……おれ……」
だいすきだー! と、その日グランドラインに、馬鹿げているけれど誰よりも幸せな響きを持った声が、遠く空まで舞い上がった。