二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

I Remember You 2 (Tiger Side)

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
I Remember You 2 (Tiger Side)


 自分のアパートに入って、鏑木虎徹はそっとため息をついた。
 自分の後ろから続いて入ってきた、バーナビー・ブルックスJrに、悟られないように、そっと。
 頭をがしがしと掻きながら、背後のバーナビーを振り返ることもせず、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、すぐさま開けてぐびりとやった。
「ほらよ」
 やっと振り返って、バーナビーにも冷えた缶ビールを差し出す。
「・・・ありがとうございます」
 バーナビーはおとなしく受け取った。
 まだ少し、目が赤い。
 泣いたのかな。泣いたんだろうな。こいつ、泣き虫だもん。
 家具が少なくなった、空っぽの部屋。引っ越し荷物はすでに出荷済みだ。
 長年住んだこの部屋を、十年あまりの時間をヒーローとして守り続けたシュテルンビルトの街を、虎徹は明日、出ていく。
 ヒーローではなくなる以上、この街にいる意味はないからだ。
 その決断に迷いはないし、間違ったとも思わない。
 だが、早計だったかな、と今は少し後悔していた。
 ごめんな、バニー。
 おまえに、そんな顔をさせちまった。

「虎徹さん、さっきはすみませんでした。・・・忘れてください」
 バーナビーが俯いたまま、静かに呟いた。
 いつもはっきりとものを言うこの男が、こんな蚊の鳴くような声で話すのは、初めて聞く気がする。
 ロフトへ続く階段に腰を下ろして、突っ立ったままのバーナビーを見る。缶ビールを握りしめたまま、呑もうともしない。
「忘れて欲しいのか?」
 こくん、とバーナビーがうなずいた。
「そっか」
 沈黙が落ちる。バーナビーは俯いたままで顔がよく見えないが、きっとまた泣きそうなんだろう。

 先ほど、帰るというバーナビーを玄関で見送ってやった。この一年とちょっと、毎日のように顔を突き合わせていたけど、これでもう、当分会うことはないのだと思いながら見送った。
 生意気で面倒くさい奴だったけど、弟が出来たみたいで可愛かったし、なにより相棒として一緒に犯人を追いかけて楽しかった。
 キング・オブ・ヒーローになった時は、潤んだ目でまっすぐ俺を見て「虎徹さんのおかげです」と言われて、嬉しかった。
 今までありがとな、バニー。
 そう言いたかったが、本当に別れになるような気がして、言えなかった。
 元気でな、と声をかけると、振り返ったバーナビーは、
 俺に突然キスをして
 そのまま何も言わず、駆け去った。
 驚いて硬直したのもつかの間、気づいた時にはバーナビーを追いかけていた。
 追いかけてどうするのか、例によって何も考えていなかった。
 とにかく、あいつを一人にしちゃダメだと思った。
 追いついた俺を、驚いて振り返ったバニー。みどりの目を見開いて、涙をためて、かわいかったなあ。
 家に連れ戻したものの、何と声をかけようかと考えあぐねていたら、バーナビーから口を開いた。
 忘れてください、か。
 ・・・忘れられるわけねえだろ。

「おまえがそう言うなら、忘れるよ。でもさ、俺は、忘れたくねえなあ」
 バーナビーが顔を上げた。
 さっきと同じように、みどりの目をおっきく見開いている。
「虎徹さん」
「俺は、お前との思い出の何一つ、忘れたくねえよ。出会った頃は生意気で、嫌なやつだったこととか、一人で親の仇を追っていて、助けてやりたいと思ったこととか、セブンマッチの時に最後は俺のこと信じてくれたとか、初めて虎徹さんて呼ばれたときにどんなに嬉しかったかとか、・・・他の連中は楓の力がないと記憶戻らなかったのに、バニーだけは自力で思い出してくれたとか。俺が死んだと思って泣いてくれたバニーがすげえ綺麗だったなあとか、さ」
 バーナビーを見ると、じっと虎徹を見つめて立ち尽くしていた。頬がすこし赤い。
 その表情が子供っぽくて、可愛らしくて、虎徹は微笑んだ。
 立ちあがって、バーナビーに歩み寄る。バーナビーは口をつぐんで虎徹を見つめたままだ。
「ごめんな、バニー。あの時は俺も能力のこととかで自分でいっぱいいっぱいで・・・一人で引退を決めたりしてさ。悪かったよ。お前を一人にすることになるって、そこまで頭が回らなかったんだ。ごめんな」
 バーナビーは、ふるふると頭を振った。その拍子に、涙がこぼれる。
 バーナビーの肩に手を添えて、そのままそっと抱きしめた。
 すこしづつ、バーナビーの震える手が虎徹の背に回される。
「こてつさん」
 二人きりでいるときだけ、たまに聞いたことのある、甘えたような声で呼ばれた。その声は震えている。
「こてつさん、ごめんなさい・・・僕、あなたが・・・好きです」
 甘い甘い、告白。バーナビーの手が、ぎゅっと虎徹にしがみついた。
 ごめんなさい、と何度もつぶやく。
 何を謝ると言うのだろう。こんなにきれいで格好よくて、実力のあるヒーローが、しがないおじさんである自分のことを好きだと言ってくれるのに。
 人に愛されることに、愛することに、慣れていない孤独なうさぎちゃん。
 謝ることなんてないんだぜ?
「おれ、あの時・・・ジャスティスタワーでさ、片手にバニーと、片手に楓を抱きしめて、すげえ幸せだった」
 あなた、死んだんじゃ・・・というバニーに、いつものように軽口で返したら、何も言わずに抱きしめられた。虎徹の首に顔をうずめ、誰にも見られないようにバーナビーが泣いて、ずっと小さな声で虎徹の名を呼んでいたのを知るのは、自分だけだ。
「死んでもおかしくない状況だったけど、俺は生きて、最高の相棒と最愛の娘、この世でいっとう大切なものを両手に抱きしめている。こんなに幸せなことってあるかと思ったよ」
 バーナビーの頬に手を添えると、虎徹に抱きついていたバーナビーの腕が緩んだ。
 白い頬を伝う涙を、親指で拭ってやる。
「俺のこと好きだって言ってくれて、ありがとな」
 伏せた瞳が、ゆっくり虎徹に向けられる。
 眼鏡の向こうのみどりの目は、涙が光を反射してキラキラとしている。
「バニーが俺に与えてくれているのと、同じものは返せないかもしれないけどさ・・・ごめんな」
 バニーがまた、ふるふると頭を振る。金髪もふるふると揺れた。
「でも、同じ意味じゃないかもしれないけど、俺もおまえが好きだぜ?」
 揺れる金髪の頭を撫でる。ふわふわした柔らかい髪だ。
「・・・僕、」
 バニーが口を開いた。声が掠れている。
「言ったら嫌われるって、思っていました。気持ち悪いって思われたら、どうしようって」
 いつも自信に満ち溢れて、堂々とした振舞いのバーナビーが、こんなおじさんに嫌われることを恐れていたとは、なんだが滑稽だな。本人は真剣なんだろうけど。
思わず笑みがこぼれた。
「嫌うわけねえだろ、大事な相棒をよ」
 確かに、虎徹はバーナビーを恋愛対象として見てはいなかったし、バーナビーの恋心にも気づいてはいなかった。だから、驚きはした。でも、嫌だとは思わなかった。
 こんなハンサムに、これだけ惚れられているなんて、まんざらでもねえって思っちゃったりしてな・・・。
 そうだ、嬉しかったんだ。ここまで一途に想ってくれていることが。
 俺が、こいつに対して抱いている感情が、恋愛かどうかは分からないけど。
作品名:I Remember You 2 (Tiger Side) 作家名:いせ