虎と青色
「へェ。今時あんだな、そんなの」
きゃいきゃいと報告してくるヨサクとジョニーを尻目に、ゾロは面倒くさげに日本刀の刃を拭った。和同一文字。物には滅多に執着しないゾロだが、これだけは大切に床の間に飾ってある。
「へえ。そりゃもう、派手に暴れまわってるってェ話で」
「その割にゃァ表立った噂を聞かねえが」
「まァ、暴れるっても奴ら、ヤクやらオンナやらにゃァ徹底して手ェ出さねェんですよ」
「ガキの喧嘩の延長みてェなもんで」
「じゃァ、そのガキの喧嘩で組のモンがボコボコにされたってわけか」
無表情のままゾロが呟くと、ひ、と2人が身を竦ませる。別に他意があったわけではなくそういうもんか、と口にしただけなのだが、ゾロの眼光は手に持つ刃よりも鋭いのだから仕方がない。
「え、ええ……ったく、ガキが本職に手ェ出しやがって」
「おもしれェじゃねえか。やられた奴はそいつが弱かっただけの話。会ってみてぇな、そのヘッドとやらに」
「お、俺らも、そこを言いたかったわけでして」
スゥ、とゾロは刀を真っ直ぐに立てた。庭から入る陽光が、直刃をぬらりと照らす。ゾロのスーツの襟に付けられた鷹目組の紋が、刃と同じくきらりと輝いた。
ゾロは、若くして県下最大の指定暴力団『七武会』の二次組織、『鷹目組』の舎弟頭を務める男だ。年齢こそ他の幹部には劣るが、腕っ節と眼光の鋭さは明らかに只者ではない。その男が「会ってみてェ」と直々に言うなれば、舎弟たちも滅法色めき立つ。
「『オールブルー』……今時カラーギャングってェのも流行らねえ話ですが、みかじめでも取れりゃうちの財政も潤うってもんで」
へへへ、と笑うヨサクを、ジョニーがおい、と諌めた。
「ケチなこと言ってんじゃねえ、ヨサク」
「へ……あっ、すんません、兄貴。つい本音が……」
「ヨサク!」
「まァ、そうがめつくなんなよ。おもしれェじゃねえか、ケツの青いガキどもがヤクザに喧嘩売るたァ……」
カチン、と音を立てて、刃は白塗りの鞘に収められた。
「うちの下に入るならそれで良し、抵抗するってんならそれもおもしれェ。俺ァ、割と子供好きなんだ」
にやりと笑うゾロに、ひぃ、と舎弟2人は背筋を凍らせた。
鷹目会の幹部会議で、数週間前、列席する強面共の顔を更に恐ろしく変えた話題がある。
組員数人が、街でたむろするカラーギャングに襲われ、病院送りにされたという話……。しかも、報復に行った者まで返り討ちにあったというのだから、ただ事ではない。各々懐中の獲物に手を掛け色めき立つ幹部たちの中で、唯一顔色を変えていなかったのが、組長であるミホークと、ゾロだった。
「そのやられた奴は今、どうしている」
静かだが確かにドスの効いた口調で、ミホークが言った。
「へえ……それが、全治半年、治ってもこの商売続けられるかどうか……」
「そうか」
表情筋をぴくりとも動かさないまま、一言そう言うとミホークは立ち上がった。
「そのガキども、いってェどうしてやろうか……」
苦々しげにそう漏らした幹部の1人に、ミホークがちらりと視線を向ける。
「指を詰めさせろ」
「それだけで済ますんで……」
「ガキどもでなく、病院で寝てる軟弱なウサギどもよ」
「え……じゃ、じゃあガキどもは」
「知らん」
そう言ったきり、ミホークはざわめく室内をものともせず、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「いってえどういうこった……」
騒ぎ立てる幹部たちの中、ゾロだけが静かに目を閉じていた。
きゃいきゃいと報告してくるヨサクとジョニーを尻目に、ゾロは面倒くさげに日本刀の刃を拭った。和同一文字。物には滅多に執着しないゾロだが、これだけは大切に床の間に飾ってある。
「へえ。そりゃもう、派手に暴れまわってるってェ話で」
「その割にゃァ表立った噂を聞かねえが」
「まァ、暴れるっても奴ら、ヤクやらオンナやらにゃァ徹底して手ェ出さねェんですよ」
「ガキの喧嘩の延長みてェなもんで」
「じゃァ、そのガキの喧嘩で組のモンがボコボコにされたってわけか」
無表情のままゾロが呟くと、ひ、と2人が身を竦ませる。別に他意があったわけではなくそういうもんか、と口にしただけなのだが、ゾロの眼光は手に持つ刃よりも鋭いのだから仕方がない。
「え、ええ……ったく、ガキが本職に手ェ出しやがって」
「おもしれェじゃねえか。やられた奴はそいつが弱かっただけの話。会ってみてぇな、そのヘッドとやらに」
「お、俺らも、そこを言いたかったわけでして」
スゥ、とゾロは刀を真っ直ぐに立てた。庭から入る陽光が、直刃をぬらりと照らす。ゾロのスーツの襟に付けられた鷹目組の紋が、刃と同じくきらりと輝いた。
ゾロは、若くして県下最大の指定暴力団『七武会』の二次組織、『鷹目組』の舎弟頭を務める男だ。年齢こそ他の幹部には劣るが、腕っ節と眼光の鋭さは明らかに只者ではない。その男が「会ってみてェ」と直々に言うなれば、舎弟たちも滅法色めき立つ。
「『オールブルー』……今時カラーギャングってェのも流行らねえ話ですが、みかじめでも取れりゃうちの財政も潤うってもんで」
へへへ、と笑うヨサクを、ジョニーがおい、と諌めた。
「ケチなこと言ってんじゃねえ、ヨサク」
「へ……あっ、すんません、兄貴。つい本音が……」
「ヨサク!」
「まァ、そうがめつくなんなよ。おもしれェじゃねえか、ケツの青いガキどもがヤクザに喧嘩売るたァ……」
カチン、と音を立てて、刃は白塗りの鞘に収められた。
「うちの下に入るならそれで良し、抵抗するってんならそれもおもしれェ。俺ァ、割と子供好きなんだ」
にやりと笑うゾロに、ひぃ、と舎弟2人は背筋を凍らせた。
鷹目会の幹部会議で、数週間前、列席する強面共の顔を更に恐ろしく変えた話題がある。
組員数人が、街でたむろするカラーギャングに襲われ、病院送りにされたという話……。しかも、報復に行った者まで返り討ちにあったというのだから、ただ事ではない。各々懐中の獲物に手を掛け色めき立つ幹部たちの中で、唯一顔色を変えていなかったのが、組長であるミホークと、ゾロだった。
「そのやられた奴は今、どうしている」
静かだが確かにドスの効いた口調で、ミホークが言った。
「へえ……それが、全治半年、治ってもこの商売続けられるかどうか……」
「そうか」
表情筋をぴくりとも動かさないまま、一言そう言うとミホークは立ち上がった。
「そのガキども、いってェどうしてやろうか……」
苦々しげにそう漏らした幹部の1人に、ミホークがちらりと視線を向ける。
「指を詰めさせろ」
「それだけで済ますんで……」
「ガキどもでなく、病院で寝てる軟弱なウサギどもよ」
「え……じゃ、じゃあガキどもは」
「知らん」
そう言ったきり、ミホークはざわめく室内をものともせず、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「いってえどういうこった……」
騒ぎ立てる幹部たちの中、ゾロだけが静かに目を閉じていた。