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牽牛と織女 (Fairy Tales epi.2夏候惇)

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「先日徐州から届いた書簡を取ってきてくれぬか。侍女が間違えて書庫に入れてしまったようなのだが、あまり人目に触れさせたいものではなくてな」

 それはつまり、自分になら見られても良いということだ。尊敬する主君・曹操にそう言われて否やを言う夏候惇ではない。すぐに取って参りますと返事をした彼は早速書庫に向かい、その扉を開いた。否、開こうとした。
 彼が扉を開けるよりも早く扉は勝手に開き――そのそばに立つのは、小柄な体。以前は己の偏見に囚われていたこともあったが、今では夏候惇が誰よりも信頼する曹操軍の武将であり、彼の唯一無二の恋人だ。関羽は扉の脇に立つのが誰か認めると驚いたように目を大きくさせたが、すぐににこっと笑った。

「夏候惇、書庫に用事?」
「ああ、曹操様のご命令でな。お前は? 今日は休みのはずだろう。調べ物でもしていたのか?」
「ええと、そのつもりだったのだけれど」
「? なんだ、資料がなかったか?」

 わからない、と関羽は首を振る。夏候惇はその微妙な態度が気にはなったが、今は曹操様の用が先だ、と考え直した。

「関羽、ここに侍女が来なかったか?」
「侍女さんが? いいえ、見ていないけれど……どうしたの?」
「ならばすれ違ったか。徐州から来た書簡が要るのだが、侍女が間違えてここに放り込んだらしくてな。それを探しに来たのだが……」

 ここの書庫にはあらゆる資料が集まっている。夏候惇はそれなりにどこに何があるのかを把握しているが、他人が好き勝手に置いていったものなら話は別だ。関羽も見ていないのならすれ違ったのだろうと、夏候惇は書庫の中に入り込んだ。墨の染み込んだ紙の匂いが、かすかに鼻をつく。
 夏候惇から半歩ほど後ろの位置で、関羽が尋ねてくる。

「どんな書簡なの?」
「さあ、俺も詳しくは知らぬが……徐州から来たものなら、すぐわかるだろう」
「んー……あ、ねえ、あそこの山になっている中にあるんじゃないかしら。見覚えがないもの」