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牽牛と織女 (Fairy Tales epi.2夏候惇)

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 関羽が指差したのは、出入り口から少し離れたところにある小さめの卓の上だ。書簡や信書らしきものの類が積まれている。たしかに怪しい。

「そうだな。ではあれを探すか」
「わたしも手伝うわ。二人で探したほうが早いでしょう?」

 一瞬、夏候惇は曹操の言葉を思い出した。「あまり人目に触れさせたいものではない」。だがしかし、すでに曹操軍の武将という扱いを受けているこいつならば問題ないはずだ。それに本来ならば休日であるはずなのに、嫌な顔ひとつしない関羽の気質は、夏候惇には非常に好ましいものだった。

「では、頼む。俺は右側を探す」
「わたしは左側ね」

 ふたりで卓の前に立つと、一気に距離が縮まった。そう大きな卓ではないのだから当たり前なのだが、すぐ横の関羽の気配に、夏候惇はともすれば気をとられそうになってしまう。その上ここは書庫ゆえに窓もなく薄暗い部屋であることを今更ながら思い出して、その動揺から思わず夏候惇は手にしていた書簡を取り落としてしまった。そのはずみで、他にもいくつかの書簡が床に散らばる。

「夏候惇? どうかした?」
「な、何でもない!」
「……そう?」

 関羽の頭上の疑問符が見えるようだったが、まさか「おまえを意識していた」などと答えられる夏候惇ではない。動揺から抜け出せないままの夏候惇だったが、関羽は追求しないことにしたのか彼の代わりにしゃがみこんで、散らばった書簡を拾い集めていく。その作業が終わる頃には夏候惇の金縛りも解け、立ち上がろうとする関羽に手を差し出した。それに引っ張られて立ち上がり、また目線の近くなった彼女が、はにかんだように笑みを浮かべる。

「ありがとう」
「……っ……」
「?」
「…………」
「…………」

 その笑顔に一瞬見とれてしまった夏候惇は、関羽の手を放す機会を失してしまった。今更振り払うのもおかしい、というか彼女に対して既にそういう思考は働かなくなっている現在、夏候惇はどうするべきか思いつかない。そもそもこいつは何を考えているのだと関羽を盗み見ると、その瞳はどこか焦点があわずぼんやりしていた。
 おい、と声をかけようとしたところで、関羽が先に口を開いた。