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牽牛と織女 (Fairy Tales epi.2夏候惇)

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 自分で思ったよりも弱々しく、そして優しげな声が出た。関羽の体がぴくりと反応し、やがてゆっくりと関羽が夏候惇を見つめる。夜空をそのまま閉じこめたようなその双眸は、かすかに熱と水気を孕んでいた。ふっと夏候惇は微笑むと、再び関羽に身を寄せる。びくりと震えた彼女に内心苦笑しながら、その額に唇を落とす。彼女が体から力を抜いたのが分かった。

「……扉、開いたままよ」

 それでもこんな風に、気丈に言い返してくる、この娘が愛しい。わかってる、そう短く返事をすると、夏候惇はそのまま唇を下げ、関羽のそれに重ねる。今度は彼女も震えることなく、ゆっくりと彼の求めに応えた。そんな反応も愛しくて、このまま部屋に連れ帰ってしまいたくなったが、まだ自分には仕事が残っている。名残惜しく思いながらもそっと体を離すと、関羽も何かを悟ったのかじっと夏候惇を見つめた。

「……そろそろ戻る。お前もさっさと部屋に戻れ」
「ええ……」

 書棚の背に身を預けたままの関羽が、書庫から出ようとしてる自分を目で追っているのがわかった。扉の前で振り返ると夏候惇は、忘れていた、と関羽を振り返った。

「約束は約束だからな。……続きは夜だ」

 関羽が何か言う前に、夏候惇は扉をぴしゃりと閉めた。これでは言い逃げか、それとも勝ち逃げか。戦以外では逃げてばかり、というのもあながち間違っていないのかもしれない、といつかのことを思い出しながら、夏候惇は書庫から去っていった。



 後日、例の武官からあっという間に広がった噂により、しばらく周囲から妙に温かい目で見られる二人だったが、それはまた別の話だ。